新型コロナウイルス感染症の影響で家にいることが多くなっているみなさんに、ゾウの化石や発掘のおもしろさがわかるアイテムや本を紹介しましょう。
コロナで大変なときだからこそ、目を地面の下に向けてはいかがでしょうか。
(2020年5月31日[日]公開)
まず、私が感銘を受けた本は、アメリカの古生物学者、ティラノサウルス・レックスの命名者であるヘンリー・フェアフィールド・オズボーン(1857年〜1935年)が書いた「長鼻類」という本です。
“長鼻類” とはゾウの仲間のことで、オズボーンは世界中のゾウの化石を研究し、ゾウの進化を明らかにしました。
2巻あって、第1巻が1936年、第2巻はオズボーンが亡くなったあとの1942年に発行されたかなり昔の本で、図書館でも見られない本です。
びっくりするのがその大きさです。縦27.2cm × 横33.3cm × 厚さ13.5cm、重さが11.5kg、全部で1,675ページもあります。リュックサックに入れないと持ち運べません。
英語で書かれていますが、中に描かれているゾウの復元図や化石の図を見ているだけでも楽しい本です。インターネットで見ることはできます。
https://archive.org/details/proboscideamonog01osbo/page/700/mode/2up
ゾウの化石に興味を持っている方は、ぜひのぞいてみるといいかと思います。ゾウ化石研究のバイブルです。小さな化石を一つ一つ丹念に調べて、時代ごとにゾウの進化を解き明かしていく作業は途方もない時間と労力がかかりますが、そこからわかってくることは、地球と生物の相互関係の歴史です。
新型コロナウイスルで外に出かけることも少ないですが、みなさんの住んでいる近くを少し散歩してみませんか? 車や人が多いところを避けて、大人の人と一緒に歩いてみましょう。
自分の家の下はどうなっているのか、考えたことありますか? 家のある地面は平らなところにありますが、周辺の地形は高い所や低い所、曲がっている所など、変化に富んでいます。そのとき役に立つのが、地形図です。おすすめは国土地理院発行の「2万5千分の1地形図」です。インターネットでも見られます。
https://maps.gsi.go.jp/
これで、みなさんの住んでいるところの地形図を眺めてみましょう。どこに山があり川があって、道路があり、線路がありますか? どうしてそこに山があって、川が流れているのでしょう? 考えたことありますか。
都会に住んでいる方は、坂道や崖があるところを探してみましょう。その場所の長い歴史がその地形に表れています。
どのようにしてみなさんの住んでいる場所ができたのか、わかると楽しいですね。私の先生の先生は、歩いただけで地面の下がどうなっているのかがわかる、と言っていたそうです。長い調査の経験を積んだ大先生ともなると、このような超能力のような力が備わるんですね。私たちが地面の下を調べるのに一番いい方法は発掘をすることです。
人の家の地面を勝手に掘ることはできません。地面を掘って発掘を体験できるところはいくつかありますが、小学生でも参加できるところでは長野県にある野尻湖の発掘があります。新型コロナウイルス感染症が収束したら、ぜひ野尻湖の発掘に参加してみてください。
ナウマンゾウの発掘のおもしろさを伝えてくれる本に「野尻湖のゾウ」(福音館書店)という絵本があります。野尻湖でナウマンゾウの発掘をしてきて、どのようなことがわかってきたのか、わかりやすく書いてあります。小学生から大人までみんなで発掘する楽しさも伝わってきます。
ここで全国の小学生や中学生のみなさんとめざしていることが、人類の化石を探すことです。4万年も昔にどのような人類が日本に住んでいたのでしょうか。発見されれば日本最古の人類化石になります。
もう少し詳しいことが知りたい方は「野尻湖のナウマンゾウ」(新日本出版社)という本もあります。野尻湖発掘のやり方や歴史、そしてどのような研究をすれば昔の地球環境を調べることができるのかを詳しく解説しています。特に野尻湖でナウマンゾウがいた4万年前の時代の環境を解明する研究が紹介されています。
250万年前から地球はだんだん寒くなり、寒い、暖かい、を何回も繰り返してきました。今、地球は温暖期ですが、しだいに寒冷期になってきます。このような気候変動が大きく変化する時代には、巨大な地震が起こったり、100年に一度の豪雨が発生したり、大きな火山が噴火したり、新しい病原菌が猛威をふるうということが起こりやすくなります。こうした地球の歴史の法則性を知ることは、これからの地球や新型コロナウィルスなどの病原菌とのつきあい方にヒントを与えてくれます。
地面を掘っていると、いろいろなものが見つかります。まれに化石もありますが、ほとんどの化石は硬い部分しか残りません。動物なら骨です。
骨って気持ち悪い、と思わないでください。骨はとってもおもしろく、いろいろなことを教えてくれます。
ネコやイヌを飼っている方も多いかと思いますが、みんな骨を持っています。ネコは頭が入るくらいの狭いところでもすり抜けることができますが、イヌや人間は頭が入っても体はすり抜けることはできません。なぜでしょう? ネコは鎖骨という骨が退化してほとんどなくなっているからです。
動物によってみんな骨の仕組みが違います。このことを楽しいイラストで解説した「くらべる骨格 動物図鑑」(新星出版社)という本は、骨の化石を勉強したい方におすすめです。
この本を持って動物園に行けば、家族みんなで楽しめますし、動物のこともわかるし、骨の勉強もできるし、動物の進化もわかって一石二鳥以上の楽しみ方ができます。
身近な地域の自然や動物たちから、その歴史を調べることによって、大きく環境が変化していく今の地球のことがわかり、これからどうなっていくのか、想像することができるようになります。
未来がどうなるか不安な時代だからこそ、このような本などで歴史的な見方、科学的にものを見る力を身につけてください。そして、自分の手で発掘をして、新しい発見をしてくれると嬉しいです。
1955年 東京生まれ。信州大学大学院博士課程終了理学博士。1984年 野尻湖ナウマンゾウ博物館開館当時から学芸員として勤務。2016年 野尻湖ナウマンゾウ博物館館長。学生時代から野尻湖発掘に携わり、現在、野尻湖発掘調査団の事務局を担当する。専門は、古脊椎動物学、第四紀学、日本各地のナウマンゾウの研究や古型マンモスの研究もすすめている。共著「最終氷期の自然と人類」「一万人の野尻湖発掘」「野尻湖のナウマンゾウ」など。企画展「マンモス展」古生物学監修。
野尻湖ナウマンゾウ博物館
http://nojiriko-museum.com
野尻湖発掘調査団
http://nojiriko-hakkutsu.info
【インタビュー】企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか- 古生物学監修、野尻湖ナウマンゾウ博物館館長 近藤洋一先生
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