いろいろな映画を観て、自分の感想を言える子どもになってほしい
「キンダー・フィルム・フェスティバル」が、そのきっかけになれば
ー 2013年も「キンダー・フィルム・フェスティバル」にゲスト出演されますが、どのような思いで参加されていますか?
映画にはいろいろな種類やジャンルがあるんだということを、子どもたちに知ってほしいですね。CMで宣伝するような、お金をかけた大作も映画ですが、文化や生活様式、宗教に対する考え方なども異なるいろいろな国や人々から発想が生まれ、つくりあげてくる10分、15分の映画というものもあって、物事にはいろいろな捉え方や考え方があるということ、そしてそこから、自分はどれがおもしろかったかを見つけてほしいと思っています。
「みんながおもしろいと言っているからおもしろい」のではなく、「私はこれがおもしろい」と言える子どもになってほしい。みんなに合わせることが大切なときもあるけれど、自分の意見を言えないと、どこかで苦しくなってしまう。それは大人になって、社会に出てからもそうですよね。なんで私はこの作品が好きなのか、そしてなぜ嫌いなのか、それを「みんながそうだから」という理由ではなく、言えるようになってほしいと思っています。もちろん、そんな説教じみた感じで映画を観てほしいということではなく、「キンダー・フィルム・フェスティバル」が、自然とそういう考え方をするきっかけになってくれるといいですね。
ー 気になっている作品はありますか?
いろいろなものを自分のふるいに入れて、「さぁ私の中に残るものは何でしょう?」、そしてそれは他の人と違っていててもいいんじゃない、という、そういう映画の観方をしてほしい。このフェスティバルに出てくる作品は、すでに多くの人が観て“いい”と思って集められ、発表される作品なので、当然それぞれ魅力があると思います。しかしその魅力はひとつひとつ異なるし、ハッピーなものも、シュールなものもあり、自分に合う合わないもある。
今回は今の時代を象徴しているような、同性愛を題材にしている作品もあり、同性愛の目覚めみたいなものを、子どもたちはどう捉えるのか。大人になって同性愛であることをカミングアウトする方は多いけれど、目覚めは子どものときに訪れている方も多いので、同性愛に対する大人の捉え方と子どもの捉え方は違うかもしれない。同性愛に対する善し悪しではなく、自分はどう捉えるか、自分の考えや他人の考えに気がつくことが大切ですよね。
「子ども向け映画」というジャンルは大人が決めていることであって、大人が子どもたちに何を見せてあげられるかが大切だと思います。でも、大人が観せたい映画と、子どもが興味を持つ映画は違いますし、大人が観せたくないものを観たかったりしますが、いろいろな映画を自分で選んで楽しめる「キンダー・フィルム・フェスティバル」のようなイベントは、子どもたちにとってもとてもいい機会だと思います。
見所は生で吹き替えをする「ライブシネマ」
緊張して冷や汗をかいています
ー 今年のキンダー・フィルム・フェスティバルの見所はどこですか?
今までは1作品だけだったのですが、今回は4作品の「ライブシネマ」をやります。みなさんの前で、映像を観ながら生で吹き替えをするのですが、映画の吹き替えって、こうやってやるんだと、なかなか見る機会のない仕事を、ぜひ見てほしいですね。普通の映画館では見られないものですから。
しかし、毎年1作でもとても嫌な汗をかくのに、それが今回は4作。生放送で「1分で何かコメントを」とか「3分つないで」というのは自分の言葉なのでできるのですが、「ライブシネマ」の場合は作品があって、役があって、流れがあって、それを暗い中でやらないといけない。戸田恵子さんや他の共演者の方もいらして、みなさんのテンポやうまさに聞き入っていると乗り遅れちゃうし、僕が間違えると全員がズレちゃうので、恐ろしいですね。神経があっちこっち、いろんなところを気をつけなければならないのでぐったりします。でもそんなところも見ていただければ。こんな緊張感を感じられるのも、キンダー・フィルム・フェスティバルならでは、です。
ー 練習するんですか?
DVDを何度も観て、巻き戻して、練習します。出演者同士が画面に出ているような会話はわかりやすいのですが、たとえばドアの向こうから話すときなどは、話をはじめるきっかけが難しいんですよね。タイミングが少しズレても違和感が出てしまうんです。だからこの映像が現れてから何秒とか、間を記憶するしかないんです。録音の吹き替えだと合図を出してもらえますが、生だと合図はないし、見逃すと映像は流れて行っちゃう。そうするとセリフがなくなってしまう。生にはそういう怖さがあるんです。これから特訓しないと、本番には挑めないですね。
キンダー・フィルム・フェスティバルに来たこの1日が
まるごと子どもたちのいい思い出として刻まれてほしい
ー 「ライブシネマ」以外のおすすめは?
子どもたちが吹き替えや映画の撮影を体験することもできますし、ジャグリングなどのいろいろなショー、駄菓子屋さんや世界中のご飯が食べられる屋台村などもあって、親子で1日中楽しめます。
あとは「明日、キンダー・フィルム・フェスティバルに行くんだ」という、前日や道中のワクワク感、そういうものが記憶に残ってくれればいいなと思っています。その日の暑さとか、匂いとかも。何十年後か、その子どもが大人になったとき、「キンダー・フィルム・フェスティバル」に気がついて、「あぁ、連れて行ってもらったな、暑かったな」とか、こんな香りがしたな、とか、その方に子どもが生まれたら、またそんな1日をつくってもらえたらな、と思っています。
人って自分がいい思い出に残っているものを、子どもにも体験してもらいたいと思うじゃないですか。だから、そんな1日にしてほしいですね。子どもって変なことを覚えてて、帰りに食べたラーメンがおいしかったとか、「え、そっち?」というような。でもそういう思い出のひとつになってほしい。そういうのって、すごく精神衛生上いいことだと思うんですよね。僕が子どものとき、家のそばにキンモクセイがあって、すごく嫌なことがあってもその香りを嗅ぐと、嫌なことを忘れられたんです。だから今でもキンモクセイの香りがするとその当時の思い出や感情が鮮やかに蘇るし、気持ちが穏やかになりますね。
ー 中山さんの最初の映画の思い出は?
群馬県藤岡市という田舎だったので映画館はひとつしかなく、そこで観た「東映まんがまつり」が最初の映画体験ですね。確か5本立てだったかな。「マジンガーZ」とかの絵の看板があったような気がいます。下が土で、大きなスクリーンと音の大きさの衝撃は、今でも覚えています。楽しさもあったけど、暗闇の怖さみたいなものもあったし、テレビで観るものと映画館で観るのとはまったく違う、特別なものでしたね。いつ、誰とどんな作品を観たかなど、そんなことも全部思い出に残っています。「キンダー・フィルム・フェスティバル」もそうですが、映画館で映画を観るということが、子どもたちにいい思い出として、少しでも刻まれればいいですね。
中山秀征
1967年生まれ、群馬県藤岡市出身。第30回 ベストファーザー イエローリボン賞 受賞。CX「ライオンのいただきます」でデビュー。ソロとしての活動を開始すると明るくスピード感あふれるトークで数多くの番組に出演。現在MCを務めるNTV「シューイチ」、CX「ウチくる!?」や「ほこたて」などのレギュラーに加え、2013年4月からNHK「仕事ハッケン伝」と「双方向クイズ 天下統一」がスタート。
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