自分の本物の感情も使って演技をする、初めての舞台から学んだこと
ー マーヤの大冒険の映画ですが、春名さんが「冒険しちゃったな」と思うことはありますか? これちょっとがんばったなとか、今までの殻を少し破れたかな、とか。
2015年の12月に初めて舞台に立ちました。『TUSK TUSK(タスク タスク)』※5という舞台だったのですが、出演が4人の子どもたちと2人の大人だけで、その中でもめちゃくちゃメインな役だったんです。昔から舞台はやってみたいと思っていたのですが、セリフ量も多くて、最初の舞台でこれだけの大役はかなりのプレッシャーでした。でも最終的には大成功というか、千秋楽ではそのときの自分の精一杯を出し切ったという感覚になって、「この舞台で学んだことって、一生、活かされるかもしれない」って思いました。
※5 『TUSK TUSK』(タスク タスク)※公演は終了しています
春名さんが出演した初舞台作品。引っ越したばかりの部屋で、7歳、14歳、15歳の子どもたちが母親の帰りを待っている。しかし母親はいっこうに戻らない。徐々に切迫していくなか、彼らがとった行動とは? 育児放棄を題材とした作品。
ー どんなことを学べましたか?
基本的にぼくは台本を読んで、役柄についてはすべて自分の中でつくってしまうことがほとんどだったんです。役についての解釈が間違えているとか、特にそういうことはないのですが、人の話を聞いていないというところがあって、舞台上で人の演技を受けて返す、そのときに、芝居をしていても自分というものがベースにあって、自分の中の本物の感情を使って、本物の言葉で返す、というのが、今まで甘かったと。この舞台を経験したことで、そこを学べたなと思っています。自分のなかの引き出しがひとつ増えて、舞台上でも本物の感情を出せることが多くなりました。
ー 舞台上でもすべてが演技ということではくて、本当に自分が感じたことも出していくということですか?
そうですね。もちろん、その役として、ということですけど。ただ先輩からも「これは感覚だから、わかればわかる」とか言われて、「なんなんだよ!」って思ったりもして(笑)。経験を積んでいかないとわからないですね。でもわかった後は、確かにこれは言葉では説明できない、という感じでした。
大人は失いつつある純粋さを、子どもはマーヤの冒険を楽しんで!
ー「みつばちマーヤの大冒険」は、親にとっては懐かしく、子どもにとっては新しい冒険の物語です。それぞれの世代に、映画から何を感じてほしいですか?
年齢を重ねると経験が増えるがために、純粋な視点が欠けてしまったり、考えが固まってしまっている部分があると思います。なのでマーヤから見た世界を観ることで、純粋な視点、偏見や先入観のない真っさらな状態を再認識したり、すべてのことに対して改めて疑問を持ってみる、というのを、今一度思い出していただければなと思います。
お子さんにも疑問を持つことの大切を感じていただければと思いますが、マーヤの冒険を純粋に楽しんでもらえればと思います。マーヤの仕草もとてもかわいいですし、草花の色もめちゃくちゃキレイな色鮮やかな世界なので、そんなところも楽しんでもらえると思います。
セリフもけっこう“グッ!”とくるものがあるんですよ。みつばちの規律を重んじるバズリーナという女官長が、みつばちとはなんたるか、巣の外はどんな世界なのかをマーヤに説くシーンがあるのですが、それを聞いたマーヤは「えっ そんなのバカげてる」って言うんです。
ぼくはこのセリフがとても気に入っています。言われたことを鵜呑みにしないで“なんで?”と疑問を持つこと、体験を通して自ら理解すること、思ったことを素直に発言できることとか、とてもマーヤらしいセリフだと思っています。これはそのあとのめっちゃ長いセリフにつながる、大事なセリフでもあるんです。
ー 少し気が早い質問ですが、もし「みつばちマーヤの大冒険」の続編ができたら、今度はどんな冒険をマーヤとしてみたいですか?
今回マーヤの仲間は、みつばちのウィリーとバッタのフィリップ、そしてスズメバチのスティングだったので、次はどんどんと仲間の輪を広げていければなと思っています。また大人の方たちとわかりあうだけじゃなくて、マーヤと同年代の子たち、ふんころがしやてんとう虫の子ども、そして巣のなかのマーヤと同年代のみつばちと一緒に冒険するとか、みつばちの子どもたちの世界も見てみたいですね。
最初マーヤは「わたし変わっているから、友だちができない」という感じでしたが、はじめての親友(ウィリー)ができて、これからマーヤを受け入れてくれる、わかってくれる友だちが増えるのかなと思うと、すごくワクワクします。
ー 今、声優さんはとても人気のある仕事です。目指している子どもたちもたくさんいますが、どんなことをしたり、勉強すればいいか、アドバイスをいただけますか?
最初はとにかく、いろいろなもの、憧れるものをしっかり見て、観察することからはじめるべきかなと思います。
ぼくが大切にしていることでもありますが、街中を歩いている人でもいいですし、自分の世界にあるものだけじゃない、広い視野でものを見てほしいと思います。また常日頃から、相手と普通に話しているときでも「相手はどう感じているのかな?」と考えたり、人の感情を理解する、内面的なものからはじめていくのがいいと思います。
憧れている人に近づこうとすると、つい声まねなど外から近づいていくことが多いと思います。まねすることは悪いことではなくて、最終的に自分のものになればいいので、まねも練習としては大事だと思いますが、でも一番大切なのはそこじゃなくて、内面的なものを育てていってもらえたらなと思っています。
ー 春名さんの今後の夢、目標は?
最終的な目標としては、長く続けられる役にめぐり会えればいいなと思っています。マーヤが大ヒットして、1年ごとにPart 2、Part 3と続いたりすると、一番いいですね。「ドラゴンボール」や「ドラえもん」のように何世代にもわたって自分の声のキャラクターがつながっていくということは、すごく素敵なことだなと思っていて、それが夢です。野沢雅子さんなんて「何世代なんだよ!」って(笑)、世代によって野沢さんと言えばこのキャラクターというのは違っているかもしれませんが、長く記憶に残ってもらえる作品と出会いたいと思っています。
やってみたい役は、自分がなかなか理解できない役ですね。マーヤは自分と共通点が多かったので、すごく“スッ”と役に入れたのですが、“絶対にこの人とはわかりあえない!”というような役を演じることになって、役づくりに苦しんでみたいと思っています(笑)。
インタビュー後記
春名さんは、一言で言えば“聡明”。9歳ではじめたtwitterで子どもとは思えない、そのあまりに核心を付いた発言はたびたび話題にもなりましたが、どんな質問にも自分の言葉ですぐに応えてくれる姿からも、それは見てとれました。
春名さんにマーヤは、とてもよくあっていました。それはキャラクターと声の雰囲気ということだけではなく、ご自身も共通点が多いとおっしゃっていましたが、根底にある思想も似ているようです。「好奇心を持つ」「疑問を持つ」、そして「それをちゃんと解決する」。「偏見や先入観を持たず、その人自身と話をしてその人を知る」。大人になるに連れて失われていくことの多いものですが、これを幼い頃から理解し、意識的に心がけ、努力・実行しているのが、春名さんのすごいところです。
子役でのお仕事はテレビで拝見させてもらったことがありましたが、インタビューのときにはとてもきれいな女性になっていて、どんな声優さん、女優さんになっていくのかがとても楽しみです。これから出会う作品やお仕事から何を得て、どんなふうに考えが変わり、また変わらなかったか、ぜひまたお話を聞かせてください。これからの春名さんの成長、そして活躍を楽しみにしています。そして、いつまでも「え そんなのバカげてる」と言える春名さんであって欲しいですね。
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