幼稚園での子どもたちの会話を観察
子どもたちの将来につながる英語教材を開発
ー ブリタニカ・ジャパンの幼児英語プログラム「Angie & Tony」(アンジー アンド トニー)に関わることになったきっかけは?
小学生が英語の勉強をすること自体はよいことだと思います。しかし小学校の授業や活動として英語を教えることができる教員を養成せずに、むやみやたらに子どもたちに英語をやらせても、そのやり方では長続きさせること、効果を出すことは難しいと思っています。言語を学ぶには早い方がいいと思いますが、「言語を勉強する」ということと、「学校で教科にする」ということは別問題です。必須教科にするには、きちんとトレーニングされた教員が必要ですね。
そんな私のところに、他国の英語教育の学者の方からブリタニカ・ジャパンが「Angie & Tony」を幼児英語プログラムとして導入しようと考えていると声をかけられました。私は小学校の英語教育導入に関しては反対派と思われているけれど、幼児英語教育の必要性は感じていますし、教育法も考えている。そのやり方を良いと思ってくれる企業があるなら協力したいと思いました。そして現実に即した、子どもたちの将来につながるものをつくろうと、このプロジェクトがスタートしたんです。
ー 小田先生は監修ということですが、具体的にはどんなことをされたんですか?
いろいろなタイプの幼稚園を何回も見に行って、たとえば手を洗っているときに園児たちはどんな会話をしているのかなど、園児たちの1日の様子を観察し、園の生活ですぐに使えるフレーズを取り入れました。年中行事のスケジュールも4月から翌年3月までの1年間に変更し、そこに日本の幼稚園で行われている行事を入れていきました。今、書店に並んでいる教材のなかには英米の行事などを説明なしに扱い、日本にあわせたものではなく、日本語で聞かれてもわからないようなことも載せていて、それがわからないと「英語がわからない」と結論づけてしまうことがあります。それは絶対に避けようと、そこには特にこだわって、日本の保育園、幼稚園、そして家庭で、子どもたちのまわりで起こりうる状況に合わせた内容を積み重ね、使う単語もかなり変更しました。
先入観で英語が聞こえなくなる!? そしてそれが人種差別の根源に
ー 子どもの英語教育は、どのような教育が良いのでしょうか? そして「Angie & Tony」はどのように使うと効果的ですか?
冒頭で「教員をトレーニングしていないのに小学校で英語を勉強するなんてもってのほか」とお話しましたが、これは幼稚園でも同じです。幼稚園でも英語教育に力を入れているところは多いですが、現状では2つのタイプにわかれます。
ひとつは“ネイティブスピーカー”という人を連れてきて、その人が教えます。欧米系の外見の方が来るとなんとなく英語教育をしているような気になってしまうんです。しかしその方が英語教育ができる資格を備えているかは、ほとんどの人が気にしていません。
これは大人にもあてはまりますが、生徒たちはその人の話す英語がわからないのは自分のせいだと思ってしまうんです。その人がネイティブスピーカーじゃなくても、です。ところがアジア系の方が英語を教えると、実は国籍はイギリスだったりするのですが、必ず生徒から「アクセントが悪くて理解できない」「わかりにくい」という苦情が出てくる。
私自身、以前ある実験をしてみました。英語の教員を目指す大学生を2つのグループに分け、アウンサン・スーチーさんとマーガレット・サッチャーさんが話している録音を聞かせるのですが、ひとつのグループには写真を見せながら、もうひとつのグループには音声のみを聞かせます。で、あなたはどちらの英語がわかりやすかったか、どちらの英語が理想的な英語かと質問すると、写真を見せないグループでは8割くらいの学生がスーチーさんと答えますが、写真を見たグループではそれが逆転します。これは、話す人の見かけで英語を聞いているということです。
言葉っていうのは、特に子どものころから勉強するのは視野を広げ、最終的にはコミュニケーションギャップをなくし、たくさんの人たちと意思疎通をすることで平和な世の中をつくるためなのに、下手をすれば英語教育が人種差別の根源になってしまいます。
英語に特化した先生しか使えないような教材ってけっこう多いんです。「ここはネイティブスピーカーが発音してみましょう」とか。でもそれでは教材の意味がないんです。「Angie & Tony」は、普段の子どもたちをよく知っている幼稚園の先生が自分たちでカスタマイズしながら使える教材にしたかった。それはもちろん親御さんでも同じです。子どもが家に帰ってきたときや、ご飯を食べる前に “Wash my hands.” と一緒に言ってみるとか、そういうことをしてほしい。そうすると、だんだんと今日は何があったとか、幼稚園での生活に即した教材なので、単語だけでも答えられたりしますよね。そうやって一緒に学んでほしいんですよね。
アジア圏で幼児英語教育に先んじている国の幼稚園もいくつか見学しましたよ。あるところは完全な英才教育タイプで、そこには英語のネイティブスピーカーがいたんですが、早口すぎて聞き取れませんでした。言語の教師がハッキリ話せないのはおかしい。だから言語を教えるトレーニングは受けてないなと気が付きました。で、その先生が「You don’t understand?」なんて苛立っているんですよ。担任の先生も萎縮しちゃってる。授業が終わると子どもたちは先生のところに行って抱きついたりして、怖かったんですよね。そんな幼稚園がひとつ。
もうひとつは団地みたいなところにあって、英語の先生もいるんですが、担任の先生を中心に英語は単語ぐらいしか使っていませんが、一緒に歌ったりして子どもたちはキャーキャー楽しんでる。そして子どもたちは見学している私たちを見つけると「Hello !」って話かけてくるんですよ。子どもたちの反応が英才教育の幼稚園とは違いますよね。どこの国の人でも「Hello !」って言ったら通じるだろうと思っているんですよね。英才教育のところはそんなことなかった。それを見て、やっぱり先生が大切で、そして日常がベースなんだと。先生が普段やっていることがちょっと英語で準備されていて、英語と日本語で積み重ねていけば、親御さんも使えることができ、結果、コミュニケーションをとるための英語が身に付くと思ったんです。
多くの教材は園で授業をするための教材ですが、「Angie & Tony」は園の生活の中で使える英語を教えるものになっています。幼児の生活は園が中心ですが、園でやることは家でもやるので、子どもたちは園でも家でも同じことができます。子どもの日常の中で、子どもが普段使う英語を意識しているんです。
ネイティブ信仰から脱却! 英語が話せなくても
幼稚園の先生、親御さんだからこそ最高の英語の先生に!
ー 先生や親御さんが英語を教えるとなると、こんな発音で教えていいのかと悩むと思いますが‥‥。
では、きれいな英語の発音って何ですか? ということですよ。私は英語を使っている人にわかる発音であればいいと思っています。発音を疎かにしていい、ということではありませんよ。幼稚園のお子さんくらいの場合は、そのお子さんのことをよくわかっている方が英語も教える方がいいんです。質問に答えられないお子さんが、英語がわからないから答えられないのか、恥ずかしいのか、それとも調子が悪いのか、その判断ができるんです。もちろん英語が堪能な方が幼稚園の先生なのが一番ですが、そんなにたくさんはいらっしゃらないですよね。
大学の教員採用を見ていても、モノリンガルという英語しか話せない人が英語の教師をやっていることが非常に多いんです。でもそういう先生だと、日本語を通して子どもたちが理解している能力をまったく利用できません。特に子どもはまだ世界が狭いので、子どもたちが日本語で理解していることを利用しない手はないんですよ。モノリンガルの先生は「日本語で聞かれてもわからない」ということをわからないんです。だから幼稚園の先生や親御さんは、子どもたちのことを良くわかっている、そして日本語ができるということを誇りにしながら、子どもたちに英語を教えてほしいですね。
それに考えてみていただきたいのは、私たちは日本語を話していますが、日本語をちゃんと教えられますか? 英語のすべてをわかっていないと英語を教えられないわけじゃないし、英語のネイティブスピーカーじゃなくても、流暢に英語で会話ができなくたって、子どもに英語を教えていいんです。「Angie & Tony」は幼児向けですから、子どもと一緒に楽しみながら、親御さんも英語を思い出してくれればいい。別に教えるためにあらかじめ勉強する必要もないんです。
ー 先ほどの先入観と同じですね。
そうなんですよ。日本語だって同じで、私は大学生に「標準の日本語って何ですか?」と聞くことがあります。「東京の山の手の日本語」という答えが返ってくることがあるのですが、東京にも江戸なまりが存在します。つまり日本語だって、自分のメッセージが伝わるものならいいんです。英語もそうですよね。インドはなまりがあるとか、シンガポールもなまっているとか、でも自分の日本語だってなまっているかもしれないけど、伝わっていますよね。大事なのはそういうことです。ネイティブ、ネイティブって、語学系の学校やメディアが植え付けた先入観でもありますね。
そもそもアメリカやイギリス、オーストラリアのように英語を母語とする人は、英語を話す人のうちのたった20%です。それ以外の80%は、インドやシンガポールのように母語ではありませんが第二言語として英語を使う人、日本のように外国語として英語を学習している人たちです。子どもたちがこれから出会うであろう英語の80%はノンネイティブスピーカーなんです。
ー 2020年には小学校で英語が教科になります。幼稚園のときに「Angie & Tony」をやっていると役に立ちますか?
子どものうちはどんな英語教材を使っても同じように見えるかもしれませんが、「Angie & Tony」は、小学校、中学校など、子どもたちが大きくなったときまで見据えているかなと思っています。これは私の願望かもしれませんが、子どもたちが成人になっても「Angie & Tony」が英語の基礎になっている、根本は意思疎通ができること、そんな教材を目指してつくっています。だからこそ、親御さんが子どもと一緒に「Angie & Tony」をやってくれるのは重要だと思っています。
■ 次ページは小田先生の驚きの英語習得法、大人の方への英語習得アドバイス!
幼児英語プログラム「Angie & Tony」
世界にネットワークを持つグローバル企業のブリタニカが、グローバルに活躍できる子どもたちを育成することを目指して開発した、幼稚園・保育園向けの幼児英語プログラム。「すべての幼稚園・保育園の子どもたちに英語の時間をプレゼントしたい」。そんな思いでつくった幼稚園教諭・保育士が主体の新しい英語プログラムです。
【 Angie & Tonyの3つの特徴】
① 担任の先生が主体!
② 保育中に使えるフレーズが満載!
③ 高品質・低予算が実現!
小田眞幸(おだ まさき)
玉川大学文学部卒業後に渡米、セントマイケルズ大学修士課程(MA in TESL/TEFL)、ジョージタウン大学博士課程(Ph.D. in Applied Linguistics)を修了後、同大学中国・日本語学科講師を経て、現在、玉川大学文学部教授、ELFセンター(CELF)長。専門は言語政策・言語計画、マスメディア論、批判的ディスコース研究。JACET学術交流担当理事、AsiaTEFL副会長、AILA言語政策部会アドバイザー。
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