「二人目の壁」を乗り越えるヒントやきっかけづくりを
ー 「一般財団法人1 more baby 応援団」を2015年に設立されていますが、どのようなことを目的とした団体なのでしょうか?
日本では少子化が大きな社会問題となっているのは、みなさんすでにご存知だと思います。その中でも、「二人目の壁」というキーワードをもとに活動をしてます。「二人目の壁」とは、本当は第二子以降も子どもが欲しいにも関わらず、さまざまな理由によりその実現を躊躇されている方々。そういった方々を応援して、理想の数だけ子どもを産める社会を実現しようと活動しています。
ー 設立のきっかけは?
もともとはタマホーム株式会社のCSR活動として行なっていたのですが、一企業の取り組みとしてこの問題を解決するのは難しいので、政府や自治体、ほかのさまざまな企業と連携することによって、活動の規模を大きくして問題を解決していこうということで、独立して運営をはじめました。
ー 支援している企業が1 more baby 応援団のホームページに掲載されていますが、増えていますか?
そうですね。子育て世代をターゲットにした事業を展開している企業ももちろんありますが、社内改革として、たとえばワークライフバランスだったり、子育て世代の社員のサポートとか、そういった志を持った企業からも支援していただいています。最初は企業にお声がけをしていたのですが、最近では企業の方から活動に参加したいとご連絡をいただくことが多くなりました。
※ 1 more baby 応援団:http://www.1morebaby.jp
ー 秋山さんは専務理事ということですが、具体的にどういうお仕事をされていますか?
財団の主体事業の企画・運営や、企業、自治体との連携、たとえば「子育てしやすい町づくりについて」などを行なっています。
ー 『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか? ママ・パパ一〇四五人に聞いた本当のコト』という書籍も秋山さんの仕事のひとつでしょうか?
そうですね。実際に「二人目の壁」に悩まれている方、「二人目の壁」を乗り越えた方の声を聞いて、より多くの方々にそういった声や体験談、考え方を、書籍の出版や調査事業を通して広めていくということも、啓発活動の一環として行なっています。
ー 『キッズイベント』でも『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか? ママ・パパ一〇四五人に聞いた本当のコト』の読者プレゼントをさせていただきました。たくさんの方からご応募をいただき、「私たちも悩んでいます」とコメントを寄せてくださる方もたくさんいらっしゃいました。本を出版して、読者の方から反響や意見などはありますか?
「“『二人目の壁』を乗り越えるには、自分で行動しなければならない”ということがわかった」、という感想をいただくことが多いですね。
ー そうですよね。どうすればいいか、書籍に答えが書いてあるわけではないですよね。
そうなんです。「二人目の壁」の問題の要因というのは、それぞれのご家庭、ご夫婦、人によって異なります。書籍では、さまざまな体験をご紹介することで、そのなかからヒントを見つけていただければと思っています。
※ 書籍『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか? ?ママ・パパ1045人に聞いた本当のコト』
「二人目の壁」を感じる原因は、「経済的な理由」が最多
ー 秋山さんは男の子のお子さんがお二人ですが、「二人目の壁」はありましたか?
ありましたね。子どもは今、中学3年生の15歳と、小学2年生の8歳です。年齢が離れているということからもわかると思いますが、第一子が産まれたあと、もうひとり欲しいと思いつつ、悩みながら7年経ったわけです。その中にはやはり経済的な壁もありました。
ー その壁はどうやって乗り越えたのでしょうか?
第一子が産まれてから7年経って妻が35歳になり、今後、高齢出産に入ってくるということを考えて話しあって、もう一子、ということになりました。年齢が乗り越える最初のきっかけでしたね。
経済的な問題は、第二子を産もうと決めたタイミングで、今まであまりちゃんとつけていなかった家計簿を付けはじめたり、妻と私が90歳まで生きるとして、そこからの収支計画、いわゆるライフプランを立てて削れるものは削って、保険の見直し、住宅ローンの借り換え、ひと通りやりましたね。
ー 「ライフプラン」は今まで何度か保険会社の人に立ててもらったことがあるのですが、お先真っ暗な現実を目の当たりにさせられてしまい、苦手です‥‥。
私の場合は、私が一人っ子、妻が3人姉妹で、子どもは二人以上がいいというのは最初から共通認識としてありました。だから意識的な部分での「二人目の壁」というのはありませんでした。一人目の方が、私は勇気というか踏ん切りが必要でした。子どもをちゃんと育てられるのか、かわいいと思えるのかとか、親になれるのかな、という心配ですね。
でも一人目が生まれてしまったら、二人目は自然な流れでした。もちろん経済的な問題は今もずっと頭にありますし、三人目はそれが理由であきらめたところもあります。書籍を見ても、みなさんやはり経済的な部分で悩んでいる方は多いですよね。
経済的な問題には2通りあると考えていて、現実的に目の前の収入を見たときに、子どもが二人以上いると生活が厳しくなるというものと、もうひとつは“将来に対する不安”が非常に大きいのかなと思っています。将来の見通しが立たないなかで子どもを一人増やすというのは、さらなる不安を生み出してしまうという心配はあると思います。
私たちが行なった調査結果でも、子ども二人以上のご家庭よりも、一人のご家庭の方が、「日本の将来は不安で悲観的である」とか、「自分は心配性だ」という方の割合は高くなっています。その不安から、第二子に踏み切れないでいるというのは大きいと思います。
しかし経済的な問題を解消するのは難しいので、ライフプランなどで支出の取捨選択をするとか、そういう必要性を訴えていく必要があると思っています。
ー 年収と子どもの数が比例していないという、興味深い調査結果も出ていますね。
子どもを二人以上欲しいと思っている方でみた場合、同じ年収でも第二子以降を産むというマインドになる方とならない方がいらっしゃいます。その背景には単純に世帯年収だけではなく、それぞれ異なる要因があるので、壁を乗り越えるためのさまざまなヒントを提供していくことが必要だと思っています。
どれだけ準備をしても、不安がなくなることはない
最後は“なんとかなる”という開き直りも
ー 子どもを欲しいと思っている方が理想の人数を産むことができると、少子化は解消されますか?
私たちの調査結果では、8割以上の方々が子ども二人以上を希望しています。それがすべて叶えられると出生率も大きく向上し、そして子どもを産むことに対するポジティブな風土がさらに広がって、きっと人口置換水準(現在の人口を維持するのに必要な合計特殊出生率)である2.07を超える日がくるのでなないでしょうか。
ー 調査結果でお子さんが一人の方は心配性の方が多いとおっしゃっていましたが、二人目以降は、乱暴な言い方ですが、なるようになれというか、そういう開き直りみたいなのが、多少なりとも必要になるでしょうか?
そうですね。経済的なことなら支出の見直しとか、サポート的なことなら夫の育児参加とか、必要な要素はいくつかありますが、ここまでやったからすべての不安が解消される、ということはなかなかないと思うんですよね。ですから、やるべきことをやって、最後はご夫婦でしっかり話しあったうえで、第二子に踏み切るのか、踏み切らないのかを決める必要があるのかなと思います。
私たちはこの本を出版するにあたりいろいろな方にインタビューをしたのですが、第二子を産むにあたり不安がないという方はいないですよね。「最終的に産むと決めたきっかけは何ですか?」とお伺いすると、やはりそういった準備をしつつ、最後は「子どもが欲しいから、なんとかするしかない」と、そういうマインドになられる方は多かったですね。
昔と今の日本では社会環境がずいぶんと異なる
しかし昔も今も、子育て世代を見守る周囲の温かさは必要
ー 私の住んでいるところはまだわりと近所づきあいというのがあって、買い物に行くと、子どもの頃にお世話になったおばちゃんに会うんですよね。そうすると「娘さんいくつになったの?」とか、まだ子どもが小さかった頃は、「もうひとり産まないの」とかそんな話になって、「三人は無理でしょ」というと、「そんなの生まれちゃえばなんとかなるのよ」って言うんですよね。
おそらく1940年代生まれ、当時は60歳ちょっと過ぎくらいの方ですね。戦中、戦後の食べ物がなかった頃に幼少期を過ごし、当時の出生率は4人を超えていますから、まわりには子どもがたくさんいて、日本経済の高度成長期も経験している。そういう時代だったので、今の人よりも将来への不安に対する抵抗力みたいなのがあるのかもしれませんが、「そっか、なんとかするのか」と、いつの時代も、みんなある程度そういう思いで子どもを産んでいるのかな、とは思いましたね。
昔は日本という国は人口も経済も成長していて、どちらかというと明るい希望が見えていましたが、今の子育て世代が経験してきた転換期はバブルの崩壊とリーマンショックしかなくて、どちらかというと先が見えなくて、不安を覚える環境にあるとは思いますね。
ー 子どもは地域で育てるというのもありましたよね。今は平日の夕方の公園でも子どもたちが遊んでいる姿をあまり見なくなりました。
地域のつながりは非常に重要で、この本とは別に行なった調査で「子育てしやすい町ってどういう町ですか?」という質問に、第1位は「公園が充実していて自然環境がある」という地域の特性でしたが、2位は「住民が温かい」なんですね。自治体からの支援とか、制度としてはそのようなものが求められているのですが、日々の暮らしのなかでは“人の温かさ”って大切なんですよね。
ー でもそれは一番難しい部分ですよね。“騒音”を理由に周辺住民が保育園建設の中止を求めて、実際に中止になったニュースも話題になりました。
一番認識しなければいけないのは、やはり昔と社会環境が異なってきているということですね。第二次ベビーブームだった1970年代というのは、三世代同居率が50%を超えていて、子育てサポートを受けやすい環境だったんです。今は10%くらいまで落ちてきています。とは言え、すべての子育て世代が三世代同居を望んでいるかというと、それはまた違うんですが、少なくともサポートを受けられる方が減ってきている環境にはあると思っています。
経済的な問題を解消するために共働きをしているものの周囲からのサポートがない、という状況で子育てをしている方々が多くいらっしゃいます。
■ 次ページは、将来への不安をどう乗り越えるか? 見方を変えると、導き出される結論も異なる!
なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか?
ママ・パパ一〇四五人に聞いた本当のコト
「二人目の壁」を乗り越えた、それぞれの家族、夫婦の体験を紹介。「二人目の壁」を乗り越える8つのヒントや、子どもが二人以上いる家族はどんな人たちなのか、たくさんのアンケートから、その姿を見ることができます。「二人目をどうしよう」。そんなふうに思ったときにおすすめの一冊。
書籍『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか? ?ママ・パパ1045人に聞いた本当のコト』
秋山開(あきやま かい)
一般財団法人1 more baby 応援団 専務理事。二男の父親。「二人目の壁」を乗り越えるための啓蒙活動推進。執筆、セミナー等を積極的に行なっている。
一般財団法人1 more baby 応援団:http://www.1morebaby.jp
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