温暖化の影響、北極に次いで南極も危ない!
極地の調査から、“地球の未来” がわかる!
ー 南極では観測をして地球環境を見ていますが、温暖化の影響を実感されることはありますか?
それは北極の方が顕著ですね。たとえばグリーンランドの氷はどんどん溶けていて、夏には歩いている氷河の上を水が流れていますし、氷河自体もかなり小さくなっています。何年か前まではここまで氷河があったのに、なくなってしまっている。それが露骨にわかります。冬なのに雨が降ったりもしますね。
南極はちょっと前まで「それほど温暖化の影響はないね」なんて言っていましたが、「いや、そうでもないよ」というのが、少しずつ現れはじめています。なので、これから本当にしっかりと見ていかないと、大変なことになると思っています。
ー 南極での観測によって地球の過去を探り、いま起きている変化を捉えれば地球の将来が見えるそうですが、どのような将来、未来が見えていますか?
このまま人間がやりたいことをやっていると、まずいでしょうね。いまだに核兵器などがなくならない状況ですから。
いまは多くの人が廃プラスチックの問題などにも関心を持っていたり、電力も原発の代わりに風力や太陽光などの自然エネルギーをもっと活用しようとか、宇宙で太陽光発電をして地球に持ってこようとか、いろいろな考えも出ていて、とてもいいことだと思っています。
でもその前に、なぜ電力やプラスチックを使わないことをもっと一生懸命にやらないんだろうと思うんです。まずは使わないことなんですが、工業とか生産とか、いろいろな経済を動かしていかなきゃいけないからという、やっぱり人間の “我” がそこにあると思うんです。「地球環境のため」「私たちのため」と言いながらも、使ってしまっている。人間って難しいですよね。私だって今ここで、「冷房を切りましょう」となったら困りますし(当日は最高気温34.9度)、飛行機に乗るのをやめようとは言えません。
生きるのに必要な環境を破壊したら
破滅の道しか残らない
ー 南極では水がとても貴重ですよね。そういうところからも資源の大切さを実感しますか?
南極や北極に限らず、山やキャンプでも同じですよね。水を汲んできて、その水だけで料理や洗いものなどのすべてをまかなおうとすると、無駄遣いしないですよね。
山や海、キャンプに行くと自分で必要なもののすべてを運ばないといけないし、ゴミは持って帰る。でも本当は、社会や国のレベルでもそれは同じなんです。でもお金を払っていれば、誰かが水も電気もガスも届けてくれる。ゴミも始末してくれる。自分でやっていないから実感がないんですよね。
ー 中山さんも日本に帰ってくると、水の有り難みは南極にいるときよりも薄れますか?
それはありますね。やはり「シャワーって水を出しっぱなしにしてもいいんだ、水を流せるんだ、ありがたい! 快感!」って、嬉しくなります。でも節約やリサイクルはしようと、たとえば牛乳パックはリサイクルに出したり、大変な思いをしないレベルで、みんながちょっとずつやれば75億人だからそれだけでも全然違う。ほんのちょっとずつが山になるから、それでいいんじゃないかな。極端なことは難しいと思うんですよね。
おかしいですよね。福島の原発事故のあと、深夜に自動販売機や照明を落としても普通に生活も社会もまわるってみんな実感したのに、何年か経つと忘れちゃう。災害の危険は何も変わっていないのに、なんで忘れちゃうのかな。そのときだけではダメなんですよね。
ー 地球の未来を守っていくのは、一人ひとりの意識とちょっとした行動なんですね。
意識というほど大げさなものじゃなくて、結局、人間って地球、自然に生かされているわけじゃないですか。野菜だって動物や魚の肉だって、すべて自然から命をいただいて私たちは生きているのであって、自分たちが生きていくために必要な環境を壊していたら破滅の道しかありません。とてもシンプルなことです。
「地球を守ろう」って実はとても大げさで、地球って人間ごときが守ってあげなきゃならないほど柔じゃない(笑)。勝手に100億年くらい生きるわけです。そうじゃなくて、自分たちが生かされている環境を、自分や生き物が住みやすい、生き続けられる環境にしていかないと、結局困るのは自分たちでしょ、という話ですよね。
昔の生活には戻れない
私たちにできること、子どもたちに託すこと
ー 書籍の最後の方で、北極に住んでいる日本人の大島さんが「次の世代は猟では生活できない」とおっしゃっています。そして「便利で快適なことを追い続けてきた私たちは、地球環境を汚して、壊してきました。もう一度、北極の先住民のような「自然とともに生きる」すべを思い出さなければならないとき」と書かれていますが、便利さ、快適さを追求する流れは止まりそうもありません。どうすればいいと思われますか?
まさしくそれを、これからの子どもたちや若い人たちに考えてほしい(笑)。昔のように暮らせば環境に負荷は与えないけど、急に縄文時代の暮らしには戻せない。じゃあ、このなかでこれからどうしていくのがいいかは、子どもたちや若い人たちに見つけてほしいですね。
ー そうすると、いまの親世代にはどういう役割がありますか?
人間はいろいろな命でもって生かされているんだっていうことに、改めて気がついてもらいたいですね。
そして、もらった知識だけでは “考える” ということをしていないので、親世代の人たちは、子どもたちに何かを考えたり、始めたり、行動するきっかけを与えてほしいですね。悩んだり、つまずいたりを経て何かを見い出すということを、子どもたちや若い人たちができるようにしてほしい。
子どもたちに「教えよう」じゃなくていいんです。大人だってわからないことはたくさんあります。答えられなかったら、わかったようなことを言うのではなく「考えてごらん」「一緒に調べてみよう」でもいいです。
ー 子どもに調べてもらって、教えてもらうのでもいいですよね。
大人なんて、実は大したことないですからね(笑)。講演が終わって質疑応答になると、大人の質問はほぼ想定内です。以前質問されたことばかりで、驚きがありません。
でも子どもの発想や視点はとても豊かで、大人の想定を越えた質問が飛び出します。しかもちゃんと説明しようとすると、いろいろなことを理解していないと答えられないんです。だからそこに、新しいことを考える、知りたくなる、調べたくなる鍵がたくさん隠されています。
この子どもの能力って本当にすごいなって思います。大人はもう、そういう感度をなくしていますよね。その感度の鋭い時期に、いろいろなことに首を突っ込んで体験してほしいですね。
ー 今まで一番驚いた子どもの質問は何ですか?
「南極には匂いがあるんですか?」という質問にはハッとさせられましたね。たとえば豚舎や牛舎って臭いことが多いけれど、それは生物が豊かに暮らしているからです。南極はとても生物が少ないので、あまり匂いがないんです。南極でも内陸にある「ドームふじ」周辺なんて寒すぎて生物がいません。日本で普通に生活している小学生が、この質問をしたのはすごい、よくそういうところに感度が働いたなと思いました。
ー 本を読んだ子どもたちが将来、南極や北極に行きたいと思ったとき、いま、どんなことをしておくといいですか?
身近なところにも不思議なことってたくさんあるので、実際に体を動かしながら観察したり考えたりして、自分で興味のあることを発見してほしいですね。アリを見ても、セミをつかまえるのもいいし、空の星、雲でもいい。ちょっと気になったことを見逃さず、興味を持ったこと、好きになったことにグングン入り込んでほしいですね。
夢に向かって歩けば、何かが起こる
これからも、極地からいろいろなことを伝えたい
ー ところで、南極や北極で命の危険を感じたことはあるのですか?
南極はほぼないです。研究者や現地に住んでいない人間が南極や北極で活動するには ”安全係数” を高くしているんです。危なくないように、細心の注意をはらって計画し、無理なことはしませんから。
だから一番大変だったのは、なんと言っても大島さんと犬ぞりで北極を旅したときです。南極は2回、北極もグリーンランドやノルウェーのスヴァールバル諸島にあわせて7回ほど行きましたが、いずれも研究者たちに同行した取材だったんです。でも大島さんの犬ぞりの旅だけは違いました。大島さんは現地に住んでいる猟師で、体を張って、命をかけて猟をしています。安全性を最優先しているわけにはいかないんですね。
だからそのとき初めて凍傷になりましたし、犬ぞりの犬が3匹クレパスに落ちちゃったり、ものすごい体験をしました。もっとたくさんの犬が落ちたり、そりまで落ちて、ひきあげられなかったら、そこでおしまいでしたね。シロクマにも会いました。食べちゃいましたけど(笑)。だからそこに暮らしていない人間が観測に行っているのと、命を張って暮らしている猟師とでは、安全係数が違い過ぎますよね。一歩間違えれば危なかったし、でも「すごい!」と思った。とてもドラマチックで、忘れられないですね(笑)。
ー 中山さんの今後の目標、夢は?
まだまだいろいろなところ、極地に行って、みんなが「へぇ〜」って思うことを見つけたいですね。そしてお話でも、写真でも、映像でも、いろいろな形でそれを多くの人に伝えていきたいです。
ー 極地というと、宇宙にも行ってみたいですか? 宇宙旅行も現実味を帯びてきています。
宇宙にも行きたいですが、すごく行きたいかと言うと、たとえば宇宙に一瞬行けるのと、南極で越冬するのとどっちがいいかとなると、南極越冬の方がいいですね。
宇宙の無重力や宇宙から地球を眺める体験は絶対にしてみたいですが、宇宙空間では、どうしても宇宙船の窓や、宇宙服越しに地球や宇宙空間を体験するしかないですよね。
南極や北極って、寒さや風の冷たさ、太陽の温もりを実際に肌で感じることができるんです。“そこにいる自分” というのを実感できる。そういう体感が楽しいんですよね。
ー 宇宙に行って人生観が変わったという宇宙飛行士はたくさんいますが、南極、北極に行く前と行ったあとで、自分自身で大きく変わったことはありますか?
仕事が “極地記者” になってしまいました(笑)。そういう意味では変わりましたが、考えてみると自分自身の根っこのところはずっと同じなのかなと思います。子どものころ、冒険ファンタジーやありえない世界に飛び込んでいく話にワクワクして、大人になると一人旅が好きで東北や北海道、そのうち海外に行きはじめ、行ってみたい、体験してみたい、こんなことをやってみたいと、山に登ってスキーをして、海に潜ってパラグライダーもして、その延長がいまの極地になっているという感じですね。
ー 小さい頃の夢が叶っていくというのは素晴らしいですね。
夢が叶うというか、南極や北極に行くことをめざしていたわけではなくて、最初に外国語を勉強しはじめたのは、通訳になりたいと思っていたんです。英語やドイツ語の勉強のために留学もして「がんばるぞ!」と思っていましたが、そこには帰国子女もいて、これは太刀打ちできない、勉強しても限度があるなと、そこで「うっ!」って思うんですよね。だから語学はひとつの武器として、いろいろなところに行ける仕事がしたいなと、それで新聞記者になってみたらおもしろかった。
記者になってからは海外特派員を夢見ていたんですが、ある日突然、海外は海外だけど南極へ行けとなって。そこでまた道を外れるんです。最初にめざした通訳から記者になって、記者から海外特派員ではあるけれど極地記者になって。でも、一番おもしろいところに、いま自分はいるなと思うんですよね。
「通訳の夢は叶わなかった」と思うよりも、みんなも「サッカー選手になりたい」とか、いろいろな夢があると思うけれど、それがダメとなったときに、違う方向を見つけて、そっちの方がおもしろくなったり、新しい夢を見つけたり、いろいろと道はあると思うんです。
だから「やりたいことが見つからない」「夢がない」という人がいるけれど、それは “動いていないから” というのもひとつの要因かもしれない。動いていればいろいろなことにぶつかるし、夢に向かって歩いていたらコケて、立ち上がったら違う方向にもっとおもしろそうなことがあったとか、それはすごくあると思う。私みたいに懲りずに前向きに考えていたら、何かが転がっているんじゃないかな(笑)。
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中山由美
朝日新聞記者。極地記者。ドイツ・チュービンゲン大学留学、1992年、東京外国語大学大学院修士課程(ドイツ語学専攻)修了。1993年朝日新聞社入社。2003年11月〜2005年3月まで第45次南極観測越冬隊に、2009年11月〜2010年3月まで第51次夏隊セールロンダーネ山地地学調査隊に同行。そして2019年11月27日(水)に出発する3度目の南極「第61次南極観測越冬隊」への参加が決定! 北極はグリーンランドやスバールバル諸島など7回、パタゴニアやヒマラヤの氷河も取材。2002年度、2012年度新聞協会賞、科学ジャーナリスト賞2012受賞。著書に『こちら南極 ただいまマイナス60度』『南極で宇宙をみつけた!』(草思社)がある。
環境ノンフィクションシリーズ
北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと
文・写真:中山由美
学研プラス(2019年7月30日発売)
1,400円(税別)
さて、質問です。「北極と南極、より寒いのはど〜っちだ?」「 氷の量はどちらが多いの?」「どんな動物がいるの?」など、実は知らないことがいっぱい! そしてふたつの極地を比べてみると、似ているようで違うところがいっぱい!
著者の朝日新聞記者である中山由美さんは、小学校などで講演するときに、子どもたちに聞くそうです。みんなよくわからなくて盛り上がるそう。
どちらが寒いかはもちろん、その理由を小学生にもわかりやすく説明してくれるのが本書。北極代表のホッキョクグマくんと、南極代表のアデリーペンギンちゃんに案内されながら、楽しく読み進めていくと、とても遠い存在だった「極地」が、自分たちの身近な問題に関わっていることがわかってきます。北極・南極の素晴らしさにふれながら、地球のことを見つめよう!
インタビュー後記
南極と北極の楽しい話をたくさんしてくれた中山さん。お話している姿から、本当にこのお仕事が好きなんだなと感じました。しかし、越冬の場合は1年4ヵ月もの長きにわたり、南極に30名ほどで暮らします。人間関係のトラブルもあることでしょう。
「小さいグループほど、そして関係が近いほどぶつかりやすいんですよね」と中山さん。昭和基地より、少人数での長期の野外活動の方が対立が起きやすかったそうです。学校なども似ていて、同じ地域に住み、世代もクラスなども同じ少人数ほど関係は難しくなりがちで、年齢が離れていたり、興味が違うとか、異なる部分が多い人との間ではトラブルが起きづらいと教えてくれました。
さらに「私は我慢ができなくなったときは、日本にいる、南極にいる人のことや人間関係をまったく知らない人にメールで愚痴っていました。グループ内だと顔を合わせて何かを一緒にやっていく人たちだし、愚痴を不快に思う人もいるでしょう。それは学校でも会社でもよくないですよね。だから、まったく相手のことを知らない第三者に『こんなことがあって大変!』って、はき出すことかな。人の悪口はいわないのが一番。特にその人を知っている人、仲間うちではダメ」と、コツを伝授してくれました。
他の人がしたことのない経験をたくさんしているためか、何を聞いても答えを持っているし、しかもすべてがおもしろい。ぜひまたお話を聞かせてください。そしてまた極地へ取材に行った際には、現地からのレポートも楽しみにしています。子どもに負けない、想定外の質問を考えておきます!
インタビュー後記 追加
中山さん3度目の南極となる、第61次南極観測越冬隊への参加が決定しました。おめでとうございます! 2019年11月27日(水)には日本を出発されるそうです。くれぐれもお体に気をつけて、そしてたくさんのレポートをお待ちしています! 現地から、そして帰って来てから、ぜひまたお話しお伺いさせてください!(2019年11月7日[木]追加)
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