動物の視点から動物を、そして人類の営みを見たい!
2万年に渡る動物と人類との共存の歴史
ー『シーズンズ 2万年の地球旅行』は、動物を通して2万年にわたる自然の歴史を描いています。2001年の『WATARIDORI』で鳥を、2009年の『オーシャンズ』で海洋生物を取り上げ、陸の動物の映画は、自然な流れだったのでしょうか?
これまでに空を飛ぶ鳥類たち(映画『WATARIDORI』)、海で泳ぐ海洋生物たち(映画『オーシャンズ』)と撮影をしてきて、その後に当然のことながら地上の動物を撮影したいと思ったわけですが、それだけでは映画にするには不十分だし、モチベーションはあがりませんでした。
それから1年くらい経ったある日、突然、もうひとつ別の要素を取り入れたらいいんじゃないかと思ったんです。森の住人(動物)たちを時空の中に置いて、彼らが生きてきた歴史、今までは人類からの視点でしか語られてこなかったけれど、彼らも同じように、人類とともに、あるいは人類の行為を受けながら生きています。そういう彼らの歴史を彼らの視点から描くこと、さらにカメラを動物の横に据え、動物の視点から人間の営みを見る、そうすると何が見えて、どんなことを感じるんだろう、それが私たちにとって大きなモチベーションになると感じました。そこで最後の氷河期から現在に至る2万年の歴史というものを、動物の視点で描こうと思ったんです。
ー 映画を拝見させていただき、まさにその動物が動物を見ているという視点が新しくて、とても印象的でした。
“動物の視点”を描くため、常に動物の位置と、そこからの視点を考えて、いくつものカメラをセットしました。たとえばカラスがオオカミの狩りを見ているというシーンでは、ドローンにつけたカメラからの空撮と、木に取り付けたカメラからの撮影で、カラスが飛びながらオオカミを見ている視点と、木に止まって見ている視点を描いています。
ー 動物の位置や目線を考えて、複数のカメラを移動しながら撮影していたんですね。
そうです。そして絶対に動物たちの目線よりもカメラが上にならない、ということに気をつけていました。上になると人間の視点になってしまうんです。たとえばハリネズミの視点を表現するには、ハリネズミと並走する穴を掘ってカメラを沿わせていましたし、正面から捉えたいときはどうしてもカメラの方が上になってしまうので、鏡を使って撮影していました。
ペラン監督とともに常に挑戦! 動物たちの“生命の躍動”を、どう写すか
ー さまざまな動物が出てきますが、撮影するにあたり特にこだわった動物はいますか?
今回の作品には70種類ほどの動物が出てきますが、そのなかでひとつだけ思い入れの強い動物をあげるとすれば「オオヤマネコ」ですね。子どものころから成長していく姿を描いていますが、彼は撮影中ずっと我々に付き添ってくれていました。しかも非常に表情豊かで、ジャック・ペラン監督は撮影した映像を観ながら「なんて素晴らしい俳優なんだ」と驚いていました。スクリーンで見つけたら、みなさんも私たちと同じように気に入っていただければいいなと思っています。
ー 動物も本当に素晴らしいのですが、映像も驚きの連続でした。
どのように撮影していたのでしょうか?
いつもぺラン監督と仕事をするときに挑戦していることは、“どうやって動きの早い動物たちに寄り添って、彼らの生命の躍動する姿をそのまま映像に収めることができるか”ということです。今回の映画なら、オオカミ、馬、イノシシ、みんな木々の間をかいくぐりながらものすごいスピードで走っていくわけです。
そこで我々の最初の挑戦は、求める映像を撮れるようにする、新しい機材を発明することでした。今までの映画でも新しい機材を開発してくれた、我々のスタッフがつくってくれるのですが、今回は音が静かな電動式の四輪バギーを新たに開発し、これにより狩りをする動物と並走しながら、時には動物たちに先んじて撮影することができました。
ー 『オーシャンズ』から8年経って、撮影に関するテクノロジーにも進化はありましたか?
カメラに最新のソニー「F65RS」を使いました。微細なところまでキレイに写る8K撮影なので、女優さんや俳優さんがメインのフィクションには向きませんが、ドキュメンタリーの場合は、動物の毛並みや羽のディテールのすべてを捉え、肉眼では見えないところまでクッキリと映し出してくれます。
たとえば、ひなにエサを与える親鳥の映像を見たことがあると思うのですが、『シーズンズ 2万年の地球旅行』では、エサに何を与えているかまで見ることができます。これまでは鳥を研究している人たちが鳥を調べ、精密な絵で記録していたものを、今回は映像で見ることができるのです。それは、このカメラのおかげですね。
厳しい環境での撮影には、“運”も必要
ー 人間が危険な場所に行って厳しい環境の中でチャンスを狙うという、肉体的にも辛い撮影だったと思いますが。
この映画の最初は2万年前の氷河期からはじまります。そこで我々は、氷河期に生きていたであろう動物と似ている動物を、現代において探さなければなりませんでした。しかもただその動物を撮るだけでは不十分で、極寒の雪のなか、あるいは凍るような環境下で、その動物の映像を収めるということがとても大切なことでした。
そこで我々は北半球でも一番の極北、ノルウェーの最北まで行き、雪の中ジャコウウシを撮影しました。ジャコウウシというのは、そのころの原始的な姿を未だに残している動物なんです。さらに今回は四季の移り変わりも描いているので、撮りたい天候のタイミングを待たなければなりませんでした。嵐、雪、雨、そういうタイミングにうまく出くわすには“運”も必要でしたね。
■ 次ページでは、映画『シーズンズ 2万年の地球旅行』込めた想い、子どもたちに伝えたいこと!
■ 映画『シーズンズ 2万年の地球旅行』キッズイベント親子試写会レポートはこちら!
シーズンズ 2万年の地球旅行
2016年1月15日(金)、TOHOシネマズ 日劇他 全国拡大ロードショー!
日本でも大ヒットを記録した『オーシャンズ』(09)のジャック・ペラン × ジャック・クルーゾ監督コンビが、構想4年、総製作費40億、最新の撮影機材と歴史学、動物行動学、人類学、哲学、民俗学、植物学ら多くのスペシャリストとともに、時空を超えた感動的なストーリーを紡ぎだした。氷河期が終わり、あらゆる生命が春を謳歌し始めた2万年前から現在、そして未来へと至る地球の歩みを、動物の目でとらえるまったく新しいネイチャー ドキュメンタリー。2万年という悠久の時間、そこで懸命に生きる生命をドラマティックに描く。
ジャック・クルーゾ
1979年パリ第8大学映画科を卒業。80年から91年までフィクション映画の第一助監督として、多くの作品を担当し、フィクション短編映画も多く監督した。その後、数多くのドキュメンタリー作品やCM、特撮映像の監督などを経て、01年、ジャック・ペラン、ミッシェル・デバと『WATARIDORI』(01)で共同監督を務め、「WATARIDORI 〜もうひとつの物語〜」(01/TV)でも監督を務めた。02年から03年にかけて、ジャック・ペランと「Les Voyageurs du ciel et de la mer」をダブルアイマックス仕様で共同監督、その後『オーシャンズ』(09)の脚本共同執筆と海洋、海中撮影用の特殊技術の共同開発に携わり、セザール賞ドキュメンタリー賞を受賞。
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