「第45回 世界体操選手権」団体総合「銀」、個人総合「銅」それぞれの想い
ー 少し練習を拝見させていただきましたが、今日は調整日で緩やかな練習でした。最近は主にどんな練習をしているのですか?
11月25日(火)に出発するのですが、ドイツ※1とイギリス※2で個人総合の大会があるので、今はそれに向けて6種目全体の練習をしています。11月2日(日)に「第68回 全日本体操競技団体選手権」※3が終わり、所属しているコナミスポーツクラブが2年連続の優勝を飾ったので、その勢いのまま、今は次に向けて動き始めているところです。まずは体力を戻して、個人総合の大会なので、ミスのない演技をするためにも演技を続行する練習をしています。
※1 11月30日(日)のFIGワールドカップ個人総合・ドイツ大会(ドイツ・シュツットガルト)
※2 12月6日(土)のFIGワールドカップ個人総合・イギリス大会(イギリス・グラスゴウ)
※3 全日本体操競技団体選手権:国際大会で日本代表として世界と戦った世界選手権、アジア大会の代表選手が、それぞれの所属チームで日本一をかけて戦う選手権。コナミスポーツクラブは今年優勝したことで二連覇を達成。順天堂大学、日本体育大学、徳洲会など8チームで戦う。
ー 体力をつけるためにランニングなどはしないのですか?
する人もいますけど、僕はしないですね。通して演技をする中で体力をつけていきます。試合で6種目の演技をするのは、体力的にも、そして精神的にもかなり辛いですね。
ー 10月に中国の南寧(ねんねい)で開催された「第45回 世界体操選手権」は、団体総合で「銀」、個人総合で「銅」でした。団体総合は最後の鉄棒で中国に0.1点差の逆転負け、個人総合では初の銅メダルでしたが、この結果についてはどう思っていますか?
団体総合は0.1点差で中国に負けました。言いたいことはいろいろありますが、中国は緊迫する中での最終種目の鉄棒の演技で、3人が大きなミスなくできていたので、強かったと思います。全体を通してもチームとして強かったので、負けは負けとして受け止め、でも日本の良い体操、美しい体操を世界にアピールすることができ、世界も認めてくれているので、来年、再来年の団体総合優勝へとつながる戦い方ができたんじゃないかと思っています。
個人の銅メダルに関しては、良かったです。個人としては種目別も含めて初のメダルなので、がんばってきて良かったな、がんばったかいがあったなと思っています。
ー 団体総合で「銀」という結果が出た後の、お姉さん田中理恵さんとのインタビューがとても印象的でした。「悔しいな」という理恵さんの言葉と沈黙と、お2人とも目に涙が浮かんでいましたが、あのときはどのような気持ちでしたか?
テレビじゃ言えないけど「日本が良かった」と姉もわかっていたと思うんですよね。でも公には言えないので、その悔しさもあったり、今思えば、そういう気持ちだったのかなと思います。姉の涙が見えたので、それでもらい泣きしそうになっていました。
ー 団体総合と個人総合への想いや意気込みは、どのように異なりますか?
練習に取り組む気持ちや練習内容は同じです。自分のやることをやるだけですが、いざ大会となると、団体の方が責任を感じますね。次に“たすき”をつなげるような気持ちで、ミスなく、次の選手にプレッシャーがかからないようにつなげる。自分が良い演技をすれば次の人もやりやすくなるので、良い流れをチームでまわして全員が演技を揃えられるよう、自分の演技をミスなく終えることが大切です。団体で大切にしているのはそこですね。
ー 今回の団体戦のキャプテンは内村航平選手でしたが、残る4人の選手内で、たとえばムードメーカーの選手など、役割はありましたか?
今回のチームでは、特に役割みたいなものはなかったですね。ほとんどが日本代表の団体経験者で、みんな個々に気持ちをつくれる選手だったということもあるかもしれません。僕は2011年の世界選手権が初の世界選手権で、しかも初団体、そのときはあまり結果が良くありませんでした。今回は野々村選手がその状況だったので、表情が固いかな、と思ったときには声をかけたりしていました。
声かけの天才 !? 田中選手の一言が、やる気に火を付ける
ー 声をかけると言えば、田中選手はお姉さんを「いつになったら本気だす?」という言葉で本気を出させ、今回の世界選手権でも「いい色のメダルを獲りましょう!」と、内村選手のスイッチを入れていましたが、人のスイッチを入れるのがうまいですね。
特に意識しているわけではないので、知らず知らずに押しているのかもしれないですね。姉のときは、こっちが必死で練習しているのに姉が練習していなかったので、たぶんちょっと、「なんで練習してへんねん!」という、多少イラッとした気持ちがあったから出た言葉で、そこまで深くは考えていませんでした。今回の航平さんのときも、今から試合に出発! というとき、なんかこう、自分自身気持ちが高ぶって、その気持ちが素直に言葉になったんだと思います。
ー それだけ自分のコンディションも良かったのですか?
そうですね。今まで体操をしてきたなかで、一番良い準備ができて、良い体調で望めた大会でした。
ー 今回の個人総合の「銅」でオールラウンダーという印象が一層強くなりましたが、オールラウンダーと、得意としている鉄棒や平行棒のスペシャリストとの違いは?
代表選考を狙う上ではオールラウンダーとしての力と、そのなかでも得意な種目がうまくなることを目指します。しかし代表に入って世界選手権やオリンピックに出てしまえば、自分の得意な種目で貢献することを考えます。特に団体決勝は種目が絞られるので、そこはスペシャリストの力が生きてきますし、どちらかというと、最終的にはスペシャリストの力が必要だと思います。
ー 個人総合では内村選手もライバルになりますが、今回金メダルだった内村選手との1.5点の差は何だと思われますか? またそれはどのように縮めていきますか?
正直に言うと、ライバルという感覚ではないですね。1.5点の差も、ここから上の1.5点差は相当厳しくて、数字で見えている以上の差があります。個人総合で戦うというよりも、航平さんに付いて行き、チームとして一緒に団体総合で戦って、結果を残したいという想いの方が強いです。
■ 次はオリンピックを目指したきっかけ、挫折からオリンピック出場へ!
田中 佑典(たなか ゆうすけ)
1989年11月29日、和歌山県生まれ。順天堂大学出身。コナミスポーツクラブ所属の体操選手。体操一家に育ち、田中和仁、田中理恵との3兄弟の末っ子。7歳で体操をはじめ、高校2年の2006年に史上最年少16歳でナショナル強化指定選手に選出。2008年、1年生ながらインカレに順天堂大学のチームの一員として出場し、内村航平率いる日本体育大学を僅差でかわして優勝。2011年に世界選手権の初代表、初出場。2012年のロンドンオリンピックには兄の和仁、姉の理恵と日本体操史上初の3兄弟で出場、団体総合銀メダル獲得に貢献した。2014年の世界選手権では個人総合で銅メダル、団体総合で銀メダルを獲得。
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