歴史のおもしろさは、すべて “伝記” から教わった
ー 金谷先生が歴史好きになったきっかけは?
金谷俊一郎先生
歴史を好きになるきっかけはだいたい3つあります。ひとつは「戦国時代」、もうひとつは「幕末」、そして最後のひとつは「考古学」のような太古のロマン。でも私はそのいずれとも違いました。京都生まれだから、というのも違います。
子どものころ、自分で言うのもなんですが、いいとこのボンボンだったんです。祖父が東証一部上場企業の創業者で、父が2代目。昭和40年代にベンツが2台とリンカーンが1台ありました。私は長男で、3代目を継ぐ予定だったんですね。それが小学5年生のときに会社更生法が適用されて、創業者一族全員がクビになりました。その結果、ベンツ2台の生活から団地の4階、エレベーターなしになったんです。
それはいいとして、まだ裕福だった小学3年生のとき、私の部屋の本棚に見知らぬ本があることに気がついたんです。買った記憶はありませんでしたが、読んだらおもしろいんです。すごくおもしろかった。晩ご飯のときにそのことを話したら、普段は厳しくて絶対に笑わない父親の口角がちょっとあがったんです。本は、松下幸之助さんの伝記でした。
それからというもの、私の本棚に見知らぬ本がどんどん増えていったんです。で、そのラインアップがすごい。松下幸之助の次は岩崎弥太郎(三菱財閥創業者)、豊田佐吉(トヨタグループ創業者)、渋沢栄一(第一国立銀行や東京証券取引所など多種多様な企業の設立・経営に関わった実業家)、アンドリュー・カーネギー(カーネギー鉄鋼会社創業者)などなど。そうです。3代目の私に、帝王学として経営者の伝記を読ませていたわけです。
そんなこととはつゆ知らず、私はただただ伝記がおもしろくて、はじめて授業以外で学校の図書館に行ったんです。そして、経営者以外の伝記もあることに気がつくんです。ナイチンゲールとかヘレンケラー、野口英世とか。あるんです。たくさんの偉人の本が。「なんでこれを買ってくれなかったんだろう?」と、そのときはまだ親の意図はわかりませんでしたから、そう思いながら、図書館にある偉人の伝記を読み漁りました。
学校の本だけでは足りなくて、京都の市立図書館で学校にはない伝記を読み、そして府立図書館にも足を運んだけれど、もうだいたい読んでしまっている。そうしたら知らないおじさんが「ずっと伝記のところにいるね」と声をかけてきたんです。「ここにある本は全部読んでしまった」と言ったら、「ここにあるのが図書館の本の全部じゃないんだよ」って、その人は図書館の司書だったんですね。書庫から昔の伝記を持ってきてくれて、木村長門守(きむらながとみのかみ)や武内宿禰(たけうちすくね)、そういうのもほぼほぼ読んで、それが小学4年生のころです。
学校の授業がつまらない
歴史は “人間ドラマ”がおもしろい!
小学5年生になると、学校の社会科の授業で歴史がはじまるんです。学校で歴史をやってくれるんだと、ものすごく楽しみにして最初の授業を受けました。
「645年、中臣鎌足と中大兄皇子が『大化の改新』をやりました」
なんてつまらないんだ! って思いましたね。
中臣鎌足という人は、もともとは神道、神様のまつりごとをする家柄なんです。蘇我氏は仏教と組んで権力を握っていた。だから蘇我氏にとって、中臣鎌足は邪魔なんです。さらに中大兄皇子というのは、お父さんが舒明天皇(じょめいてんのう)、お母さんが皇極天皇(こうぎょくてんのう)、両親とも天皇ということは天皇になる運命にある人物。ただそのときの状況では、彼の人生はふたつにひとつしかない。蘇我氏の言いなりになって生き残っていくか、蘇我氏に逆らって聖徳太子の息子、山背大兄王(やましろのおおえのおう)のように殺されるか。
しかし、人生に行き詰まったこの2人が、飛鳥寺での蹴鞠会で出会うんです。さらにその後、蘇我倉山田石川麻呂(そがのくらやまだのいしかわまろ)という、蘇我氏の人間が彼らに協力する。これを話すと長くなっちゃうんだけど、おもしろいのはそこでしょ、と思うわけです。授業ではまったくこれがなくて、なんてつまらないんだろうと。それから授業は聞かなくなりました。
授業を聞いていないことがわかると、先生は「金谷、授業聞いてねぇな」とか言って、意地悪な質問をするんです。「おまえ、公事方御定書(くじかたおさだめがき)を書いたのは誰だか知ってるか?」とか。先生は「大岡忠相(おおおかただすけ)」という答えを持っているわけですが、私は授業を聞いていませんでした。そこで「公事方御定書とは、大岡忠相が中心に書いたんだけど、その思想においては松平乗邑(まつだいらのりむら)という人物がいて、その人が中心となって動き、その革新的な内容を大岡忠相が通していく、そこに魅力がある」と答えた。それ以降、先生は私のことは放ったらかしにしてくれました(笑)。
だから正直、私は歴史の勉強というのは全然していないんです。していないけれど、全部、伝記で頭に入っています。なぜなら伝記は物語なんです。ストーリーなんです。ドラマなんです。好きなドラマは内容を事細かに覚えているでしょ。授業ではそういうおもしろいところを全部取り去ってしまっています。
それで私は、そういうおもしろさを伝えるお仕事をしたいと思ったんです。でもそういうお仕事はなくて、たくさん話ができるという理由で予備校の先生になりました。そこでしゃべっているうちに、今日の講演のように、いろいろなところで歴史の話をさせていただけるようになったんです。
「歴史ってどこがおもしろいんですか?」と言われることがありますが、そこにある “人間のドラマ” がおもしろいんです。ただ、そのドラマだけでもダメで、そのときのバックグラウンド、バックグラウンドは確かにつまらないときもあるんですが、そこをしっかりわかっていたら、ひとつひとつのエピソードがもっとおもしろくなってきます。そういうところを、わかっていただきたいなと思っています。
歴史は成功と失敗の膨大なデータベース
先人から何を学び、掴むのか、人生を考えるきっかけにも
ー 2017年6月8日(木)〜18日(日)まで、EXシアター六本木で上演される舞台「剣豪将軍義輝 〜星を継ぎし者たちへ〜」では “足利義輝” が主人公です。よく「歴史から学ぶ」と言われますが、彼の生き様から私たちが得られるものは何でしょう?
金谷俊一郎先生
この人は教科書では可哀想な扱われ方をしています。「室町幕府第13代将軍、暗殺された」、将軍だったのに殺されちゃった可哀想な人、みたいなね。でも、ほかの将軍は殺されていないのに、なぜ義輝だけ殺されちゃったのか?
当時、室町幕府の将軍なんてお飾りだったんです。実権を握っている連中の言うことをふんふん聞いていれば、とりあえずいい生活を送れた。でも義輝は、将軍自らが政治を行なう「将軍親政」に徹底的にこだわった。だから狙われ、30歳の若さで殺されるんです。そういう壮絶な人生を駆け抜けたんですね。
義輝は有名な剣の名手、塚原卜伝から免許皆伝をもらうほどの腕だったと言われています。幕末に書かれた『日本外史』という本に載っていますが、殺される直前、自分のまわりを囲うように何十本もの剣を突き刺し、襲ってくる相手を切っては刀を変え、切っては刀を替えて戦いぬき、壮絶な死を遂げたそうです。実際には壮絶かどうかはわからないのですが、でも将軍自らが政治をやりたいという情熱のある人だから、壮絶でもおかしくないですよね。
もし彼が事なかれ主義であったなら、彼の人生はこうはならなかった。しかし、自分の背負っているものをしっかりと貫いた人なんです。貫いた結果、殺されてしまったので、そこはいろいろな意見があると思うけれど、貫いたという生き様には素晴らしさがあると思っています。でも教科書からはこのあたりのことがまったく伝わりません。
「歴史って何なのか?」と言うと、成功と失敗の膨大なデータベースでなんです。そこから自分は何を学んでいくべきなのか、何を掴んでいくべきなのか。感動するとか共感するとか、違うと思うとか、自分の人生について考え直すとか、そういうさまざまなことを考えるきっかけになるものだと思っています。
ー 長谷川さん(れきしクン)はいかがですか? 義輝から学ぶものとは?
長谷川ヨシテルさん
義輝は11歳で将軍になって30歳で亡くなっています。この約20年の間に何回も京都を追放され、でも京都に戻って将軍としての責務をまっとうしようとする、その運命に立ち向かうパワー、現状を打開しなければいけないという将軍としての責任感がかっこいいし、学ぶべきところですよね。
■ 次ページは子どもに歴史に興味を持ってもらう方法、2020年の教育改革に向け、子どもたちはどんな勉強をすればいいのか?
【体験レポート】歴史コメンテーター 金谷俊一郎先生の『教科書には書ききれない! 日本史講座』
【インタビュー】舞台「剣豪将軍義輝 〜星を継ぎし者たちへ〜」に出演している星野真里さんのインタビューはこちら!
もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ
舞台「剣豪将軍義輝 〜星を継ぎし者たちへ〜」
「もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ」は、教科書には載らないような歴史上の出来事を興味深くおもしろくエンターテインメントとして表現するシリーズ企画。2014年9月に第1弾企画「マルガリータ〜戦国の天使たち〜」を、2015年10月に第2弾企画「幻の城〜戦国の美しき狂気〜」を上演。
「剣豪将軍義輝」はその第3弾企画となり、初の前後編2部作。前編は2016年12月8日(木)〜12月14日(水)に上演された。戦乱の世を、将軍でありながら無双の剣士として生きた若き足利義輝の爽快な生涯を描いた宮本昌孝氏の長編歴史小説「剣豪将軍義輝」の舞台化。2017年6月8日(木)〜18日(日)まで、EXシアター六本木で上演。
オフィシャルサイト:http://mottorekishi.com
金谷俊一郎(かなや しゅんいちろう)
歴史コメンテーター、歴史作家、歌舞伎狂言作者、日本史講師(東進ハイスクール)、一般財団法人日本普及機構代表理事。
1991年より東進ハイスクールにて日本史トップ講師として活躍。近年は特に日本の世界遺産や日本遺産の話、さまざまな地域の歴史の話でも人気を博し、そのわかりやすい説明は「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)などのテレビ番組、ラジオ、講演会でも反響を呼んでいる。また多数の趣味・特技・資格を持ち、駅弁、歌舞伎、舞踊(名取り)、能、狂言、ハーブ・アロマテラピーなどにも造詣が深い。
れきしクン(長谷川ヨシテル)
歴史ナビゲーター、歴史作家。元芸人ならではのおもしろくてわかりやすい話しぶりで、老若男女に楽しくわかりやすく歴史の魅力を伝えている。歴史系イベントのMCや講演も行ない、その歴史の知識は専門家をも唸らせる。特に戦国時代、幕末期の知識は歴史の専門家も舌を巻くほど。歴史への造詣が深いことから兵庫県公認ブロガーも務める。軍師足軽というコントライブも毎月開催。NHK大河ドラマ『真田丸』にも出演。
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