お気に入りの作品は“最新作”!
87歳エリック・カールさんが登場!
2017年6月に米寿(88歳)を迎えるエリック・カールさん。第一線からは退いたものの、いまでも作品づくりを行ない、会場には最新作を含む約160点の作品が展示されています。
杖をつきながらにこやかに登場したエリックさんは、「すごくいい展覧会ができました。こんなにたくさんの自分の作品が一ヵ所に集まっているのははじめてです。きれいに展示していただいて、美術館の方にお礼申し上げます。また、ご尽力いただいたみなさんも本当にありがとう」と、感謝の言葉で挨拶。
展示しているなかでお気に入りの作品について聞かれると、パウル・クレーへのオマージュとして制作した「天使 パウル・クレー賛」を指差しました。12点のうち本展覧会では3点を展示、「パウル・クレーの様式を象っているのではなく、私のスタイルでつくったものです」と、紹介してくれました。
ゆたかな色彩に込められた想い
絵本の奥深さとエリックさんの愛情を再認識
会場内は「エリック・カールの世界」「エリック・カールの物語」という2つのパートで構成。
「エリック・カールの世界」では、子どもたちの夢や憧れ、日々の生活や発見を4つのテーマで紹介しています。生き物を題材とした「動物たちと自然」、数、曜日、12ヵ月などでめぐる「旅」、グリム童話などに挿絵をつけた「童話とファンタジー」、そしてお母さん、お父さんとの心温まる物語を描く「家族」。それぞれのテーマで描かれた絵本の原画はもちろん、初版本や、その絵本をつくる前のアイデアやコンセプトをまとめた貴重なダミーブックも展示しています。
「エリック・カールの物語」では、エリックさんの初期の作品や、フランツ・マルク、アンリ・マティス、パウル・クレーなどの影響を受けた画家による作品を紹介。絵本の中にたびたび出てくる青い馬は、36歳で戦死した、決して著名とは言えない画家フランツ・マルクに由来しています。そんな青い馬の秘密も、このパートで明かされています。
また立体作品や舞台美術など絵本を超えた創作活動に加え、日本との関わりの深さを示す「カールと日本」のコーナーも設置。絵本作家のいわむらかずおさんとの共作絵本や、和服をエリック流に解釈した作品「キモノ」シリーズも展示しています。
ニューヨークで生まれたエリックさんは、6歳以降の多感な青少年期をドイツのナチス政権下で過ごします。幼いころから絵が好きでしたが、当時は文化芸術も完全にナチスの統制下にあり、写実的な表現以外は「退廃芸術」と呼ばれ禁じられていました。しかし才能を見抜いた小学校の美術教師フリードリヒ・クラウスは、エリック少年に密かに保存していたピカソ、クレー、マティス、カンデンスキーなどの複製画を見せ、そのゆたかな色彩はエリック少年に衝撃を与えます※。
6歳の頃を「とても困難な時期だった」と語るエリックさんは※、絵本のなかに、自身のさまざまな体験とともに、クラウス教師のように、大きな影響を与えてくれた方への感謝も込めています。一緒に森を散策し、昆虫や動物など、小さな生き物の存在を教えてくれた父親もまた、そのひとり。辛い時期をまわりの人々の助けで乗り越え、その感謝の気持ちが込められた作品だからこそ、エリックさんの作品は温かく、世代を超えて私たちの胸を打つのかもしれません。
※参考:展覧会図録「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」
展覧会図録を読めば
もう一度「エリック・カール展」に行きたくなる!
絵本があまりにも身近すぎるためか、エリックさんのことはなんとなく知った気になっていましたが、実はよく知らなかった、ということが、この展覧会で判明しました。おそらく多くの方が、同じような体験をするのではないでしょうか。
会場で販売している展覧会図録「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」には、エリックさんの生い立ちや絵本作家になるまで、そして代表作となる『はらぺこあおむし』が日本の出版社から出版された経緯などを、ていねいに、わかりやすく書かれています。
「あの作品にはそんな秘密があったのか」「この作品はそういう意味も込められていたんだ」と、展覧会を見たあとに読むと、新たな発見がいっぱい。改めてエリックさんの作品の魅力に気が付かされるとともに、もう一度、美術館を訪れて、それぞれの作品に込められた意味を感じながら、じっくりと見たくなることでしょう。世田谷美術館では2017年7月2日(日)まで、その後、美術館「えき」KYOTO(京都)、岩手県立美術館を巡回する予定。見る機会は、まだまだたくさんありそうです。
会期中は絵本の読み聞かせのおはなし会「みて きく エリック・カール えほんの せかい」、おはなしコンサート「カールさんの おたんじょうび」、そして毎週土曜日には工作を楽しめる「100円ワークショップ」も開催。さらに世田谷美術館は緑ゆたかな砧公園内にあるので、お天気が良ければ、展覧会を見たあとは公園で楽しむのもいいですね。
※各イベントの詳細や申込方法は展覧会公式サイトをご覧ください
世田谷美術館は東急田園都市線「用賀」駅から徒歩で20分以上かかり、小さなお子さんと一緒では決してアクセスがよいとは言えません(美術館行きのバスもあります)。それでも、エリックさんのファンにはぜひ見ていただきたい展覧会。はじめてエリックさんの作品を見て感じた衝撃や感動を、再び感じられると思います。
「日本の好きなところは?」という質問に、「全部だよ。人も食べ物も、文化もすべて」と、笑顔で答えてくれたエリックさん。私たちもエリックさんの作品が大好き。これからの作品も楽しみにしています。
【イベント紹介】2017年7月2日(日)まで世田谷美術館で開催!「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」 『はらぺこあおむし』など原画約160点を展示!
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