
世界初公開の貴重な史料と
マンモスが復活する未来も展示!
ー 企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか- 開催まであと1ヵ月ほど、いよいよ6月7日(金)からはじまります。個人的にもとても楽しみにしているのですが、今はどのような準備をされているのでしょうか?
追い込みの段階で、いろいろな展示物の解説やパネルをつくっています。原稿はほぼできているのですが、キャプションのところでロシアの研究者とやりとりしているところがありますね。
この展覧会のために組織した調査隊が採取した史料もたくさんあるので、今回の目玉の「ユカギルマンモス」にプラスして、世界初公開を含む貴重な史料をたくさんお見せできると思います。
【体験レポート】企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか- に行ってきた! 2019年11月4日(月・休)まで日本科学未来館で開催!

ー 調査隊を組織されたということは、このプロジェクトはかなり前から動いているんですね。
そうですね。最初の企画から3年以上は経っています。
ー 調査隊が採取した史料もたくさんあるとのことですが、今回の「マンモス展」の見どころを教えいただけますか。
マンモスの過去から現在、そしてマンモスが復活するかもしれない “未来” もお見せできるところですね。今も永久凍土からはマンモスが見つかっていて、今回の調査隊もマンモスの皮膚や毛を見つけています。
さらに先日、近畿大学生物理工学部が最新の分子生物学※を用いて永久凍土から発掘された2万8,000年前のマンモスの細胞核が、他生物の細胞の中で生物学的活性を示したと発表がありました※。つまり今後、マンモスを復活できるのではないかということで、未来に関してのマンモスのあり方まで紹介する、従来のマンモスの展覧会とは異なるマンモスの取り上げ方ができると思っています。
マンモス復活にはいろいろな問題もあるので、本展では、そのような投げかけ、問題提起をし、みなさんにも考えていただく「マンモス展」にもなると思っています。
※分子生物学:生命の仕組みを、生体を構成する分子レベルから解明することを目的とした学問。
※2万8千年前のマンモスの細胞核の動きを確認 太古のDNAで生命現象を再現、古生物科学の新たな扉を開く(近畿大学 2019年3月11日)
https://www.kindai.ac.jp/_hide/_news-pr/news_release/2019/03/015740.html
【イベント概要】企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか- 2019年6月7日(金)〜11月4日(月・休)日本科学未来館で開催!

世界初公開! 冷凍古代仔ウマの“すごさ”
冷凍マンモスは食べられる!?
ー 先日、永久凍土から冷凍状態で「古代仔ウマ」が見つかったというニュースがありました。それも今回の調査で見つかったんですか?
そうなんですよ。2018年の夏に掘り出されたものです。私はこの1月にサハ共和国のヤクーツクにある「マンモスミュージアム」に行って見てきましたが、体を切開して内臓を取り出すと、ものすごく新鮮で、これが4万2,000年も前のものとは、本当に驚きました。非常に重要な標本で、今回の「マンモス展」で世界初公開となります。

ー 古代仔ウマのすごさはどんなところですか?
全身が見つかるということはまずありませんし、冷凍標本は毛が残っていないことが多いんです。腐敗してすべて抜けてしまうのですが、この仔ウマはまつげもきれいに残っています。でも今後の乾燥で毛は抜け落ちたり、色が変色してしまうので、この姿を見られるのは今だけなんです。
そして内臓がものすごく新鮮です。液体の状態で血液や尿も採取されましたし、2018年に見つかったばかりだから今まさに研究されていて、これからいろいろなことがわかってくると思います。

ー マンモスが永久凍土から出てくると、その肉をオオカミなどの野生動物が食べてしまうと聞いたことがありますが、4万2,000年前の古代仔ウマも新鮮なんですね。
昔は永久凍土から出てきた動物を、人間も食べていたみたいですね。
ー 先生も召し上がったことはあるんですか?
僕は食べたことはないです。さすがにそれは危険すぎますよ(笑)。永久凍土ってその当時の環境そのものが凝縮されていて、何が入っているかわからないですからね。そのときにいた細菌やウイルス、今の人間には免疫のないものがあるかもしれません。
でもオオカミや犬は食べるので、見つかるマンモスの多くには鼻がないんです。

ー 鼻は柔らかい部分だからなくなってしまうのではなくて、永久凍土から出てきた途端に食べられちゃってるんですね。
柔らかいからというのもありますが、食べられちゃうのもあるんです。で、牙はハンターが持って行っちゃう。だから鼻と牙がないものが多いんです。
冷凍のマンモスからも血液は採取されているんです。ロシア北東連邦大学マンモスミュージアムのセミヨン・グリゴリエフ館長は、発掘した冷凍マンモスから「凍っていない血液がドロッと出てきた」と言っています。これからの研究で、動物が寒冷化に対してどのように進化してきたか、内臓関係か、もしくは細胞やたんぱく質などのレベルで進化が行なわれていた可能性もあります。
古生物学の場合、通常は軟体の部分は残っていないので、どうしても研究対象が骨などになります。しかしこの冷凍状態の仔ウマやマンモスには軟体部分があるので、今までできなかった研究が可能です。ウマやマンモスの進化や寒冷化に対する体の適応力がどのように備わってきたか、そして絶滅の理由を解明できるかもしれないのは、すごくおもしろいですね。

マンモス絶滅の原因に
人類が関わっている!?
ー マンモスの絶滅には多くの人が興味を持っています。先生は絶滅の原因をどのようにお考えですか?
最近の研究では、マンモスが絶滅した一番の原因は気候変動と言われています。マンモスは寒冷化に適応した動物として進化を遂げて発展し、世界中に仲間を増やしたので、その寒冷化がなくなり、湿潤になって温暖化すると、マンモスとして身につけてきた毛や皮下脂肪などが必要なくなります。しかし、進化としてはそれは止められないんですね。そうすると、まずは、気候変動によってマンモスの住む場所が限られてきます。
ケナガマンモスは40万年前から4,000年前まで存在していて、その間に温暖化がなかったかと言うと、あるんです。そしてその間もマンモスはどこかで生き延びて、寒冷化するとまた分布を拡大しています。
そうやって進化を遂げて生き残ってきたものが、なぜ4,000年前の気候変動では絶滅してしまったのか。4,000年前の気候変動が、それ以前の気候変動より特別厳しかったということもありません。なので気候変動だけで絶滅の説明はできないんです。

最終的にマンモスはシベリア東部の北極海上に浮かぶ無人島、ウランゲリ島に渡って矮小化し、4,000年前までいたことがわかっています。しかしそこに至るまでに、きっとマンモスは彼らが住めるような場所に逃げ込んでいた。でもその逃げ込んだところに人間がいて、絶滅の最後のトリガーを引いたのではないか、というふうに、僕は思っています。
でもそれは絶滅の理由なのか、という疑問も残ります。絶滅の理由と、死亡の理由は違います。死亡の理由はさまざまです。種として、何が一番の絶滅の理由かというと、基本的には気候変動で、そこにプラスして人間という影響があったのではないか、ということになります。
マンモスはその地域の生態系のニッチ(生態的地位)※を形成しますから、マンモスがいなくなることによって、地域のいろいろな生態系が崩れるんです。それがまたマンモスにとってよくない状況になっていったのかもしれません。
※ニッチ(生態的地位):ある生物種のその生態系内での地位のこと。食べ物や住む場所、活動時間が異なることで多様な生物種がひとつの地域に共存することができ、一般的には、ひとつのニッチを異なる種で分け合うことはない。ニッチがかぶると生存をかけた争いが起こり、どちらか一方が絶滅する可能性もある。人為的要因で生態系が乱されるとニッチは混乱し、新たなニッチがつくられ安定するまでは、さまざまな種がその生態系に侵入し種間競合が起る。
絶滅の問題は一筋縄ではいかなくて、ひとつだけが原因ということはありません。そういった絶滅の問題を解明するうえでも、冷凍標本というのは、器官レベル、細胞レベル、分子レベル、遺伝子レベルで、いろいろな進化を遂げていった過程を解明できる可能性があるんですね。そうなるとマンモスの絶滅に一番大きなインパクトを与えたものが何かということがわかってくると思います。
最近の分子生物学では、マンモスの遺伝子の多様性はあまり変化がなかったという研究がされているので、種としてマンモスが絶滅に突入しているということはなさそうです。つまり、すごく数が少なくなってきて近親交配による劣性な遺伝子が増し、遺伝子の多様性がなくなると、増殖能力や環境適応能力が下がり絶滅するんじゃないかと。でも絶滅する数万年前までのデータではそれはないようです※。
※ウランゲリ島に渡って矮小化した「コビトマンモス」では、遺伝子の多様性がなくなっていることが確認されています。
そして胃の中を見るとたくさんの草が入っているし、牙の中には成長を表す年輪のような線があって、それを見ても飢餓が原因で死んだのでもありません。つまり、非常に短い期間にマンモスが大量に死んでいるということで、実際のところ、その理由はまだわからないんです。
だから今回の「マンモス復活プロジェクト」でマンモスを復活させると、さらなる遺伝子レベルの研究により、絶滅に対して何の遺伝子が関連しているのか、ということが解明できるかもしれません。

なぜマンモスの牙は巨大で湾曲している?
遺伝子、特殊化も絶滅の原因?
ー 絶滅は遺伝子も関係しているんですね。
関係していると思いますね。まったく関係していないとすると、絶滅の原因は外圧ということになります。
ー 遺伝子が関係しているかどうかもわかるんですね。
本来、生物というのはだいたい40万年くらいで絶滅してしまうんです※。
※ 種の寿命については諸説あります。種の存続には交配によりDNAを複製し続ける必要がありますが、複製の際にはコピーミスが起こります。何万世代にわたるコピーミスの蓄積が種の存続を阻み絶滅を迎えると考えられています。なお、その間に生まれる突然変異などにより別種となって進化する可能性もあります。
ー 種としての寿命、ということですね。
ないのもあるけどね。そして僕は “特殊化” というのをとても重要視していて、ある一定の環境にものすごく適応した生物は、ちょっとした環境の変化で急激に弱ってしまうんです。
アフリカゾウやアジアゾウがなぜ今も生き残っているかというと、あれは原始的な性格を持っているからです。もともとゾウはアフリカにいて、それがどんどん進化して最後にマンモスの姿になります。アフリカゾウやインドゾウは多少暑くなっても、寒くなっても適応力があるんです。
古生物学から考えると、生物の種の寿命というのは、こういった特殊化が一番の原因です。マンモスで一番特殊化が激しいのは牙で、この大きさは必要ないわけです。

展示物撮影:星野泰孝(ネクステラ)
ー それはメスが好きだったということですか?
メスが好きだったのではなくて、オス同士がメスを巡って戦うとき、牙が大きい方が有力だったということです。なぜこんなにも牙が湾曲しているかというと、その方が大きく見えるからです。「ディスプレイ」って言いますけど、なるべく相手に対して大きく見えるように進化した結果です。
ー シカの角と同じですか?
そうです。そして牙の大きなオスばかりが生き残り、その方向で進化すると、それは一種の特殊化ですよね。しかしあるとき環境が変化して大きな牙が邪魔になったとすると、大きな牙を持つマンモスは一気に死んでしまう。これが特殊化の問題ですね。
種の最後の行き着くところは、特化し過ぎてしまったものが、環境への適応力をなくして絶滅したのではないかと思っていますが、これを証明するのはとても難しいんです(笑)。本当にこれでいなくなったのかというのは、なかなか証明できないんですね。牙がどんどん大きくなっていったという理由の説明も難しい。僕は “内因” 、つまりその生物そのものが持っている方向性だと思っていますが。
最近の人はあまり “内因” を絶滅の原因としません。“外因” があった方が説明しやすいから、隕石とかウイルスとか、いろいろな説がありますが、死因は個々のマンモスそれぞれなんですよ。
僕は人間が何らかの形で絶滅に関わっていると思っていますが、今の人類学者や古生物学者の中には、「マンモス狩りはリスクが高い」と言う研究者もいます。馬や牛の方がリスクも低いし食べて美味しい。マンモスの死体は食べたかもしれませんが、リスクを犯してまでマンモス狩りはしていないのではないか、どうやって狩りをしていたのかもわからない、と。

ー 昔の本には落とし穴を使ってマンモス狩りをしていたと書かれているものがありましたね。
落とし穴をつくったかは不明ですが、フランスのルフィニャック洞窟には、1万3,000年前にクロマニョン人によって描かれたと考えられているマンモスや牛、ウマなどの壁画が残っています。ルフィニャック洞窟近くのクサック洞窟、そしてペシュ・メルル洞窟やニオー洞窟にもマンモスが描かれています。壁画の中には槍が描かれた絵もあるので、マンモスも狩りの対象になっていたんでしょうね。
しかし最近のビッグデータを使った研究で、人口が増えたときのマンモスの状況を調べたところ、人間の狩りだけではマンモスを絶滅させることはできないという結果となり、いまはその説が主流です。
絶滅の原因はひとつではありませんし、時代によってもトレンドがあります(笑)。いまは気候変動説が、大きな原因のひとつとして有力な説です。
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「マンモス復活プロジェクト」は
私たちに何を教えてくれるのか?
ー 絶滅の原因はなかなか特定できないということですが、絶滅の理由、原因が解明できると、私たちの未来にどのように役立ちますか?
人間の影響で絶滅した動物というのは、ものすごくたくさんいます※。今すぐにその影響は現れないかもしれませんが、たとえばアジアゾウでもインドゾウでも、人間がそこに住むことによって環境が悪くなり、どんどん数を減らし、今や絶滅危惧種になっています。
ゾウというのは環境を支えている生態系のトップにいて、ゾウが植物を食べ、移動しながら糞をすることで、いろいろな生物を維持できていて、それによってその地域の生態系が成り立っています。ゾウがいなくなると、その地域がどのように変化するか、今はまだわかりませんが、人間に関わってくるんですね。
マンモスを復活させることで、マンモスがどのように当時の生態系を維持していたかがわかれば、マンモスがいなくなると環境にどのような影響があり、何が課題なのかがわかってくるんです。そうすると今後は、環境を保ちながら生物の多様性を維持することができます。
※日本を含む130ヵ国あまりの科学者などでつくる政府間組織「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム」(IPBES)は2019年5月6日、この500年間で「ピンタゾウガメ」「ドードー」「フクロオオカミ」など、少なくとも地球上の680種の脊椎動物が絶滅し、現在も100万種の動植物が絶滅の危機にひんしているとする報告書を初めてまとめました。陸地の75%が人間活動で大幅改変され、保全の取り組みが進まなければ、今後数十年間で約100万種の動植物が絶滅すると警告しています。現在の絶滅速度は過去1000万年間の平均に比べて10〜100倍以上で、さらに加速しているという。
【参考】
・「動植物100万種が絶滅の危機」科学者団体が報告(NHKニュース 2019年5月6日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190506/k10011906921000.html
・「100万種が絶滅危機」IPBESが生物多様性の報告書(毎日新聞 2019年5月6日)
https://mainichi.jp/articles/20190506/k00/00m/040/095000c

年代/40,000年前、発掘/1977年、発掘場所/サハ共和国 マガダン地方 コリマ川上流域
しかしこれは、マンモスを一頭だけ復活しても意味がありません。広いところでマンモスがウマやバイソンなどと一緒にいる当時に近い環境であることが重要なのです。
絶滅の原因が遺伝子の中に残っているか、それ以外の何で残っているのかはわかりませんが、「マンモス復活プロジェクト」は、その方向をめざすべきだろうと思っています。ただ単に絶滅した生物を復活させるという興味だけではなく、現代の生物に対しての熱い眼差しを、マンモスから学んでもらえるといいかなと思いますね。これは私の私見ですけど。
復活はすごく倫理的な問題があり、復活することの是非や、何を考えて行かなければならないかも含めて、来場者の方にも考えていただければと、今回の「マンモス展」は、そのような展示にできればいいなと思っています。復活はすごく難しい問題ですが、興味深い展覧会になると思っています。
マンモスや永久凍土というのは、私たちにものすごくいろいろなことを教えてくれるんですね。まさにタイムカプセルで、古生物学者というのは、通常、骨や牙やそういうものからの研究しかできませんが、永久凍土の中から出てきた古生物は、現代生物の研究手法で4万年前の生物の研究ができるんです。永久凍土の中の生物の解明は、我々人類のこれからの地球環境を考えるうえでも、おもしろい投げかけをしていると思います。

もうすぐ地球は寒冷化
人類の寿命はあと150年!?
ー 古生物の研究されている方にとっては永久凍土が溶けて昔の生物が出てくることは良いことかもしれませんが、温暖化で永久凍土が溶け続けていくことは良いことなのでしょうか?
何がよろしくないかという価値観ですが、地球レベルで言うと、こんなことは普通のことで、人間がいようがいまいが、溶けるものは溶けるんです。それでどうなるかは、当然、生物にとってはマイナスになるものもいるし、プラスになるものもいて、それによって進化を遂げてきているんです。地球の法則性の中で考えれば、良いも悪いもありません。
ただ人間の存在が、地球にどのような影響を及ぼしているかは知る必要があると思います。溶ける速度は少し早まったかもしれない。でも、もうすぐ地球は寒冷化しますよ。すぐと言っても1,500年後くらいですが、ものすごく寒冷化します。しかしその時、人類は地球にはいないでしょうけどね。
火星に移住しようと考えている人もいるし、未来学者の中には、人類の文明はあと150年くらいしか存在できないという人もいます。進化を研究している研究者にとってはごく普通の考えです。
ー 150年後は、今の子育て世代のひ孫が生きているくらいのすごく近い未来です。それくらいしか生き残っていられませんか? 人間は40万年は無理ですか?
無理ですね。これだけ進化して、特殊化がすごいですから。こう言うと夢がないような気がしますが。でもそれで、その次があるんですね。おそらく、人間は。

生き残るためには自然と触れ合い
700万年の体験の蓄積を呼び起こせ!
ー 古生物の研究は、古代生物はもちろん、現生生物、地質、植物のことなど、いろいろなことを知らなければなりません。古生物の研究をしてみたいという子どもたちが、今、勉強しておくことはどんなことですか?
一番大切なのは、今の自然はどのようになっているか、どんな小さなことでもいいので、自分で触れて体験し、観察することです。都会でも公園にはダンゴムシがたくさんいるし、小さいうちからなるべく自然に親しみ、体験することが一番重要だと思っています。
小さい頃が一番感性が鋭くて、いろいろなものに反応します。その体験は大人になっても忘れないので、それをもとにしていろいろな知識を吸収した方がいいんです。私たちの体の中、DNAには700万年※の体験の蓄積があるんだけれど、小さいうちに自然に触れあっていないと、その体験や記憶、感性が蘇りません。だから僕は子どもたちと一緒に野尻湖でナウマンゾウの化石の発掘などをしているんですね。
※私たち人類はおよそ700万年前に、チンパンジーとの共通祖先と分かれて人間になったと考えられています。なお人間とチンパンジーのDNAの約99%は同じと言われています。

子どもたちの感性はとても鋭くて、発掘にきた小学生は大人になってもそのときの感覚を覚えていて、その体験は役に立っています。判断能力が養われ、困難なことがあってもサバイバルできる。それが古生物の研究にとっても一番重要です。でもこれは古生物に限りませんけどね。
だから小さい頃からコンピュータやスマホばかりを触っているのは良くありません。スマホに頼らないところをもっともっと重視しないと。これは特殊化ですから、ある時、突然、電気がなくなったら、人間は “あっ” という間に絶滅しますよ。
いまの世の中はとても特殊化していますが、みんなこの文明の特殊化に気が付いていないんです。子どものうちはもっともっと原始的なことを経験しておいて、コンピュータなどは後から、そしてなくなっても生きていけるようにしておかないと。
子どものうちに自然の中で遊んだり、観察をする体験、経験をしてほしいですね。家の前にある木を毎日見て、その様子から今年の夏はなんか変だなと気がつくようになれば大したものです。その変化に気づくことが大事なんです。それが生物を見るうえでも重要です。
ー 150年後も生きていけるのは、そういう経験を経て、アジアゾウ的な原始的な部分を養った子どもたち、ということですね。
そうそうそう(笑)。150年後も生き残っていけるのは、そういう子どもたちですよ。僕はそう思っています。
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インタビュー後記
マンモスは、なぜこれほど人を惹きつけるのでしょうか。古代の人類も、その大きさ、強さに憧れ、また命をつなぐ食料として、さまざまな素材として、畏敬の念と感謝を持って石に、骨に、その姿を刻んだのではないでしょうか。生きているその姿を目の前にした衝撃とは、どれくらいのものなんでしょうね。
しかし、だからと言って、マンモスを復活させるというのは、どう思いますか? 子どもと一緒に「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか- を見て、親子でいろいろと話し合ってみてほしいと思います。復活したら、人間はやはり映画「ジュラシック・パーク」のような過ちを犯すでしょうか?
古生物の研究は、分子生物学の新しい手法で今までの研究を調べ直す、見直すと、まだまだ新しい発見があるそうです。子どもたちが古生物の研究で食べていくこともできそうです! 特にゾウは研究者が少ないそうなので、「これから研究するのはいいですよ」とのこと。近藤先生は野尻湖でナウマンゾウの化石の発掘も行なっていて、「野尻湖友の会」の会員になると誰でも参加できます。興味のある方は、ぜひ参加してみてください!
近藤先生のお話はとてもおもしろく、まだまだ聞きたいことがたくさんありました。ぜひまた、お話を聞かせてください!
近藤洋一(野尻湖ナウマンゾウ博物館館長)
1955年 東京生まれ。信州大学大学院博士課程終了理学博士。1984年 野尻湖ナウマンゾウ博物館開館当時から学芸員として勤務。2016年 野尻湖ナウマンゾウ博物館館長。学生時代から野尻湖発掘に携わり、現在、野尻湖発掘調査団の事務局を担当する。専門は、古脊椎動物学、第四紀学、日本各地のナウマンゾウの研究や古型マンモスの研究もすすめている。共著「最終氷期の自然と人類」「一万人の野尻湖発掘」「野尻湖のナウマンゾウ」など。企画展「マンモス展」古生物学監修。
野尻湖ナウマンゾウ博物館
http://nojiriko-museum.com
野尻湖発掘調査団
http://nojiriko-hakkutsu.info
日本科学未来館 企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか-
2005年「愛・地球博」で約700万人が熱狂した「ユカギルマンモス」をはじめ、1977年に完全体で永久凍土から発掘された仔ケナガマンモス「ディーマ」の標本も38年ぶりに来日。近年新たに発掘されたマンモスや、さまざまな古代の動物たちの冷凍標本も世界初公開し、数万年前の生物の生々しい姿が見られる展覧会です。
さらに、世界各国で研究が進む冷凍標本から得られた組織を使った「マンモス復活プロジェクト」のなかから、マンモス復活の新たな一歩を踏み出した近畿大学生物理工学部の研究を紹介。最先端生命科学の “今” と、これからの生命科学のあり方について、みんなで考える展覧会にもなります。
企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか- は、2019年6月7日(金)〜11月4日(月・休)まで日本科学未来館(東京・お台場)で開催。