“まぜこぜの社会”の実現を目指す「Get in touch」
ー 4月2日(火)に東京タワーで開催された「Warm Blue」の取材をさせていただきました。4月2日が世界自閉症啓発デーということ、そして「一般社団法人Get in touch」の存在もはじめて知りました。まずは「一般社団法人 Get in touch」はどんな団体なのか、教えてください。
「一般社団法人 Get in touch」は、誰のことも排除せず、いろいろな人が、もっと自然に、もっと気楽に、もっと自由に一緒にいられる、“まぜこぜ”の世の中をつくっていくことを目的としています。21年間(2013年現在)いろいろなボランティアをしてきてわかったことのひとつは、楽しいところに人は集まる、ということ。なのでライブやアートなど、ワクワクすることを開催し、人を集め、そこで啓発し、理解を広めていく。マイノリティであることは問題ではなく、問題は、この国の“人権”や“福祉”への認識の低さです。「啓発しますよ」と言うと誰も来てくれないですよね。「楽しんでください!」とお誘いし、おもしろがっていたら啓発されちゃった、みたいな。講演をしたりシンポジウムに集まるのは意識のある人やその関係者。なので普段講演やシンポジウム、デモに参加しない人、選挙に行かない人を巻き込みたい。“人ごと”だと思っている人を“自分ごと”にしたいんです。
悩みながらも“楽しく集う”という活動を始めた頃、東日本大震災が起こりました。持続的な活動が必要だと感じていた矢先、自閉症の子どもとそのご家族が、周囲に迷惑をかけることを気にして避難所にいられなかったという新聞記事を見つけ、調べてみると、たくさんの人たちがやんわりと排除されたり、迷惑をかけるからとご自身が遠慮したり、障がいのある人たちだけでなく、高齢者や外国の方など、マイノリティの人たちが追いつめられていることに愕然としました。
メディアの力は大きいので、被災地の中でも、そのようなマイノリティの人たちをフューチャーしたドキュメンタリーがつくれないかと番組制作者の方にお願いしたのですが、デリケートな問題でなかなか難しいと言われて。じゃあ、私たちが! と「一般社団法人 Get in touch」を立ち上げました。でも、私たちは支援をするんじゃありません。支援はする側とされる側でボーダーができてしまう。そうではなく、一緒に活動するんです。ライブやアートなど、見えない壁を“ひょい”と越えることを、色とりどりの人と一緒に。その中でお互いを理解し、社会を変えていく。「一般社団法人 Get in touch」は、そういう活動をしています。
ー Get in touch !のプロモーションビデオをつくるために、クラウドファウンディングで資金を集めていますね。
活動するにはお金という道具が必要になります。企業のみなさんにも協賛いただいていますが、より多くの人に私たちの活動を知って欲しい、つながって欲しいと思い、私たちのテーマソング「Get in touch !」のプロモーションビデオ(PV)制作と普及の資金集めを、クラウドファウンディングというネットでサポーターを募る形で試みてみました。
クラウドファウンディングは、ネット上で「Getオリジナルブルーキャンドル+缶バッジ」「東ちづるの直筆サイン&メッセージ入り著書『らいふ』」「BEAMSと『Get in touch』の限定コラボオリジナルTシャツ」、そして来年2月に予定しているサルサガムテープ with Get in touchの「お披露目パーティー&スペシャルライヴご招待(美味しいワインとお食事付き!)」などの商品を販売し、購入していただくとそれが私たちの活動資金になるというものです。私と宮本亜門さんと一緒にランチミーティングという商品は、ありがたいことにとても人気で、すぐに販売終了になりました。
集まったお金はPV制作とツアーの交通費に使わせていただきます。テーマソングを演奏するバリアフリーロックバンド「サルサガムテープ with Get in touch」は、20人以上の大所帯です。メンバーが多いので、交通費はけっこうかかるんですよ。「Get in touch」では、できるだけ「自腹を切ってのボランティアはしない、させない」と考えています。そうでなければ、お金に余裕のある人しか活動できなくなってしまいますから。本当はギャラも出したい。無償が素晴らしいとは思っていないので。お金という道具がボランティアの間でもちゃんと回った方がいいと思っていますが、今は体力がなく、ごめんなさいね、ですね。
ー それではその体力たるお金を得るために、どういうことを考えていますか?
今進めているのは、クラウドファウンディングにもあるBEAMSとのコラボTシャツのように、いろいろな企業とコラボ商品をつくり、それを販売したり、コラボ商品ではなくても、売り上げの一部をドネーションしていただいたりしています。「Get in touch」は協賛いただいていることを広くアピールすることで、双方にとってメリットのある関係をつくります。企業のCSR活動はとても盛んになってきているのですが、どこに力を注ぐかで悩んでいる企業は多いようです。あちらに協力すると、こちらには協力しないのかと言われてしまう。「Get in touch」はあらゆるNPOや団体とつながっていくというコンセプトですから、企業にとってはつながりやすいのかもしれません。
きっかけは21年前のドキュメンタリー番組、伝えたいことは何?
ー そもそも東さんがボランティア活動をはじめたのはなぜですか?
21年前(1992年)家で白血病の17歳の少年のドキュメンタリー番組を観ました。その番組のつくり方に疑問を感じたんです。泣かせられるけど、メッセージが伝わってこない。視聴率をとるためには…という番組制作側の理由も大事ですが、この少年はきっと何か言いたいことがあって出演したはずなのに、それを伝えられていないのは、とても残念だと感じて、その少年を探して電話したんです。そうしたら「骨髄バンク」を多くの人に知ってもらいたかったということだったんです。
しばらくしたら少年の妹さんから分厚い手紙が届いて、「治療法はあるのに、骨髄バンクのドナー登録が足りなくて治療を受けられない。先進国なのに…」と。「骨髄バンク」を啓発するポスターをつくりたい。東さんがモデルになって、制作してほしい。ただしお金はありませんと。「めっちゃ無理」と思ったんですけど、手紙の最後に「お兄ちゃんに死んでほしくない」と書かれていた。その気持ちは充分に届きました。つくるなら一流を! と、一流のカメラマン、スタイリスト、ヘアメイク、デザイナー、たくさんの方にお願いして、印刷代はみんなで少しずつお金を出して、ポスターをつくったんです。で、さて、ポスターを貼ろうといろいろなところへ持って行ったら、どこも貼ってくれないんです。そうか、貼ってもらうためには、理解してもらうしかないんだと思って、講演会やシンポジウムを開催するようになって、だんだんこうなっていったんです。気がついたらものすごい広がってた。
ひとつには私自身が表現者として、報道番組とかドキュメンタリーのあり方に疑問があったのも事実。だから、メディアにいる人間としてできることをしようと。使命とか、そういうことは思っていませんが。もうひとつは、自分自身のため。私や私の家族、大切な人がどんな状況になったときでも「しまった」と思わないように、そういう社会の方がいいなと思って。「やっときゃよかった」と後悔をしないように、何もしないよりは活動する方が気が楽というか。21年前にそのことを知ってしまったからね。溺れている人を見つけて、「あっ、見なかったことにしよう」なんてできないですよね。
ー 骨髄バンクからはじまって、あしなが育英会、障がい者アート、ドイツ平和村、在日外国人、その他にもいろいろやっていますが、それはなぜですか? 知ってしまうとやらずにいられないとか?
それもあるけど、実は全部ゴールは一緒なんですよ。人権です。すべての団体、活動している人たちのゴールは一緒なのに、バラバラになりがち。しかもマイノリティ団体は本当に大変なので、同じ主旨の団体同士でいがみ合うこともあるんです。満たされないので、そういうことに陥りやすいんです。障がいのあり方で比較してしまったり…。別の問題をつくる必要はない。ゴールはみんな、好きに生きたいということなんですよ。だから、こんなにバラバラにやらなくてもいいのになと、私が間に入ることでお互いに協力し合うような体制ができないかなと、以前から思っていました。「Get in touch」は、どの人権をメインにするかでイベントはアートだったり音楽だったり食べ物だったりと変わりますが、どの活動もすべて同じゴールにつながっているんです。
ー 東さんが間に入ることで、その状況は変わって来ますか?
最初の頃は、「東さんには、私たちの気持ちはわからない」と言われることもありました。自分自身に病気も障がいもない、近しい人にもいない。そんな人にはわからないと。最初はそれにすごく悩んで、私は関わらない方がいいのかなとも思いました。でもちょっと待てよ、わからない人とどうやって関わっていくかというのが大切なんじゃないかと。そこに気がついてからは、「あなたにはわからないと言われて、私はとても傷ついた。でも私のこの気持ちも、あなたにはわからないでしょっ?」と言えるようになった(笑)。
「私たちは、わからない者同士が、わかり合おうとする社会をつくっている」そのためなのに、「東さんにはわからない」と最初のところで排除しちゃったら、まったく前には進まない。「病気も障がいもない、なんとなく居心地の悪い私の気持ちもわからないでしょ」と笑いをとったり、そうやって本音をぶつけ合ってわかりあってきました。患者会などで自己紹介をすると、みんな病名から話し始めるんです。「今の私にはまだ病名はありません」と、芸能人だから冗談が通じるのかもしれません。その輪に入りづらいのは残念なこと。それで「まぜこぜ」でいられる社会がいいんだと思うようになったんです。
マイノリティの人がたくさんいて、その中に入ると数が逆転します。以前セクシャルマイノリティの人たちと家で飲んだときは、私がマイノリティでした。話していることも専門用語なんかがあって、まったくわからないわけではないんだけど、ちょっと馴染めない。でも彼らは普段、こういう気持ちで生きていているんだな。マジョリティの圧力って、ちょっとキツいなと感じたこともありました。どういう状態でも自分らしくいられるといいですよね。実はみんな何かしらマイノリティなんですよね。どんな状態でも誰もが楽に過ごせる社会がいいですよね。
■ 次は「親の言葉が子どもに与える影響」や、東さんが学校の講演で行う、親が衝撃を受けるアンケート結果について
【#子どもたちへ】東ちづるさんのおすすめを紹介! 子どもたちへのメッセージも! 新型コロナウィルス感染症による臨時休校・外出自粛要請 支援企画
らいふ
東ちづる著/講談社/1,260円(税込)
20年以上続けてきたボランティア活動、幅広い芸能生活を通して見つけた「優しさ・幸せ・楽しみ」とは? 泣いて、笑って、感動しての50年の珍道中は、自分らしく生き方を楽しむ方法を教えてくれた。読むと新しい一歩が踏み出せる、身近にある幸せと愛が見えてくるエッセイ。誰でもほっこりした気持ちになれる。
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東ちづる(あずまちづる)
広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。ドラマからコメンテーター、CM、講演、執筆など幅広く活躍中。プライベートでは、骨髄バンクやドイツ国際平和村、障がい者アート(アウトサイダーアート)のボランティア活動を20年以上続けている。2011年10月、アートや音楽などを通じて、あらゆるマイノリティを誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指す「一般社団法人 Get in touch」を設立、理事長に就任。
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