子どもに歴史に興味を持ってもらうには
まずは歴史上の人物で誰かひとり、興味を持つこと
ー 歴史が苦手、という子どもは多いと思います。子どもに歴史に興味を持ってもらうには、楽しんでもらうにはどうしたらいいですか?
金谷俊一郎先生
やっぱり伝記を読むのがいいと思います。歴史はデータベースとお話しましたが、伝記はいろいろな人の成功や失敗を学べる生きた教材です。「歴史って暗記でしょ」と思っている親御さんもいらっしゃると思いますが、ただの暗記なら歴史という形を借りる必要はないわけです。先人の、こうやったから困難を乗り切れた、こうしたからうまくいった、失敗した、そこから学ぶんです。
そしていろいろな人物がいたことを知ることにより、自分は何をしていこうか、そういうことを考えるきっかけになるんです。だから私は、子どもたちに伝記を読ませてくださいと言うんです。伝記を読ませるときには、年号を覚えるとかではなく、そこにある物語、ストーリーを楽しむ。そのなかからさまざまな人生を知ることで、こうやって生きてみたいと感じるものが出てくると思う。そういう形で歴史に接してもらいたい。そこがなかなかできていないんです。学校だけに頼らず、家庭でも、その部分はどんどんやっていくべきかなと思っています。
ー 金谷先生ご自身は、特にこの人から影響を受けた、という方はいますか?
金谷俊一郎先生
この人、あの人、という人はいなくて、すべてになっちゃうんですよね。私の好きな本にサミュエル・スマイルズの『自助論』という本があります。好きすぎて自分で現代語訳して「現代語訳 西国立志編 スマイルズの『自助論』 」(PHP新書)という本を出したくらいです。ヨーロッパで成功した300人以上の人たちの伝記で、悲しくなったときとか、切ないときとか、目次からは感情を用いて引けるようにしました。辛いとき、家康もここで人質になって苦労したとか、こんな逆境があったけど、逆にそれが良かったんだとか、そういうことが見えてきます。
ー 長谷川さんは影響を受けた人はいますか?
長谷川ヨシテルさん
下の名前が一緒ということで、僕は義輝がきっかけで歴史が好きになったので、本当に思い入れの深い人物です。さきほど義輝の運命に立ち向かうパワーや現状を打開する責任感がかっこいいとお話しましたが、影響を受けても、なかなか活かしきれないですよね。
それじゃあ、どこで活かすかというと、旅行ですね。日本の歴史なら比較的気軽に現場に行けますから。史跡めぐりをしたり、子どもと行っても話が弾んだり、お互いに知っている情報を交換できます。
親御さんは「歴史の勉強をしなさい」とお子さんに言うときがあると思うんですが、ざっくりした指示だとお子さんも何をすればいいかわかりずらいと思うんです。金谷先生がおしゃったように伝記を読んで、誰かひとり興味を持ったり、好きになるといいですよね。僕の場合は、それが義輝という下の名前が一緒だった人なんですが、ひとりを好きになって調べはじめると、そこからいろいろな人に繋がります。そうすると歴史に興味が出てくると思います。
金谷俊一郎先生
さっきの講演で山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)の話をしましたが、どんな人もずっとひとりで何かをしているわけではありません。鉄舟の場合はそこに西郷隆盛がいて、勝海舟がいて、慶喜公がいらしてと、いろいろな繋がりがあり、枝分かれしていく。それが楽しいし、自ずと広がっていくんです。
ー 講演でも「歴史はすべてが解明されているわけじゃない、だからおもしろい」とおっしゃっていましたが、それにもつながりますね。想像する楽しさがあるんですね。
金谷俊一郎先生
最近「教科書の内容が変わってきている」と言いますよね。聖徳太子はいなかったとか。これは戦前から通説として受け継いで教えていたことを、2000年以降、科学的に検証することになり、それによって内容が変わってきているんです。みんなが当たり前だと思っていることも、実は解明されていないということはとても多いし、むしろ当たり前だと思っているものこそ解明されていないということもありますよね。
また歴史というのは、後の人がつくるもの。後の人の評価なんです。たとえば江戸幕府は260年続いたからこそ石田三成はひどい人物になり、明智光秀もそうですよね。でもそれは江戸幕府というフィルターを通せばそうかもしれないけど、実際には、それがすべてではないところもあります。人間は単純に善悪にわけられるものではありませんから、さまざまな視点や角度からひとりの人や事象を見てみるのも楽しいですね。
2020年の教育改革
子どもたちの歴史の勉強はどうすればいい?
ー 2020年の教育改革で、歴史は日本史と世界史が合わさる「総合歴史」になるようです。子どもたちは、どういう勉強をしたらいいですか?
金谷俊一郎先生
まずは、なんのために教育改革をするのか? それを考えてみるといいと思います。たとえば、「645年に中臣鎌足と中大兄皇子が『大化の改新』をやりました」、こういう教育だからよくないのかな、と。
日本史と世界史を横断するというのは、時代と時代の横断でもあります。この人とこの人は同じ年に生まれているとか、同じ時期に同じところにいたとか、そこからつなげたり広げていく作業ができると、それは一問一答式の歴史の知識ではなくなります。おそらく、そういうことを目指しているであろうと思うのです。
講演でお話しした「天正遣欧少年使節(てんしょうけんおうしょうねんしせつ)」だって、当時のヨーロッパのキリスト教の状況があったからこそ必要だったことで、あれより200年前にヨーロッパの人が日本に来ていたら、天正遣欧少年使節は絶対に行っていないですよね。あれはルターの宗教改革以降のヨーロッパのキリスト教、特にイエズス会の傾向があったからこそだからです。そういうところが見えてないと、本当に意味するところはわからないんです。
「天正遣欧少年使節」は純粋な気持ちでヨーロッパに行ったかもしれないけれど、それを派遣したキリシタン大名は、いわゆる貿易の利益を独占したいというだけの理由でキリシタンになっています。横断的に見る視点とはこういうことです。
全体の流れやその意味を理解をした学習がなされているかどうか。それが2020年の教育改革だと思います。だからこそ、なおさらドラマを知ること。お子さんにはドリルの前に伝記を与えるべきだと思うんです。それが2020年の教育改革に対応できるお子さんを育てることにつながると思っています。
ー 理解を問われるとなると、歴史はすべてが解明されているわけではないので、わからない部分を埋めてみましょうとか、そういう問題が出る可能性もあるわけですね。
金谷俊一郎先生
埋めるというか “想像する” ということですね。「天正遣欧少年使節」だけを見るんじゃなくて、なぜ彼らがローマで市民権を得られるほどの歓迎を受けたのか? それは当時、イエズス会がものすごい危機にあったからです。ローマ教皇だって危機だった。だからこそアジアを受け入れるということが重要で、破格の対応だったわけです。これは日本史だけをやっていても理解できません。じゃあ何をすればいいかと言うと、そこにあるドラマを知る、その人たちの生き様を知るということです。
ー 最後に、おふたりの今後の目標、夢を教えてください?
長谷川ヨシテルさん
教員免許を持っているので塾で歴史を教えていたこともあるんですが、歴史の専門家ではないので、歴史好きの代表として、金谷先生をはじめ専門家の方々と一般の方とをつなげる橋渡しをしていけたらと思っています。
金谷俊一郎先生
私も大学教授ではないですし、ひとつのことを研究しているわけでもありません。でも予備校で20年以上講師をしていて、多くの方にもっと歴史の楽しさを伝えるということをしなきゃいけないのかなと、もっともっと伝えられるようにしたいと思っています。
「教科書はつまらない」と言いますが、教科書ってレジュメ(要約)なんです。会議で使うレジュメだっておもしろくないですよね。だからそういう意味では、教科書がつまらないのはあたり前なんです。そのレジュメに、学校の先生の話とか、自分で調べるとか、そういうものをプラスすることで楽しくなるんです。だからそういう楽しくなるプラスの活動を、どんどんしていきたいなと思っています。
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金谷俊一郎(かなや しゅんいちろう)
歴史コメンテーター、歴史作家、歌舞伎狂言作者、日本史講師(東進ハイスクール)、一般財団法人日本普及機構代表理事。
1991年より東進ハイスクールにて日本史トップ講師として活躍。近年は特に日本の世界遺産や日本遺産の話、さまざまな地域の歴史の話でも人気を博し、そのわかりやすい説明は「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)などのテレビ番組、ラジオ、講演会でも反響を呼んでいる。また多数の趣味・特技・資格を持ち、駅弁、歌舞伎、舞踊(名取り)、能、狂言、ハーブ・アロマテラピーなどにも造詣が深い。
れきしクン(長谷川ヨシテル)
歴史ナビゲーター、歴史作家。元芸人ならではのおもしろくてわかりやすい話しぶりで、老若男女に楽しくわかりやすく歴史の魅力を伝えている。歴史系イベントのMCや講演も行ない、その歴史の知識は専門家をも唸らせる。特に戦国時代、幕末期の知識は歴史の専門家も舌を巻くほど。歴史への造詣が深いことから兵庫県公認ブロガーも務める。軍師足軽というコントライブも毎月開催。NHK大河ドラマ『真田丸』にも出演。
編集後記
年号が覚えられない、人の名前が覚えられない。どこがおもしろいのかがわからない。私自身、歴史が苦手、というよりも嫌い、できない子どもでした。
金谷先生は「名前が覚えにくなと思う方は、何回も何回も声に出す音読をしていただきたい」とアドバイスをしてくれました。「スラスラ言えたからと言って覚えているとは限らないけれど、スラスラ言えるのは頭に入れる第一歩」とおっしゃっていました。確かに、教科書や本を読んでいても、いちいち漢字でつまづいていたら進みません。子どもたちはさらに、テストなどでは漢字も書けないといけないから、何度も書くことも必要で、やっぱりちょっと大変。しかし、おもしろくなってしまえば、このハードルは楽々クリアできるでしょう。
子どもの頃、金谷先生のような方に歴史を物語のように教えてもらっていれば、歴史の魅力に気が付いたかもしれません。歴史が苦手だなと思っている子どもたちが、金谷先生のような方に少しでも早く巡り会えるといいですが、まずはご家庭で、お子さんが興味を持ちそうな伝記を与えてみてはいかがでしょう。私も、興味のある人、この人みたいになりたいと思える人物を探してみたいと思います。
もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ
舞台「剣豪将軍義輝 〜星を継ぎし者たちへ〜」
「もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ」は、教科書には載らないような歴史上の出来事を興味深くおもしろくエンターテインメントとして表現するシリーズ企画。2014年9月に第1弾企画「マルガリータ〜戦国の天使たち〜」を、2015年10月に第2弾企画「幻の城〜戦国の美しき狂気〜」を上演。
「剣豪将軍義輝」はその第3弾企画となり、初の前後編2部作。前編は2016年12月8日(木)〜12月14日(水)に上演された。戦乱の世を、将軍でありながら無双の剣士として生きた若き足利義輝の爽快な生涯を描いた宮本昌孝氏の長編歴史小説「剣豪将軍義輝」の舞台化。2017年6月8日(木)〜18日(日)まで、EXシアター六本木で上演。
オフィシャルサイト:http://mottorekishi.com
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