知ってほしい! 南極と北極はこんなに違う!
意外と知らない、南極と北極の違い
ー 書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』には、知っているようで知らないことがたくさん、やさしく丁寧に書いてあり、とても楽しく読ませていただきました。知らないことが多くて大人として恥ずかしいと思いましたが、中山さんが2003年にはじめて南極に行くことが決まったとき、多くの方から「シロクマに気をつけて」と言われたとか。みなさんそれくらいの認識なのかと、ちょっと安心しました(笑)。考えてみると「ナンキョクグマ」というのは聞いたことないですよね。
あちこちの講演で、よく「北極と南極はどっちが寒いでしょう?」という質問をするんですが、「同じくらい」の次に「北極の方が寒い」という答えが多いんです。やっぱり日本人は “北の方が寒い” というイメージがありますね。ちょっと考えると「南極」という答えが出てくるんですが、意外と大人も「北極の方が寒い」と思っている人は多いんですよ。
漢字にルビがふってあったり、イラストや写真もたくさんあるので子ども向けの本ではありますが、お子さん向けだけではないんです。大人の方にも向けて解説しているので、ぜひ一緒に読んでほしいですね。どちらも知らなかった、ということがあると話も弾んで楽しいと思います。
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ー 本書を書いたきっかけは?
これまで南極に2回(2003年11月〜2005年3月まで第45次南極観測越冬隊に、2009年11月〜2010年3月まで第51次夏隊セールロンダーネ山地地学調査隊に同行)、北極には7回行って、両方を体験すると大きな違いを感じるんです。でも世の中のほとんどの人は、どちらも “雪と氷の極寒の世界” という認識です。確かに似ているところはありますが、私にとっては “すごく違う場所” なんです。
講演などでは話しているのですが、もっと多くの子どもたちに伝えたいと思って、南極と北極を一緒にした本にしました。難しいことではなく、子どもたちがおもしろがって、まさにタイトルのように「へぇ〜」という気づきや驚きを感じてくれればいいなと思っています。
ー 南極と北極の一番の違いは何ですか?
やっぱり寒さが一番わかりやすいかな。「同じくらい」とか、「北の方が寒い」と思っている人が多いですが、実際には格段に南極の方が寒いんですよね。最低気温が北極がマイナス60度くらいだとすると、南極の最低気温はマイナス90度近くで、全然違います。
北極圏には何千年も前から先住民がいて、そこには生活や文化、歴史があります。一方、南極ははるか遠くにあって人を隔てていて、人間が行きはじめたのは、そんなに昔のことではありません※。人との関わりを感じられる北極と、まったく人が入っていなかった南極、というところも大きな違いです。
だから南極では簡単に動物の写真が撮れるんです。人間に対する警戒心が薄いので、ペンギンでもアザラシでも目の前でゴロゴロしています。でも北極の生き物は、はるか遠くから見つけても、すぐに逃げてしまいます。“ぼ〜っ” としてたら猟師に捕られちゃうし、シロクマにも襲われる。だから人間も動物も、南極と北極ではまったく違いますね。
※南極大陸は1820年に発見され、1839年からさまざまな国による南極探検がはじまり、初の南極点到達はロアール・アムンセン率いるノルウェー探検隊によって1911年12月に達成された。
人間は生物のなかで一番の愚か者?
南極のようにすべての地域を戦争のない世界に
ー 書籍に書かれていますが「南極はどこの国の領土でもない」というのも素晴らしいですね。戦争が起こったこともない。宇宙には「宇宙条約※」がありますが、軍事利用や資源開発など南極と同じとは言い難くなっています。南極以外の地域にも争いのない世界を広げていくには、どうしたらいいでしょう?
南極は「南極条約※」で守られています。「南極条約」のすごいところって、人間の欲を最初に止めちゃったところです。つまりここを領土にしたいとか、資源開発や軍事利用したいとか、人間の “我” の部分をそぎ落とした。そうしたら紛争がなくなるという、すごくシンプルな話なんですよね。南極ではできているのに世界中でできていないのは、人間はなんて愚かなんだろうと思いますね。
ー 宇宙飛行士はものすごい訓練を経て選ばれた方々で、みなさん人間性が素晴らしい。それこそ “我” を感じません。南極などの極地に行かれる方も同じように素晴らしい人間性の方々で、そうじゃないと、さまざまな国の人たちが争わずに一緒に仲良くやっていくことはできないのでしょうか?
南極に行くからって人間性が素晴らしいということはありませんよ(笑)。そんな高尚なことじゃなくて、46億年という歴史ある地球的な視点から見れば、人間はそのなかの生物のたったひとつで、人間のなかでの差なんてあまりにも小さい。その小さななかで、国や人種、文化や宗教が違うとか、そしてそこで区別や差別をしたり、偏見を持ったりするのってバカらしいと思うんですよね。
人間だけが無駄な争い、殺戮をします。もちろん動物にも争いはありますが、それは生きていくためのなわばり争いだったり、子孫を残すためで、無用な争いはしません。人間って動物のなかで一番高等だと思っているところから間違えているというか、改めた方がいいですよね。実は一番愚かかもしれない。
みんな自分たちの尺度で考えてしまっているんでしょうね。人間はこうだから、こういうことができない生き物は下等だとか、劣っているとか。そして人間同士でもそれぞれの尺度で国や文化、学校の成績も比べて、偉いとか、すごいって言っています。でも比べるって、しょせん誰かがつくった誰かの基準で、人間がつくったものなんです。それをなくせば上とか下とか、偉いとかすごいとかって、ないんじゃないかなって思います。
※南極条約:南極地域の平和的利用や領有権凍結等を定めた多国間条約。1959年に日、米、英、仏、ソ連(当時)等12ヵ国により採択され、1961年に発効。2016年2月現在、締約国数は53。
※宇宙条約:1967年に発効した宇宙空間の利用を定めた条約で、特定の国家による領有を禁じているほか、大量破壊兵器の配備を禁じるなど平和利用の原則をうたい、100ヵ国以上が同意。しかし資源探査についての明確な規定はなく、企業など非政府団体の活動については国が監督義務を負うとしている。なお米国のオバマ大統領(当時)は2015年、米国籍の個人と米国に本社を置く法人による宇宙資源の商業利用を認める法案「宇宙法」に署名した。
子どものころから変わらない
知らない世界に飛び込みたい、知りたい!
ー 新聞記者、ジャーナリストになったきっかけは?
好奇心が旺盛で、自分の知らないところに行ってみたいとか、やってみたいというのが子どものころから強かったですね。よく読んでいたのも『ナルニア国物語』『指輪物語』『長くつ下のピッピ』などの冒険ものやファンタジーの本が大好きでした。
外国語に興味を持ったのも、はるか遠く地球の裏側にまで行って、全然違う言葉でコミュニケーションをしてみたいというのがあったからです。知らない世界に飛び込みたい、知りたい、挑戦したい。それは私の根っこにあるもので、子どものころからずっと、いまも続いていると思う(笑)。
ー そこで見たものを伝えたいという思いも強いのですか?
最初は旅行で山や海、だんだん海外にも行くようになり、みなさんと同じように感動したりしていましたが、南極、北極に行くようになったとき、極地は誰しもが行ける場所ではないので、そこで見たこと、すごいこと、驚いたことを、100%は共感していただけないかもしれないけど、伝えたいなと思いました。
報道の仕事をしているので記事やテレビを通して映像でも伝えてきましたが、講演などで子どもたちに話したり、いろいろな形でもっと多くの人に伝えたいと思っています。そして私が伝えたことに「へぇ〜」って興味を持って、今度はその子どもたち自身が何か興味を持てることを発見することにつながると嬉しいです。
あまり否定してはいけないけれど、いまはスマートフォンやパソコンから、簡単にいろいろな情報を得ることができ、それで満足してしまいます。でも何かで読んで得た知識と、自分の体験からのインプットや思い出って、まったく情報量や熱が違うじゃないですか。南極や北極のように遠くじゃなくても、身のまわりの川とか山、林のなかでも何か興味を持てることを見つけることはできます。自分の体を動かしたことによる刺激や興奮、感動を、もっともっと子どもたちに知ってほしいなと思っています。
突然の「南極取材」
どんな人が南極に行ける?
ー 南極に行くのは望んでいたことではなく、突然、そして “偶然” ですよね。どう思われましたか?
北海道やアラスカには行ってみたいと思っていましたが、南極は行けるところと思っていなかったので、自分の考えの範疇にないことを突然言われたのでびっくりした半面、そんなところに行けるなら、なんでもいいから “行きたい!” と思いました。
ー なぜ中山さんに南極行きの白羽の矢が当たったのでしょうか? 南極越冬に耐えられる素質みたいなものを、上司の方はどこに見出したんですか?
社会部の新米記者だったとき、“一番機” と言って事故や災害の現場に真っ先に駆けつけていました。災害救助の取材でその場から離れられないときはダンボールを布団がわりに寝たり、そういうことを平気でやっていました。
また2001年の同時多発テロの長期連載『テロリストの軌跡』でテロリストの足跡を辿っていたら、本当にテロリストに辿り着いて、その人を夜討ち朝駆けの取材をしていました。これは知らずにやっていた結果論なのですが、そういう経験をしていたから、「こいつはどこに行っても生き延びていけそうなしぶといヤツ」というイメージがあったのではないかな(笑)。
祝! 第61次南極観測越冬隊に参加決定!
現地からリアルタイムの報道を
ー 第45次南極観測隊で越冬を体験し、その後、北極に、そしてまた第51次南極観測の夏隊に参加、さらに2019年11月27日(水)に出発する3度目の南極「第61次南極観測越冬隊」に参加することが決まりました。それは志願して行くのですか?
そうです。南極から帰ってから、講演やイベントで全国をまわって南極の話ばかりしていたので、北極も知って、両方の話をしたいなと思ったのがきっかけです。もちろん会社の仕事として行っているので、今回の取材ではこんな写真が撮れるとか、こんなことができるとか、毎回大風呂敷を広げて行かせてもらえるよう会社を説得しています(笑)。
なので仕事に対してはやはりプレッシャーはあります。何回も行っているので、いままで自分がやってきたことを越えなければなりません。でも正直、単純に “行きたい!” という想いもありますね。
第45次南極観測越冬隊のときははじめての南極だったので、わからないことも多かったのですが、観測隊の活動をはじめ、観測内容、隊員や隊員を支える人たち、とにかくそこでのすべてが取材対象で、毎日報道していました。
昭和基地だけではなく、そこから1,000キロメートル離れた「ドームふじ」へ行くメンバーにもなり、食料の担当をしながら氷床掘削の取材記事も書きました(氷床掘削は2007年に最深部となる3,035mの氷の掘削に成功し、最深部は約72万年前。表面からそこまで72万年分の氷を分析すると、当時の気候など、地球の過去がわかる)。
2回目の第51次夏隊では、昭和基地から600〜700キロメートル離れた標高1,000〜3,000メートル前後の山が連なるセールロンダーネ山地で隕石探査を行ないました。1ヵ月半くらい、ずっと氷の上で生活しながら隕石を拾い集めます。隕石は宇宙を知る手がかりであり、太陽系の誕生の謎を解くカギでもあるんです。
次の3回目となる第61次南極観測越冬隊は、2回目の昭和基地での越冬です。前回とは違うことをやらなきゃいけないと思っています。ネット環境もよくなっているので、リアルタイムで映像を流すなど、現地からどんどん伝えていきたいですね。
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中山由美
朝日新聞記者。極地記者。ドイツ・チュービンゲン大学留学、1992年、東京外国語大学大学院修士課程(ドイツ語学専攻)修了。1993年朝日新聞社入社。2003年11月〜2005年3月まで第45次南極観測越冬隊に、2009年11月〜2010年3月まで第51次夏隊セールロンダーネ山地地学調査隊に同行。そして2019年11月27日(水)に出発する3度目の南極「第61次南極観測越冬隊」への参加が決定! 北極はグリーンランドやスバールバル諸島など7回、パタゴニアやヒマラヤの氷河も取材。2002年度、2012年度新聞協会賞、科学ジャーナリスト賞2012受賞。著書に『こちら南極 ただいまマイナス60度』『南極で宇宙をみつけた!』(草思社)がある。
環境ノンフィクションシリーズ
北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと
文・写真:中山由美
学研プラス(2019年7月30日発売)
1,400円(税別)
さて、質問です。「北極と南極、より寒いのはど〜っちだ?」「 氷の量はどちらが多いの?」「どんな動物がいるの?」など、実は知らないことがいっぱい! そしてふたつの極地を比べてみると、似ているようで違うところがいっぱい!
著者の朝日新聞記者である中山由美さんは、小学校などで講演するときに、子どもたちに聞くそうです。みんなよくわからなくて盛り上がるそう。
どちらが寒いかはもちろん、その理由を小学生にもわかりやすく説明してくれるのが本書。北極代表のホッキョクグマくんと、南極代表のアデリーペンギンちゃんに案内されながら、楽しく読み進めていくと、とても遠い存在だった「極地」が、自分たちの身近な問題に関わっていることがわかってきます。北極・南極の素晴らしさにふれながら、地球のことを見つめよう!
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