日本にいながら、親が英語を話せなくても
子どもをバイリンガルとして育てる6つのポイント!
ー「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所」(以下、IBS)では、「日本にいながらにして、バイリンガルを育成する最適な方法を見出すこと」を目標としています。今までの研究からわかった、現在考えられている最適な方法を教えていただけますか?
乳幼児には世界中のあらゆる言語を聞き分け、獲得できる潜在的な能力があります。しかし生活している環境の中で必要な音を選択して身に付けていくので、一般的な日本の環境であれば、まわりの多くは日本語なので日本語の音しか聞こえなくなっていきます。そのため、日本語には音の違いがない英語の「L」と「R」は区別ができなくなります。
一方、自然にもうひとつの言語の音が聞こえている環境では、母語と第二言語の両方を聞き取れるようになり、これを継続していくことでバイリンガルとして育つことになります。
バイリンガルに関してはいろいろな研究があり、言語学の先生もよくおっしゃいますが、乳幼児がいかにして第二言語を習得するかについては6つのポイントがあります。
① 十分なインプット
母語と第二言語を同じくらいたくさん聞いたり話している映像を観たりすること(親との会話だけに限らず、映像や音楽からのインプットでもよい)。
② 理解しやすいインプット
ただ聞くだけでなく、写真や映像の助けを借りて、英語が使われている状況や登場人物のジェスチャーなどに注目すると自ずと意味がわかるインプットであること。
③ 他者とのやりとり(社会的な関わり)
しっかりとしたコミュニケーションでなくてもよいので、親や友だちなど、第二言語で他者と関わりあいができること。
④ アウトプット
インプットだけではなく、発音、発話を促すこと。お子さんが何が言ったら親御さんは真似して言ってあげると、楽しくなってしゃべり続けるなどアウトプットを引き出す工夫をすること。
⑤ 複数の話者によるインプット
親御さんだけではなく、海外の映画やテレビ、YouTubeでもよいので、いろいろな人が発話している英語を聞くこと。
⑥ 楽しむ
強制されないこと。「英語って楽しい」という “遊び” を提供すること。
IBSではたくさんの海外の事例を研究していますが、日本においても、おそらくこの6つが非常に重要なポイントだと考えています。遊びながらたくさんの英語に触れさせてあげることで、日本にいながらでもバイリンガルとして育つ可能性は非常に高いと思っています。
その際に大切なのは、やはり “楽しむ” ということ。楽しみながら6つのポイントを自然と家の中に取り込むことです。
第二言語習得は早期が有利
アウトプットは兄弟姉妹、友だちを活用
ー 映画も音楽もたくさんあるのでインプットに苦労することはありませんが、アウトプットの機会はなかなかありません。兄弟姉妹がいるとよさそうですね。
兄弟姉妹はすごくいいと思います。
ー 下の子は上の子の真似をするし、話し相手にもなります。
おもしろいのは、下の子の方が覚えるのが早いことが多いんです。お兄ちゃん、お姉ちゃんがいい話相手になるので、「ワールド・ファミリー」のお客様の中には、1歳で英語を話しはじめた、というご家庭もありますね。
最近はネット上で同じ志の方を見つけて、子ども同士ネットで話をさせるとか、そういう工夫をされている方もいます。
日本語がおろそかになるから第二言語の習得は母語である日本語をしっかり覚えてから、という考えが根強くありますが、それは学術的な根拠に欠けた見解です。最初にお話したように、乳幼児からの方が、その言語特有の音を聞き分けられるようになるからです。特に “ゴールデン・エイジ” と呼ばれる0〜3歳は大事です。大人になってからでも習得はできますが、音声の獲得は非常に困難ですね。
がんばらないで子どもと一緒に “楽しむ” “遊ぶ”
ネットで仲間を見つけるのもおすすめ
ー 以前、日本語と英語のバイリンガルのハーフの方2人にインタビューしたことがあり、日本にいながら、どのようにして2ヵ国語を習得したかをお伺いしたことがあります。2人とも家では英語しか使わなかったり、親同士も英語、テレビもNHKは英語など、かなり徹底していました。それくらいしないと日本で子どもをバイリンガルにすることは難しいという印象を受けたのですが、英語を話せない親の子どもが自然とバイリンガルになることは可能でしょうか?
たくさんのご家庭を見てきましたが、やはり “がんばる” という意識になると、なかなか続きません。勉強じゃない、学習じゃない、ただの “遊び” として、たとえば1日1時間、お母さんと英語で歌を歌うなどで英語をインプットする時間を設ける、その継続が大事だと思います。そして、先ほどお話しした6つのポイントが継続できていれば、もちろん程度に差はあると思いますが、バイリンガルとして育っていると言えると思いますね。
ー 親御さんは環境をつくるだけではなく、一緒に楽しんだりある程度関わらないと、ただ英語を聞かせている、映像を観せているだけでは難しいのかもしれませんね。
やらせているだけだと、お子さんのタイプにもよりますが、飽きてしまうことは多いですね。やっぱり親子でコミュニケーションをしながらの方が伸びると思います。
確かに共働きのご家庭で6つのポイントを含む環境をつくるのは大変だと思います。しかし親御さんも負担に感じることなく、お子さんと一緒に遊ぶように、楽しみながらできるといいですよね。親ができるのは、やはりいい遊び相手になってあげることです。
最近はたくさんの方が家庭でどんなことをしているかをSNSにアップしているので、それを参考にしたり、一緒に遊んでくれる方を募集してサークルができていたり、そういうコミュニティも大事かなと思います。親御さんもひとりでやっていると疲れたり不安になると思うんです。そんなときに仲間がいると、相談もできるし心強いですよね。
小学校で英語がスタート!
英語嫌いにせず、中高へつなげる
ー 新型コロナウィルス感染症の影響で実際の状況はわかりませんが、2020年度から小学3・4年生は「外国語活動」がスタートし、5・6年生は教科としての英語が必修化しています。英語力不足はかなり以前から日本の大きな課題ですが、あまり改善しているようには感じません。どのような教育が求められるでしょうか?
小学校でできる英語の授業はインプットを促すことと、英語を嫌いにならないようにすることです。それこそ英語の勉強を強制してはダメで、先生と子どもたちとのいい雰囲気での授業づくりが一番大事です。
一方、静岡県の「加藤学園暁秀初等学校」や群馬県の「ぐんま国際アカデミー」では、英語で国語や算数を勉強するCLIL(クリル/Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)を取り入れています。
一部の小学校では英語を勉強することが目的ではなく、英語で思考する訓練をしています。これは非常に効果的で、そういう学校は英語ができるようになる子どもをたくさん育てています。このメソッドが公立の小学校にも取り入れられれば、もう少し効果的な英語教育ができるのかなと思っています。
立命館は小学校から高校までの一貫教育ですが、英語科に正頭英和先生という非常に有名な先生がいらして、小学校の6年間で徹底的にインプットして、中学・高校の6年間でアウトプットをすることにより英語での思考力を養うとおっしゃっていました。この学校を出ている生徒の英語力も非常に伸びているそうです。
英語などの第二言語は嫌いになったら先に進まないので、小学校でできることはペラペラと話せるようになることではなく、英語を嫌いにならないように、いかに興味、モチベーションを持続させるかが大事です。だから英語が話せないからバイリンガルになっていないということではなく、それなりのインプットはされているので、それを中学、高校でうまく引き継いで、いかに伸ばすか、ということが大切になります。
日本語の習得と同じ
文法は後からついてくる
ー 英語につまづく大きな要因は文法の勉強にもあると思いますが、文法をクリアする方法はありますか?
我々世代はまず文法ありき、でしたよね。しかし今はそういうことではなく、たとえば「何?」と聞きたければ「What」をつければいいとか、そういうことを自分の体験として落とし込んでいます。最初に文法として理解するのではなく、後からこれが文法だったんだ、という再発見につながるような教育だと思います。
小学生のときに英語ができる子が中学に入ってどうなったかの追跡調査をしたら、「SVOとかは全然意識していなかったけれど、これが文法なんだということがよくわかった」と言っていて、すでに身に付いてしまっているんですね。
ー 我々の日本語と同じですね。
そうなんです。文法として意識する必要がないんですね。だから文法ありきではなく、インプットの中でいろいろなフレーズや言い回しに触れ、それを自分の中で蓄積し、状況にあわせたアウトプットをすることで相手に意思が伝わり、コミュニケーションが成立し、喜びにつながる。そして次は「これもやってみようかな」と、いい循環が生まれるんです。
東京外国語大学の岡田昭人先生とお話ししたときも、「日本人はとても長い時間英語を勉強しているから、実は単語も、ボキャブラリーもあり、文法もよくわかっている」とおっしゃっていました。しかしそもそも日本人の多くは議論が好きじゃないし、「これについて5分話してください」となったときに、ロジカルに考えて主張することが得意じゃない。つまり日本語でもうまくできないことを英語でなんて、なおさらできない。英語で何か話してくださいと言われても、話せないですよね。
それに日本語は “あ・うんの呼吸” のように、言外に多くの意味を含む “ハイコンテクスト” な言語です。相手のことを思いやり察して、すべてを言葉にする必要がありません。一方、英語やヨーロッパの言語の文化的背景はきちっと話さないと伝わらない、というもの。だから自分の考えをしっかり話しますよね。そこは多少、文化的な違いもありますね。
小学校や中学校でも与えられた課題に対して自分がどう思うか、それをどう主張するかというロジカルシンキングのトレーニングがあれば、もっとアウトプットは出てくるだろうと岡田先生もおっしゃっています。
今は小学生でもけっこう英語が頭に入っているので、英語で物事を伝える “楽しさ” を体験すれば積極的に使おうと思う子も出てきます。そして “誰かと英語で話せたら楽しそう”、ということを自分で発見できるといいですね。そうすると、学習という意識なく、続けたらおもしろくなりそうと思うようになります。
それを中学、高校でディベートなどに引き継ぎ、ケアしてあげることで大学にもつながります。大学では英語で授業を行なうところも増えているので、より高度なボキャブラリーも増えて英語で議論ができるようになる。そうなるともう、バイリンガルですよね。英語で話すことも、発言もできる人になるでしょうね。
ー 英語が話せるというだけでなく、人としても成長しますね。
英語だからといって何でもズバズバ言っていいわけではありませんが、論理的な話し方や、自分の気持ちを言葉で伝えることが良しとされるので、これからの日本では、日本語を話す際にもいい影響を与えるのかなとは思います。
AIの自動翻訳も飛躍的に進化
英語の勉強はもう必要ない!?
ー AI(人工知能)が進歩し、自動翻訳機も使用可能なレベルになってきました。今後、機械を通せば問題なく話せるようになることを考えると、長い時間をかけて勉強しなくてもいいのでは、とも思うのですが、それでも身に付ける意味はどういうところにあると思いますか?
観光に行くだけなら翻訳機で十分だと思いますが、子どもたち同士、ビジネスの場ではどうでしょうか? しかしそもそも第二言語の獲得というのは、その言葉を使ってコミュニケーションをとることで、異なる文化や考え方があることを理解し、受け入れることです。今、世界は自国にだけ目を向けている国が多いように見受けられますが、違いを受け入れながらも発展させていくことが、これからのグローバル社会にとって大切なことだと思います。
ー より人間同士の付き合いができるようになることが獲得する理由ですね。
どんな言葉を使うか、どんな言葉で返してくるか、そこから相手の真意がわかったり、言葉は非常に重要な役割を果たすと思います。
それに機械ではわからないことがあると思うんです。たとえば、こちらが言ったことに対して、なぜ相手は怒ってしまったのか。日本人なら怒らないはずなのに何が失礼だったんだろうか、とか。そこに気づけるのは “人” だからですよね。
今からでも遅くない!?
大人の効果的な英語学習法
ー 大人が今から英語を学ぶいい方法はありますか?
IBSでは大人を対象にした研究はしていないのですが(笑)、第二言語を習得するのは、大人になっても最初にお話しした6つのポイントが大事です。まずはインプット、そしてアウトプットにチャレンジすること、いい仲間がいること、ネットを利用してもいいですよね。そして仲間とコミュニケーションできるようにいろいろと試行錯誤すること、間違えてもいいから話す、ということですね。
日本人は「英語」というと受験科目という意識があるので、三単現のときには動詞に「s」をつけなきゃいけない、間違えたらいけないという意識が働き恐怖にも似た感覚につきまとわれています。それは発音に関してもですが、そもそもきちんと聞き取れていないのに、発音できるわけがありません。そういう気負いが特に大人にはあると思います。間違えてもいいから伝えようと努力して、いろいろとやってみること。そうすると、そのうち自分なりの成功例が確立されていくので、こういう場合はこう応えればいいんだと、その蓄積が話すことにつながると思いますね。
最初は日常会話だと思いますが、そのうち映画や本の内容だったり、議論するようになったり、そういうことを絶やさず気負わず楽しむことが大切かなと思います。
ー 学習の基本は大人も子ども変わらないということですね。
そうですね。あと目標は大事ですよね。次はこの言葉やフレーズを使ってみたいな、とか。これが伝わったから、次はこんな話をしてみようとか。ちょっとしたことでいいので、ステップを踏んでちゃんと進むことが大事だと思います。
バイリンガル研究を進めつつ
英語を話す喜びを体験できるワークショップも実施!
ー 目標が大事ということで、IBSさんの今後の目標を教えてください。
IBSはどうしたら日本でバイリンガルを増やしていけるだろうか、というところを根幹としているので、これからも今まで同様、海外の論文をしっかり読み込んで伝えていきたいと思っています。
さらに、「ワールド・ファミリー」のユーザーでバイリンガルになった大学生たちにインターンシップのような形で参加してもらい、小学生のユーザーと英語でコミュニケーションをして、英語を話す喜びを体験してもらうワークショップをしたり、留学生と小学生で異文化交流会をしたり、今後は現場でいろいろな活動をしてみたいと思っています。
その結果、子どもたちがどうしたら英語を嫌いにならず、英語を話す喜びを感じてもらえるか、外国人や年の離れた人と英語でコミュニケーションできるか、ということに取り組んでいきたいと思っています。今はリモートもあるので、いろいろな大学の先生にもお声がけして、実現に向けて進んでいます。
本郷雅英(ほんごう まさひで)
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所 研究員、ワールド・ファミリー株式会社サービスプランニング部マネージャーを兼務。ディズニー英語システムで学ぶキッズや親への最適な英語学習環境の整備に力を注いでいる。
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(IBS)
幼児期からの英語教育の有効性や重要性を社会に対して提供することを主目的として設立されたバイリンガル教育の研究機関。言語能力が形成されるうえで一番敏感かつ重要な幼児期にこそ、英語教育を有効な方法で施すことによりバイリンガル、もしくはバイリンガル並みの英語でのコミュニケーション能力を手に入れることができるということを前提に、それらをさまざまな角度、アプローチで検証することを中心に研究活動を行なっている。
インタビュー後記
本郷さんのお話を15年くらい前に聞く機会があったら‥‥。子どもにしっかりとした英語教育をしなかったことは、大きな後悔であるとともに、申し訳なさでいっぱいです。
「極端に言えば、英語とプログラミングができれば将来なんとかなりますよ」と言ったのは、ICT教育の先生でした。確かに今、この2つができれば仕事に困ることはありません。子どもたちが仕事をするであろう20年後は今とは異なる状況にあると思いますが、英語とプログラミングが重要であることに変わりはなさそうです。もしかしたら、今以上に重要視されている可能性もあります。
現在、英語は世界54ヵ国で公用語・準公用語として使用され、総人口は21億人。ネット上の英語人口は10億5,000万人と言われています※。英語ができれば日本語の10倍以上の人とのコミュニケーションが可能で、やはり世界、可能性は広がりそうです。
確かに、6つのポイントを継続的に家の中に取り込むのは大変だと思います。以前インタビューをしたハーフの方々は確かに恵まれた環境でしたが、「母親の努力のおかげ」ともおっしゃっていました。そして、そのように育ててもらったことには大変な感謝をしていました。ハーフの方、そしてハーフの方のご両親にも、我々が思う以上のプレッシャーがあるのでしょう。
第二言語の習得にまったく努力を要しないということはなさそうです。しかし子どもたちは “遊ぶ” ように学べることも事実です。私たちは子どもの頃から英語をペラペラと話すことを目標にしすぎなのかもしれません。本郷さんのおっしゃった、「インプットはされているので、それを中学、高校に引き継ぎバイリンガルになっていく」「英語が話せないからバイリンガルになっていないということではない」という言葉は救いのように感じました。それくらいの期間を要するものだと、覚悟と余裕を持って、楽しみながら取り組むのがよさそうです。
※参考
世界の英語人口15億|日本も急増中!英語を習得すべき8つの理由
https://english-club.jp/blog/english-world-population/#2_21
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