
「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生×さやかさん
子どもは全然ダメじゃない。
ダメなのは “指導者”
ー とても目立つ表紙ですね。そしてこの『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』というタイトルには、多くの親御さんは引き込まれてしまうと思います。成功物語をベースに、それぞれの教科を学ぶときのコツなども書いてあり、参考書としても使えますね。坪田先生は塾のほか IT企業の経営もしていますが、子どもも大人も、モチベーションの上げ方というのは同じですか?
坪田信貴先生:ほとんど同じですね。人によって多少やり方は変わりますが、それが生徒だから、部下だからという違いで変わることはありません。基本的には子どもも大人も「ほめてのばす」です。まずは「できているところを認める」、もしできていない状態であったとしても、やってみてできるようになれば、「それができるようになったことを認める」できるようになったところまででもいいから認めるということを行なっています。
ー 書籍に「ダメな人間などいません。ダメな指導者がいるだけなのです」と書かれていますね。
坪田信貴先生:先生だけではなく、親も上司も経営者も、誰にでも言えることだと思っています。これは自分が良い先生ということではなく、生徒の成績が伸びない、部下の業績が伸びないというとき、それは誰の責任かと言えば、僕です。自戒も込めて、常に心に留めている言葉なんです。
ー 成績が伸びないときは、やり方を変えるんですか?
坪田信貴先生:そうですね。それまでにやっていた接し方、指示していた内容が間違えているはずなので、じゃあ今度はこうしてみようと、お互いに話し合ってやり方を変えてみる。それで改善されれば、「あっ、やっぱり指導の問題だったのか」となる。ほとんどそうですよね。
ー やり方を変えるという試行錯誤は、常に行なっているのですか?
坪田信貴先生:常にやっていますね。今までの経験があるので、子どもの指導に関しては、このタイプにはこのやり方かな、というのは、ほぼ一発でわかります。ただその後の具体的な指示などについては、いろいろと考えますよ。
子どもは性格で分けると9パターンほどあり、それぞれにやり方がありますが、大切なのはどのパターンにも共通して「子どもに対する無条件の期待」が必要ということです。これは「ピグマリオン効果 ※1」と言われるもので、「この子は絶対に伸びる、伸びないとしたらこちら(指導側)の問題で、現状その子が伸びていないとしたら、間違えたやり方を習慣化してしまっているんだろうな」ということを、指導側が意識することが大切ですね。
また「子どもを“ダイヤの原石”と思わない」ということも大切です。この表現をすると誤解されてしまうことが多いのですが、親の望む原石とは思わないということです。子どもは何かしらの原石ではあります。たとえばさやかちゃんは、好きな人に書いた手紙を見せてくれたことがあるのですが、「この子、文才あるんじゃない?」と思った。別の子はちょっとしたアイデアとか発想がおもしろくて、ソリューションを提供するのが得意だから起業家になったらどうかなとか、でも文才はあまり感じられなかったり。子どもにはそれぞれ“キラッ”と光るところがあって、でもそれは必ずしも親が期待していることと同じではありません。でもその光っているところを見つけて、そこを中心に伸ばしたり、そこは子どもをほめるポイントですから、見逃さないようにしたいですね。
※1 ピグマリオン効果
教育心理学における心理的行動のひとつで、教師の期待によって学習者の成績が向上すること。人は期待された通りに成果を出す傾向があるということ。

「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生
「ちゃんと勉強しろ」ってどういう意味?
具体的に行動を指示することが大切
ー 親はよく「やればできる」という励ましの言葉を子どもにかけます。これはピグマリオン効果とは違うのでしょうか?
坪田信貴先生:違いますし、「やればできる」というのはよくないですね。これを言い続けていると、ニートになりやすい。なぜかと言うと、「やればできる」は、まだやっていない状態ですよね。本来、まずはやってみることの方が重要なのに、「やればできる」というと、もしやってできなかったら、「やったけどできなかったね」と言われてしまう可能性が出てくる。つまりそれは、その人の才能や能力を否定することになってしまうんです。だからやらないでいた方が、「やればできる」と言い続けてもらえている状態のままでいることができる。だからやらない。たとえばずっとゲームをしていて、テストができなかった。でもそれは当たり前。テスト勉強をしていないから。でも「やればできる」とずっと期待してもらえているんです。だから「やればできる」というのは言わない方がいい。むしろ、何をすればいいかを、ひとつひとつ丁寧に教えてあげるんです。
学校から家に帰ったら、
① まずイスに座る、イスに座った状態で
② ランドセルを下ろす、次に
③ ランドセルの蓋を開けてテキストを机の上に出す
と行動を教えてあげて、まずはこの3つのポイントをやってみようと。子どもが「ただいま」って帰ってきたら「今日何するんだっけ?」と。そしたら子どもが「まずは座って」と、「そうそうそう、素晴らしい、ちゃんとできたよね」と、親はできたことを認めてほめる。次、何する? 「遊ぶ!」「惜しい!」ランドセルを下ろして、教科書と筆箱を机の上に出して‥‥と、ひとつひとつの行動を指示することで、必要な行動ができるようになる。“やったらできた”ということを繰り返した方がいいと思います。それをざっくり「とにかく家に着いたら勉強しなさい」と言われても、「後で」とか、「とりあえずソファに座ろう」とか、親の言う「勉強しなさい」と、子どもが理解する「勉強しなさい」の認識はズレていくんです。そうならないためには、ひとつひとつ指示を出すことが必要なんです。

「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生×さやかさん
「わかった?」は
言ってはいけないアホな質問
坪田信貴先生:僕は塾の先生(部下の講師たち)に、「ちゃんと予習しろ」「ちゃんと復習しろ」「ちゃんと勉強しろ」、そして「わかった?」という言葉はもっともアホでくだらない質問だから、絶対に言うなと言っています。つまり、「ちゃんと予習しろ」というのは、3回書くのか、1回音読するのか、問題を2問解くのか、どういうことを指しているのかわかりません。経験値や教科によってやるべきことは全然違うじゃないですか。もっと具体的に行動を指示することが大切なんです。
それに、「わかった?」と子どもに聞いて、「わかりません」と答えるのは、「私はバカです」と言っていることと同じなんです。だから子どもは、わかってなくてもわかったと答えてしまう。「わかったかどうか」は教えられている方(子ども)ではなく、指導側が判断することなんです。たとえばある問題の解き方を教えたら、もう1問同じような問題を解かせてみて、それによってその子どもがわかったかどうかを、指導する側が判断します。問題が解けたら「できたね、素晴らしいね」とほめる。できれば本人も自信になる。逆にできなくても、途中まででもできていれば、それは成長の証ですから、まずはそこまでを認める。そしてもう一度教えてあげる。できなければ本人もくやしいし、できるようになろう、がんばろうという気に、だんだんなってくると思います。
さやかちゃんとの勉強で、昨日覚えた英単語を忘れていないかチェックしているとき、それに関連する類義語などの質問をしていました。最初は「はぁ〜、わからない‥‥」という返事だったのが、だんだんと「絶対に聞かれると思ったから調べてきた」と言って、どう先回りしてやろうかという遊びみたいになっていきました。遊びなら楽しいし、そうすると出題者の意図みたいなものを探ってやろうとか、だんだんと広がりが出てきます。自ら勉強のやり方を見つけていくんです。こうなると、いちいち行動を教えてあげなくても、自分で勉強ができるようになりますね。

「子どもの夢の叶え方」第9回 さやかさん
ほめられなかったら、やんねーよ!
ー さやかさんは、そういう先回りをする考えができるようになったのは、何がきっかけですか?
小林さやかさん:先生とのやりとりが楽しかったのもあるし、「ほめられたい」という気持ちはありましたね。意外と子どもってほめられる機会がないんじゃないかなと思うんですよね。でも先生は、あからさまに、できたらできたぶんだけほめてくれたので、「明日はもっとほめられるように頑張ろう!」と思うんじゃないかなと思います。私もそうでした。
ー 大人になっても、ほめられると嬉しいですからね。
小林さやかさん:ほめられなかったら、やんねーよ! 絶対やんねー、みたいな(笑)
坪田信貴先生:(笑)。今のさやかちゃんの言葉は表象的に聞こえるかもしれないけど、実はとても本質的なことを言っていると思います。教室では1対40、家ではお母さんが家事をやっていて、お父さんは仕事で疲れてずっとテレビを観ていたりして、子どもが「今日ね」と話かけても生返事をしてしまったり、それは夫婦間でも問題になることですが、でも子どもが唯一、1対1で徹底的に見てもらえる瞬間というのがあって、それは、怒られているときなんですね。
怒られるときって、1対1で30分でも徹底的に怒られるじゃないですか。逆に1対1で30分間徹底的にほめられることってないですよね。これ、おかしくないですか? むしろ30分間徹底的にほめるということがあってもいいと思うんですよ。さやかちゃんの言った「ほめられないとやんねーよ」というのは、怒られることがあまりにも多すぎて、見られているのは悪いところばかり。そうじゃなくて、もっと良いところを見てほしい、ということでもある。世の中的にも良いところを見るという環境(社会)になれば、もっと自発的に良いことをやろうということになると思うんですよね。その意味で、おもしろい発言だったな。「ほめられないとやんねーよ」だけ切り取られちゃうと違う意味になっちゃうけど。
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「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生
親が勉強しその大切さを理解してれば
小学校の勉強はもっと丁寧に教えるはず
ー 先生の塾は中高生が対象ですが、キッズイベントの読者の方は小学生をお持ちの方が多いので、少し対象年齢を下げて質問にお答えいただきたいのですが、小学生の子どもが勉強するうえで、親が気をつけておくべきことは何ですか?
坪田信貴先生:小学生のときって、親御さんがけっこう勉強を教えますよね。でも子どもが中学生くらいになるのを境に、教えられなくなってきます。高校になるともうお手上げで、塾や家庭教師にお願いするしかない。これは逆に言うと、小学生くらいの問題だったらできると、少しなめた感じがあるんです。だから「なんでこんなこともわからないの?」という上から目線になりがちなんです。でもこれが一番、子どもたちにとって勉強が嫌いになる原因なんです。つまり「できて当たり前」「大したことじゃない」ということじゃないですか。すると、できても大してほめられないし、できなかったら怒られたり、あるいは、まだまだ未熟だなということを認めさせる指標になってしまう。
たとえば子どもが九九を習うと、親御さんはよく「サンシチ?」とか質問しますよね。で、子どもが「サンシチ‥‥」なんてちょっとでも詰まると、親御さんの顔色は一瞬で曇ります。そんな表情をしようものなら、言葉で言わなくても「こんな問題もできないのか」感が噴出しています。逆説的ですが、小学生のときにやっているこの問題が、いかに“大事な基礎”か、ということは、大学入試対策をしていると、よくわかります。そう思えば、もっと丁寧に教えるんじゃないかな。
“0” が “1” になる瞬間を
子どもと一緒に喜べるように
坪田信貴先生:個人的には、親は小学生に勉強を教えない方がいいと思っています。中学や高校は難しい、でも小学校は簡単だから教えるというのは、子どもの勉強嫌いを加速させてしまう危険性がある。小学生時代は “0” が “1” になるとき。指導者はそんな簡単な問題はできて当たり前と思わず、そこを喜べないとダメなんです。
最初さやかちゃん(高校2年の夏に塾に来た当初の学力レベルは小4程度)に、「君の日本史の最高知識を教えてくれ」と言ったら、最初は「なんもわからん」と。「そうだろうなぁ」とは思いましたが(笑)、「もう高校二年生なんだから、何かひとつくらい知ってるだろ? 1個くらい考えてみて」と。「え〜、わかんな〜い」とか言いながらも「いいくにつくろう‥‥」と言ったんですよ。その瞬間、明確に成長しているんです。だってスタート時点では0だって言い張ってたわけじゃないですか。でも「ちょっと考えてみて」と、「なんでそんなことも知らないの!」ではなく、引き出そうとしたら、自分なりに考えて「いいくにつくろう」が出てきたわけです。これって0だったのが1になったわけですよね。「おおお!」ってなりません? そこを見てあげる目が必要なんです。続きが「平安京」と言われたときには一瞬「うううっ」ってなったんですけど、「いいくにつくろう」は「鎌倉幕府」じゃんというのは、指導側の基準なんです。そうじゃなくて、0だったのが「いいくにつくろう」と出てきて、さらに「平安京」という、意外と時代の近いワードが出てきたら、「平安京って知ってんだ、すごいじゃん、1192年という年号とあわせると2つも知ってんじゃん」となることによって、「さっきまで0だったのが、この瞬間に伸びたよね」というのが、相手にも伝わると思うんですよね。

「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生×さやかさん
ところがその後に「平安京さんて何した人なの?」と聞かれました。でもこれも実はすごいことで、もともと「なんもわからん」と考えもしなかった子が、自分から何か関連する知識をひねり出し、さらに自分で言ったことについて、何だろうなと疑問にまで思ったわけです。「すげぇ!」ってなりません? 「すげぇ!」となりつつも「平安京が人!?」というのはありますが、さやかちゃんは、僕の先生力というものをすごく試され、高めてもらった感じで、「人かぁ」と思いつつも、2つも知ってんじゃんと。僕がどう答えようかと考えていたら、「あ、そうか、いい国つくった人か」と自己完結して、僕の心はちょっと折れましたけど(笑)。でもこの葛藤は、彼女が “0” から “2” になった瞬間を、僕なりに精一杯味わおうとしているんです。最初の段階で、「はぁ? そんなことも知らないの?」と言ってしまったり、そんな表情を浮かべただけでも、子どもは敏感に感じとって傷つき、「この人の前では歴史の話はしないでおこう」「もう答えは言わないようにしよう」となってしまう。そういうのが、もったいないなと思いますね。そう、もったいないんですよ。
子どもが生まれて、ちょっと数字か何かに興味を持ったりすると「天才だ!」なんて思ったりして、ものすごくテンションがあがりますよね。でも幼稚園に入って同じ年頃の子どもを見ると、明らかにある部分では他の子どもの方がよくできていたりして、自分の子って普通だなと、もしくは普通よりダメじゃん、と感じてしまうことがあります。小学校に入るとそれはさらに広がって、明らかに天才ではないと確信すると(本当は、自分の期待以外の何かの天才かもしれないのに)、それまでの期待の裏返しというか、期待が大きかっただけにがっかり感も大きく、「は? もっと勉強しなさいよ!」みたいになってしまう。子どもにとって、この親の変わり身はショックです。子どもたちはこれを小学生時代に強く経験してしまうんです。だから多くの子どもたちは、勉強が苦手になってしまう。
子どもだって本当は、お母さんをがっかりさせたくないと思っています。だってお母さんって、子どもにとっては一番大切な人なわけですから。でも、親御さんはなんかもうあきらめちゃって、逆ピグマリオン効果が起きてしまっている。小学生時代は、こういう状態に陥りやすい時期なんです。だからちょっとでもできていることはほめて、親御さんも “0” が “1” になる瞬間を、子どもと一緒に味わってほしい。小さいときにちょっとしたことができて、それで大喜びしたことってありますよね? その感覚を、子どもが小学生・中学生くらいまでは忘れずに持っていてほしい。そうすると、もっと楽しいですよ。

「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生
わかってもらえないのは
説明が悪いから
やって見せることも大切
ー 勉強を教えていて、何度言っても子どもができないとイラっとして怒ってしまうことがありますが、先生はそういう感情はないのですか?
坪田信貴先生:「こういう風にやってごらん」と言って子どもができなかったとしたら、イラっとするのは自分に対してですね。うまく教えられなかったということに対して、自分に腹が立つわけです。あえて“しょせん”と言いますが、しょせん高校生くらいまでの学校の勉強なんて必ず答えがあるわけです。いかにそこに導くかという解法も、いくつかのパターンが決まっています。つまり、その子に合った解法というのを、うまくプレゼンテーションできなかったわけです。たとえば仕事などでクライアントにプレゼンをしたけれど、クライアントはイマイチよくわかっていない顔をしている。そのとき、どう思いますか? 大抵の人が「説明が悪かったかな」とか、「資料がわかりづらかったかな」と思いますよね?「なんでこいつはわからないんだ」とイラっとするのって、確かにそういう人もいますけど、多くの人は、自分がうまく説明や準備ができなかったと感じます。子どもに対しても、同じであるべきなんですよ。
最近 “なるほど”と思ったことがあって、妻がアイロン代の足をたためなかったんですね。僕からすると、そこを押せばパタッとたためるじゃんって思うんですけど、説明してもできなくて、一瞬イラっとしましたが(笑)、待て待てと、僕の方が彼女よりも10歳くらい年上で、経験があるわけです。僕には簡単に見えるけど、それだけ年の差があるとわからないのかもしれない。子どもだって、1年違えば経験の差はとんでもなくあるわけです。それが10年も違えば、まったく違うわけです。それを“なんでできないんだ”というのも、おかしな話だなと、“なるほど”と思ったんですよね。
どう説明すれば伝わるか考えて、そのときは確か足をたたんでみせました。やって見せるというのも大切です。まずはやってみせて、算数なんかでもまずはやってみせ、そのポイントを伝え、そして自分でやってごらんと、やらせる。まさに山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」です。正論ですよね。でも現実は、みなさんあまりやっていないんです。
なぜ「やってみせ」が重要かと言うと、ビジョンというか、絵で見ることが大事なんです。たとえば「日本一の会社にするぞ!」というのをよく会社のビジョンと言ったりしますが、日本一の会社って何なんだと。売上なのか、規模なのか、技術なのか。何が日本一か、もっと具体的にしなければならない。学習指導もこれと同じで「移行してみて」とだけ言ってもピンとこなかったりする。でもやって見せると、こういう手順かというのがわかり、じゃあポイントって何だった、というのを言わせてみて、ポイントを3つくらいに整理して、それを見せない状態にして、じゃあもう1回やってごらんと、やらせてみて、途中で止まっても、0からは成長しているわけです。完璧にできたらほめるんじゃなくて、ちょっとでもできたらほめる。できたことを認めるということが大事なんです。これを10回でもやれば、たぶんそのワンセットはできるようになる。だから単純にこちら側の忍耐と、指導の手法の問題ですよね。こちらはたくさん経験してきたからできるわけで、だから指導する立場にいて、それを「なんでできないんだ」って言うのは、その指導者が悪いですよね。そもそもできるなら指導者はいらないですし、できない子をできるようにしてこそ、その指導者に意味があるわけです。

「子どもの夢の叶え方」第9回 さやかさん
子どもの自発性を養うには
親はできない方がいい
ー さやかさんのご両親は、さやかさんに勉強を教えてくれましたか?
小林さやかさん:たまに教えてくれましたね。算数でコップのなかの水に関する問題があって、お母さんがコップを持ってきて一生懸命説明してくれるんですけど、本当にわからなくて、「わかんない、わかんない」って言って、お母さんがすごく困った顔をしていたのを、よく覚えています。「なんでできないの」とは言われませんでしたね。「どうやったらわかるかしら」と、私より悩んでいました。
坪田信貴先生:一緒に悩むというのも大事なんですよね。
ー その時のお母さんに対する印象は? 好印象だったんですか? さやかさんはどういう気持ちでしたか?
小林さやかさん:「もっとうまく説明しろよ」って思ってました(笑)。お互いちょっとイライラしてたかも。実際にコップを持ってきてやったんですけど、わからなくて。でもお父さんが来て、ちょっと説明してくれたらわかった。お母さん落ち込んでましたね。それ以来、あんまり教えてもらった経験はないです。お母さんの方がトラウマになっちゃったかもしれません(笑)。
坪田信貴先生:親が苛立ちをぶつけて叱っているのか、誠意を持って教えてくれているのか、子どもはすぐにわかりますし、これは親への信頼につながります。あくまで傾向ですが、塾に来る子も、父親が立派な仕事をしていて、母親が教育熱心であるほど、グレる傾向にあります。それは、お母さんに対するプレッシャーがよくないんです。たとえばお父さんがお医者さんの場合、その子のお母さんには、お父さん側のお母さん、つまり姑からの無言のプレッシャーがあります。姑は子育てを成功させているんです。子どもを医者に育てたわけですから。ということは、息子の子どもが医者になれなかったら、お母さんのDNAや、子育てに問題があるということになる。これが無言のプレッシャーとなって、必死にどうにか医者にしようとして、子どもがうまくできないと、お母さんがキーッとなる。お父さんがエリートで、お母さんが教育ママだと子どもはキツいですね。お母さんが追い詰められちゃって、その苛立が子どもに向かい、グレるか、自発性がないボーッとした子になりやすいんです。親はあんまりいろいろ言わない方がよくて、よく言われることですが、お母さんが何もできない方が、子どもの自発性が育ち、いろいろなことを自分でできる子になりやすいです。塾の指導でも自発性を持たせようとしていて、子どもの質問に質問で答えたりして、自分で調べさせます。調べ方はしっかり教えるので、魚を釣ってあげるのではなく、魚の釣り方を教えるという感じです。

「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生×さやかさん
個性はあるけど、脳は鍛え方次第
脳の良し悪しで学歴は変わらない
ー さやかさんのご両親は、夫婦関係を良好に保てなかった時期がありました。夫婦関係は子どもの勉強に影響があると思いますか?
小林さやかさん:あると思いますよ。だって仲が悪いと家に帰りたくない。だから友だちに依存しちゃって、友だちがたまたま派手ならそっちに行っちゃう。悪いことじゃないし、いろいろな経験もできて結果的にはいいことでしたが、仲のいい親の子どもは、すごく恵まれていると思います。意外と難しいようですし。私は協力しあっていくぞ! と思って、結婚しました。
ー 日記を見るとわかりますが、受験の4ヵ月くらい前、精神的にかなり辛くなってきています。しかしそれを乗り越え、さらに自分を追い込んでいます。なぜそこまでできたんですか?
小林さやかさん:母、ですかね。私のことを本当に真剣に考えてくれていたので。坪田信貴先生に出会っていなければ慶應には行っていないと思いますが、母のおかげで、幸せになっている自信はあります。
坪田信貴先生:この信頼関係が理想の親子関係ですよね。これだけの絆があれば、外で何かあっても絶望しないですみます。帰る場所があるって大切なんです。
ー 脳には、やはり生まれ持った、努力ではどうしようもない善し悪しがあると、脳科学の先生に聞いたことがあります。
坪田信貴先生:確かに、世界一になるには、もともとの脳が持っている性能、つまり才能が必要だと思います。しかしほとんどの大学受験レベルなら、すべて解法パターンがあるので、数学なら2,500パターン、英単語は8,000語から最大1万語くらい覚えればいい、物理なら250の解法パターンと、だいたい決まっています。あとは単純にどれだけ量をこなせるかです。そう考えると、ほとんどの大学への合否は脳のもともとの良し悪しで決まるわけではないんです。脳の性能差で学歴が変わるなんてことはありません。個性はあるけど、脳は鍛え方次第です。
才能の差ってどういうことかと言うと、たとえばウサイン・ボルトと100m走の競争をしたら、ボルトは10倍くらい早いと思いますか? ボルトは100mを9.58秒、一般男性だったら100mを15秒くらいでしょうか。とすると、その差は1.5倍くらいしかありません。世界一との差が1.5倍。センスや才能というのは、それくらいの差でしかないんですよ。確かにこの差は努力では埋められないし、とても大きいのですが、10倍も20倍も差があるわけじゃありません。こちらの取り組み方次第では、1.3倍くらいまでに縮めることはできますよね。

「子どもの夢の叶え方」第9回 坪田信貴先生×さやかさん
親はもっと自分の人生を生きよう!
その姿を見せることも大切
ー 究極的に言うと、親は子どもに勉強を教えない方がいいんでしょうか?
坪田信貴先生:先生になるには資格が必要です。塾の講師には資格は必要ありませんが、勉強したり、経験を積んだり、やはりそれなりの覚悟で指導しています。親御さんも資格がないのに指導者、教育者になっています。しかし人を教えるということに、どれだけの知識や覚悟があるのか、中途半端にいろいろ指導すると、子どもの可能性を潰してしまうことになりかねません。勉強や練習をしていないのにうまくできることって、そうそうないですよね。勉強を教えることも、そうです。親は、その漢字のごとく、木の上に立って見る、見守るというのがいいのかなと思います。もちろん、実際に出て行くことも必要ですが。
人から聞いた話をちょっと試してすぐに結果が出るほど教育は甘くないというのは、おそらく誰もが自らの経験からもわかっていることだと思います。子どもが何もしなくてもうまくいっているのは、それはすごいラッキーなことです。でも、受験に成功するばっかりが成功ではありません。向き不向きもある。性格の違いって、たとえば赤と青みたいなもので、それを同じ色にしようとすると黒くなっちゃう。むしろ青をもっと鮮やかな青にするとか、そういう見方も必要ですよね。どうしても目先に目が行ってしまうのはわかりますが、もっと遠くを見られるよう、親御さんが今より大きな木になって、より遠くまで見渡せるようになる必要があると思います。
時間管理のできない子が、できるようになるって、すごいことなんです。何年も培ってきた習慣を変えるということですから。それくらい大変な目標を親御さんも自ら設定し、日々努力し、達成するという姿を見せるというのも、いいんじゃないかと思います。
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インタビュー後記
明るく朗らかで、よく笑う坪田信貴先生。なるほど、この雰囲気で子どもたちは自然とやる気になるのかなと感じました。ひとりの親として耳の痛い話も多く、理想と現実のように思えるところがまったくないとは言えませんが、親が子どもにどう向き合えばいいか、間違えた接し方をしていたところもあったと実感しました。そう言えば自分が子どもだった頃、自分も親にされて嫌だなと感じたことではなかっただろうか。
しかし、多くの親御さんも頭では理解していると思います。わかっているけど、実行が、やっぱり難しい。詰まるところ “忍耐”だ。坪田信貴先生もおっしゃっていましたが、どれだけ手間を惜しまず、我慢強く向き合い続けられるか。改めて自分を見ても、そんなに大した人間じゃない。子どもに、そんなに偉そうなことは言えないな。
子どもの“キラッ”と光っている部分を見つけ、ほめることからはじめよう。そして、今からでも遅くない(たぶん)。“0” が “1” になる瞬間を、子どもと一緒に楽しみたいと感じました。
小林さやかさんのお母さんは、さやかさん想いの素晴らしい人です。今回のインタビューではあまり触れられませんでしたが、書籍に詳しく書いてありますので、ぜひ一度、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』を読んでみてください。役に立つことが、たくさん書いてあると思います。
坪田 信貴(つぼた のぶたか)
株式会社青藍義塾 代表取締役 塾長。学校法人大浦学園 理事長。自ら生徒を指導する教育者でありながら、同時にIT企業など複数社を創業した起業家であり、それらの経営者でもある。その活動の場は日米にまたがり、ネイティブ並みの英会話力を誇る。TOEICは990点(満点)。これまでに1,000人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習指導法により、生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。教え子には、「高3の夏まで文系クラスだったが、その後、理系に転向して国立大学医学部に合格した女の子」「高3時に学年で100番以下だったが、東京大学に合格した男の子」など、異例のエピソードを持つ者多数。
小林さやかさん
中学、高校で学年ビリを経験し、高2の夏に小学4年レベルの学力しかなかった元ギャル。素行不良を理由に何度も停学になり、学校の校長に「人間のクズ」と呼ばれたことも。高2の夏の坪田信貴先生との出会いを機に、日本最難関レベルの私大、慶應義塾大学の現役合格を目指すことになる。結果、1年で偏差値を40上げて、複数の難関大学のほか、慶應義塾大学に現役で合格を果たす。現在は、ウェディングプランナーとして活躍する。
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