僕が撮らない「珍遊記」は観たくなかった
ー 『珍遊記』を実写映画化するとは本当に驚きました。この漫画を実写化による映画化で世に出そうとしたきっかけは?
そこに大義名分はないんですよ。ないんですけど、僕が監督をしていない「珍遊記」を観るのは嫌だなという気持ちはありました。
もともとは3年くらい前にDLE(制作プロダクション)のプロデューサーから「『珍遊記』をやりたいんだけど興味ありますか?」と声をかけていただいたのがはじまりです。僕はすでに「地獄甲子園」(2003年)、「漫☆画太郎SHOW ババアゾーン(他)」(2004年)という漫☆画太郎さん原作の映画をつくっていましたから。
でも『珍遊記』は難しいなと思っていたんです。主人公の山田太郎を原作通りのビジュアルにすると子どもになってしまうんですが、子どもが主人公で1時間半のギャグ映画は無理。でもせっかくお話をいただいたので考えてみることにしたんです。
とは言え原作からなかなか離れることができなくて、山田太郎像をどういうふうに実写に置き換えればいいのか全然まとまらないまま1年が過ぎ、しかも正式に映画化することが決まってしまった。最初は不細工芸人さんたちをたくさん集めてバラエティ番組の延長線上みたいな感じを考えていたのですが、途中から、もう少し違う層にも観てもらいたいなと思うようになったんです。
ー “違う層”というのは、もっと一般に、子どもも含めて、ですか?
今までの「地獄甲子園」や「ババアゾーン」というのはミニシアターではヒットしましたが、サブカルの人に向けてつくって、その人たちに受けていた映画です。でも『珍遊記』って、週刊少年ジャンプで連載していた漫画なんです。あんなに汚いネタを、ああいう絵柄で連載し多くの人たちに受け入れられていたという、漫☆画太郎さんの作品の中でも一番メジャーになれるポテンシャルがあると思ったんです。
だったら子どもから大人まで、ちゃんと観られる映画をつくらないと、『珍遊記』の持つポテンシャルに見合わないんじゃないかと。だから「うんこ」とか「ちんこ」とか汚い表現もやるんですが、そこを突き詰めるんじゃなくて、違うところで魅せたいなと思いました。
そう思ったら、あまり原作のイメージを引っ張りすぎると求めているものに近くならない。一回、今まで考えていたことをすべて忘れることにして、ちゃんとした役者さんで山田太郎を演じることができるのは誰かを考えたときに、7〜8年前に撮った「ユメ十夜」という短編映画で松山ケンイチさんと仕事をしたことを思い出しました。
松山さんも漫☆画太郎さんのファンということは知っていましたし、「また何かやろうね」と言いながら何もできずにいたので、一緒に仕事をしたいなというのもあって声をかけました。松山さんならビジュアルは全然違うけど、内面から山田太郎になれるんじゃないかなという思いもありました。話をしたら「興味はありますが、どうやっていいのかはまったくわからない」と。でも僕も全然わからないから、2人で揉んでいこうと話をして、やってもらうことになったのですが、まぁ難しいなと。撮影に入ってからもああじゃないか、こうじゃないかと試行錯誤し続けましたね。
危うさとおもしろさ、親にないしょで観る映画でいい
ー 子どもに観て欲しいというのは、どういう想いからですか? 男の子は大好きだと思いますが、親御さんが一緒に観ようとか、子どもに観せたいと思う映画ではないですよね。
子どもに観てほしいのは、僕自身、子どもの頃に観ていた映画が一番おもしろかったから。小学校高学年から中学3年生くらいまでに観ていた映画が圧倒的におもしろくて、その頃に観た映画で原体験がすべてつくられている気がします。でも細かいところは忘れちゃっていて、ざっくりと「ブルドーザーが人を襲う映画があったな」みたいな印象でしか覚えていないんですが、「珍遊記」もそういう映画にしたいなと思いました。大人になったときに、なんかわかんないけど「殴ったら服が全部脱げちゃう映画あったな」って言われたいんですよね。そういう映画を自分もつくってみたいというのはすごくあって、子どもたちの印象に残るようなシーンを意識的に取り入れたのは今回の映画が初めてですね。
だから「珍遊記」のポスターも宣伝部とかなり話し合いをして、子どもって入口がわかりやすくないと観ないと思ったので、松山さん、倉科さん、溝端さん、ピエール瀧さんが出ている映画というのがすぐにわかるようにしました。ピエール瀧さんは「アナと雪の女王」ではオラフの声優もしていますし、意外と子どもにも人気があるんですよ。
そういうわかりやすい入口があって、でも若干危うい感じがしないと子どもってノってこないので、危ういのとおもしろそうだなというのが同居している感じを出して、「これ観に行っていいのかな」とか、親に自信をもって「これ観ます」とは言えない、“親に黙って観て、おもしろい映画”というのが一番狙いたいところです。自信を持って「これ観たよ」って言わなくていいんです。
ー 子どもが観るために工夫した点は?
下品な部分を突き詰め過ぎないことですね。一番最初にプロデューサーと決めたコンセプトが「うんこちんちん」だったんです。これは昔、ドリフターズのカトちゃんが言っていた言葉で、「うんこ」と「ちんちん」という子どもが好きな2つの言葉をつなげただけなんですが、響きがとても可愛らしいし、これくらいの軽い感じで「珍遊記」を観てほしいと思いました。だから全体的に、ギャグも含めてゆるい感じにして、子どもにも伝わりやすくすることを考えました。
あと、この映画では誰も死なないんです。アクションシーンはありますが血が出るようなキツい表現はなく、戦って、殴られて、服が脱げたら負けなんです。野球拳と同じ発想で「全裸=死」としました。だから松山さんはじめ、男の裸がたくさん出てきます。
ー 映画冒頭の倉科さんのセリフはちょっと驚きましたが、全体的には思っていたほど下品ではなかったですし、アクションも見応えがありました。
意識的にそうしましたね。僕がやり過ぎてしまうので、それを脚本家の人たちに「止めてくれ」って。こういうネタなので、下品にしようと思えばいくらでも下品にできますが、今回の映画はそれではいけないなと思っていました。僕ももう40を超えているので、そろそろみんなが観られる映画をちゃんとつくりたいなと(笑)。
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2016年2月27日(土)新宿バルト9他にて全国ロードショー
映画「珍遊記」
1990年より週刊少年ジャンプにて連載され、シリーズ累計販売部数約400万部を記録した、唯一無二の存在感を放つ孤高の漫画家・漫☆画太郎による伝説のギャグ漫画「珍遊記〜太郎とゆかいな仲間たち〜」が、まさかの実写映画化!
坊主頭にパンツ一丁の主人公・山田太郎を演じるのは、『デスノート』の L、『デトロイト・メタル・シティ』のヨハネ・クラウザーⅡ世、「ど根性ガエル」のひろしなど、一癖も二癖もあるキャラクターに果敢に挑戦し、見事に演じ切ることで定評のある松山ケンイチ。また、坊主・玄奘に倉科カナ、映画オリジナルキャラクター・龍翔に溝端淳平、じじいに田山涼成、ばばあに笹野高史、世界最強の武闘家・中村泰造に温水洋一、変身前の山田太郎にピエール瀧など、個性豊かな最強メンバーが集結した。
そして監督を務めるのは、『地獄甲子園』『魁!!クロマティ高校 THE☆MOVIE』など、映像化不可能と言われてきた数々の漫画原作ものを手掛け、独特のコメディセンス溢れる演出で期待を裏切らない、山口雄大。さらに、脚本を務めるのは、お笑いトリオ・鬼ヶ島のリーダーのおおかわらと、「銀魂。」「おそ松さん」など、話題のアニメ作品にも携わっている放送作家・松原 秀。
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山口雄大(やまぐち ゆうだい)
1971年生まれ。東京都出身。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。2003年、漫☆画太郎原作のコミック『地獄甲子園』を映画化。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ヤングコンペ部門グランプリを受賞し、スマッシュ・ヒットを記録する。その後も、短編集を映画化した『漫☆画太郎SHOW ババアゾーン(他)』(04年)をはじめ、『魁!!クロマティ高校 THE☆MOVIE』(05年)、『激情版エリートヤンキー三郎』(09年)、『極道兵器』(11年)など、映像化不可能と言われたコミック原作を次々と実写映画化する。11年の『デッドボール』では『地獄甲子園』をセルフリメイク、温水洋一主演作『アブダクティ』(13年)ではシチュエーション・サスペンスに挑戦し、13年のブリュッセル国際ファンタスティック映画祭において、SILVER RAVEN(準グランプリ)を受賞した。また、本作にも出演している板尾創路監督作『板尾創路の脱獄王』(09年)には、脚本家・クリエイティブディレクターとして参加している。
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