書籍「子どもの才能を引き出す最高の学び プログラミング教育」著者・監修者
第33回 プロスタキッズ代表 石嶋洋平さん、安藤昇先生インタビュー!
プログラミングを普及させるため
打ち上げ花火で「STEAM」教育
ー 2018年8月11日(土)に開催された「東京花火大祭」で、プロスタキッズの子どもたちがプログラミングをした花火が打ち上げられました。自分たちでプログラミングした花火が打ち上がるのを見て、子どもたちの様子や感想はいかがでしたか?
石嶋洋平さん
意外と冷静で、「感動した!」というよりも「次はどうしよう」という感じでした。満足ではなく、“もっとこうしたい” と、次に向かっている子が多かったですね。
ー 花火というととてもアナログな感じがしますが、プログラミングとどんな関係があるんですか?
石嶋洋平さん
花火は「シーケンサー」というコンピュータで打ち上げの順番やタイミングを制御しているので、そこにはプログラミングが必要なんです。プログラムしたものを何度もコンピュータ上でシミュレーションし、修正や調整も行なっています。
ー 子どもたちがプログラミングした花火が打ち上げられるのは世界で初めてとのことで、花火打ち上げ当日には自民党の野田聖子衆議院議員も見学にいらしたそうですが、このようなイベントを行なったきっかけは?
石嶋洋平さん
プログラミングを普及させるためのイベントを行なっているので、花火はそのひとつです。花火以外にもドローンレースなども行なっています。
少し前まで「STEM(ステム)」教育が必要と言われていました。「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「数学(Mathematics)」の4つの理数系教育に力を入れ、科学技術やビジネスの国際競争力が高い人材を育てようというものです。そしてその本質は、知識を習得するだけではなく、“知識を活用する力を育成すること” です。
しかし今はそれに「Art(アート)」が追加され「STEAM(スティーム)」になっています。「teamLab(チームラボ)」や「Rhizomatiks Research(ライゾマティクス リサーチ)」のように、工学だけどアーティスティックという、そういうのが流行っていて、わかりやすく言うとteamLabのようなものがSTEAMの最先端ですね。
そして子どもたちが猫型ロボットや、そういうキャラクターの花火を打ち上げたいと言うので、打ち上げパターンのプログラミングとデザインという、まさしく “STEAM” の取り組みを行ないました。来年も引き続き行ないたいですし、日本全国、海外展開もしたいと思っています。
多くの人が勘違い!?
小学校で必須化のプログラミング教育
ー 2020年から小学校でプログラミング教育がはじまります。しかし多くの方が勘違いしていて、プログラミングの教科ができるわけではありません。それぞれの教科の中に少しずつプログラミングの要素が入るだけです。小学校のプログラミング教育は、何を目的にどのような形になるでしょうか?
安藤昇先生
文部科学省が提言しているのは、昔の「読み・書き・そろばん」の「そろばん」部分が「プログラミング」になるという感じです。
たとえば駅の自動改札は、人と荷物が通過しても、コンピュータが人がひとりと認識します。このように私たちの身近なものは、“プログラム” で実現されているものがたくさんある、ということをわかってもらうことが非常に重要で、新たに必須化して教科の中に取り入れて学んでいこうということです。
自動販売機もわかりやすい事例なので、小学校のプログラミングで取り上げられると思います。
ー 自動販売機はどちらかというとアナログな感じで動いていそうですが‥‥。
安藤昇先生
確かに、初期の自動販売機は中に人が入っているんじゃないかというくらい単純で、ボタンを押せば商品が出てくるというものでした。
しかし今では在庫管理を行ない、売筋によって陳列を変えたり、温度センサーと連動して温かい飲みものと冷たい飲みものの切り替えを行なったり、災害時には飲みものが無料になるというプログラムがなされています。
ネットワークも構築されていて、商品が足りなくなれば自動的に配送センターに連絡したり、自動販売機で活用されている「アルゴリズム(問題解決のための方法や手順)」や「プログラム(コンピュータに処理をさせるための指示書)」は、小学生から大学院生までのプログラミングの勉強に使えるほど幅広く、非常に奥が深い分野なんです。
また自動販売機はデータの収集にも好都合です。最近、駅に置いてある飲み物の自動販売機には顔認証システムが付いていて、購入者の年齢によっておすすめ商品を表示するものもあります。これは購入者の顔のビッグデータからAIが年齢を解析し、この年齢の方は「コーヒーが好み」などと判断して、おすすめを表示します。生産管理にも役立ちますね。
ー そうすると今、人がやっていることはデータを見ることと商品の補充、お金や缶、ペットボトルの回収くらいでしょうか?
安藤昇先生
電子マネーになるとお金の回収は必要なくなります。中国ではそうなりつつありますよね。すべて電子化される未来がまもなく来ます。商品も、そのうち自動販売機の中で生産できるようになるかもしれないですね。
プログラミングも “言語”
小さい頃から慣れ親しむことが重要
ー 書籍「子どもの才能を引き出す最高の学び プログラミング教育」には、プログラミングに向く子の条件が書いてありますが、子どもたちにプログラミングに対する苦手意識や拒否反応はありますか?
安藤昇先生
特に小さい子はありませんし、ゲームをつくりたいという目標がある子などは、夢中になって取り組みます。
それにすぐにプログラムのコードを書くわけではありません。最初は命令をわかりやすくひとまとめにしたブロック型の言語を使い、そのブロックを積み上げることで簡単なプログラムをつくり、思った通りに動く楽しさを学びます。
しかし複雑な命令になるとブロックを積み上げて制御することが難しくなりますし、そのやり方では手間がかかって面倒になってきます。
ところがコードなら1行の命令を書くだけでブロックの配置が変わったり、思い通りの命令を実行できるんです。これによってコーディング(プログラミング言語で命令文を書くこと。書かれたテキストは「ソースコード」「ソース」「コード」などと呼ばれる)の有効性を知り、自然と次のステップへ進むようにしています。
プログラミングも “言語” なので、日本語が話せる、英語が話せるというのと同じで、小さい頃から慣れ親しむことが重要だと思います。
プログラミングで養う「論理的思考力」
目標達成までの最短の方法を自ら考える
ー プログラミングは「論理的思考力」を養うということで小学校にも導入されますが、実生活ではどんなところに役立つでしょうか?
安藤昇先生
大人の話を聞いていてもわかりますが、論理的に話していると思っても、途中から感情論になっていたりします。今、社会で問題になっていることの多くは感情論に訴えることが多いですが、プログラミングの世界には感情はなく論理的に進むので、そこをしっかりと見抜ける力、ごまかしや嘘を見抜く力がつくと思います。
また、感情と思考とを分けて考えることができるようになるため、感情が入るとすんなりいかないことも、冷静に早く処理できるようになります。好き嫌いで「やる」「やらない」を決めなくなったりもしますね。
ー 書籍で大リーグのイチロー選手、サッカーの本田圭佑選手、ゴルフの石川遼選手の小学校時代の卒業文集に書かれた将来の夢についての作文や、大リーグの大谷翔平選手の目標設計の「目標達成シート」が掲載されていますが、大谷選手のシートの緻密さには本当に驚きました。しかし、おそらくですが、どの選手も子どもの頃にプログラミングは学んでいないと思います。それでも論理的思考ができているのはなぜだと思いますか?
石嶋洋平さん
目標があって、そこに最短で行き着くためにはどうしたらいかということを、小さいときから考えていたんでしょうね。どの選手の作文にも、いつ、どのようになるためには、いつまでに何をやるかを明確に書いています。また大谷選手の「目標達成シート」は「マンダラチャート」とも呼ばれますが、高校時代の監督、佐々木洋氏からの教えでつくったものだそうです。
安藤昇先生
イチロー選手はトレーニングをしたあと何分後にカロリーを摂取すると一番吸収されやすいとかスポーツを科学的に考えているんですね。そしてそれはとても論理的なものです。何かを突き詰めようとか、一番をめざそうと思ったときには、やはり感情や欲を除外した科学的、論理的な思考がないと、そこにはたどり着けないということだとも思います。
小さい頃はいろいろな遊びを通して
何度も失敗を体験することが大切
ー 小学校でプログラミングが必須化されるまでは何をしたらいいですか?
安藤昇先生
プログラミングは「トライ アンド エラー」「スクラップ アンド ビルド」で積み上げていくものです。だから小さいときにいろいろな遊びの中で失敗を繰り返すこと、失敗に慣れておくことがとても大切です。
今はなるべく “失敗させないように” という風潮ですが、友だちとケンカして人間関係が悪くなるという経験をしてもよくて、遊んで、失敗して泣いて、怒られてっていうのが、プログラミングをやるときに、原因を究明し、どうやれば次は良くなるかを考えることにつながります。
冒頭の花火のプログラミングをした子どもたちも、自分がプログラミングをした花火を見ながら「次はどうしよう」と考えていて、非常にすばらしいですよね。満足したら終わりです。次をより良くするために考えること、創意工夫が重要なんです。
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石嶋洋平(いしじま ようへい)
株式会社ミスターフュージョン代表取締役。プロスタキッズ代表。東京花火大祭制作委員会委員長。1981年生まれ。株式会社ミスターフュージョンを設立。有名アーティスト、有名企業のWEBプロデュースを手がける。また、WEBマーケティングコンサルタントとして企業のアクセス解析を行ない、幅広い業種業界でのWEBサイトの改善実績を持つ。「Google Excellent Performer Award最優秀賞」「Yahoo! JAPANプロモーション広告新規代理店賞第1位」「Googleプレミアムパートナーアワードモバイル部門日本第1位・顧客成長部門第3位」と数々の実績を持ち、WEBマーケティング関連のセミナーを年間70回以上開催。2017年4月に「すべてのヒトに創るチカラを」をビジョンとして、小学生向けプログラミング教室「プロスタキッズ」を設立。総務省の主催による「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業認定としてプログラミング教育も行なっている。2018年8月に「東京花火大祭」で子どもたちがプログラミングした花火が世界で初めて打ち上げられる仕掛け人でもある。
■ 株式会社ミスターフュージョン
■ 小学生向けプログラミング教室「プロスタキッズ」
安藤 昇(あんどう のぼる)
佐野日本大学中等教育・高等学校ICT教育推進室室長。1968年栃木県生まれ。日本大学理工学部物理学科を卒業後、理科教諭として佐野日大高校に勤務。現在は数学・情報を教える傍ら剣道部、放送部を全国大会に導く。コンピュータプログラミングとクリエイティブ能力に優れ、全国大会の試合運営システムの開発やタブレットを題材とした動画CM「デジタルキャンパス物語」をネットに配信し人気を博している。また、佐野日大に導入した1,500台のタブレットの運用に耐えうるWi-Fiインフラの設計およびオープンソースによる生徒用グループウェアの構築も手掛けている。2017年にはデジタル放映部&ドローン部を設立。中高生とは思えぬドローンを使用した高度な空撮技術は多方面から注目されている。ICTをさりげなく、しかし最大限に活用し、学校教育を改革し続けるイノベーターである。
子どもの才能を引き出す最高の学び プログラミング教育
石嶋洋平(著)/安藤 昇(監修)
あさ出版 1,500円+税
子どもたちの未来は先行き不透明です。急速な情報化や技術革新は、私たちの生活を質的にも変化させつつあります。将来の変化を予測することが困難な時代だからこそ、必要なのは「論理的思考力」。論理的に考えることができれば、時代がどのように変わっても物事の本質を読み解くことができるからです。そして、プログラミングによって身につく力のひとつ、がこの「論理的思考力」です。
目標設計力、問題解決力、数学思考、協働する力、創造性ーAI時代に不可欠な「自ら創る力」の育て方を紹介。
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