「シンギュラリティ」が起こる2045年より
その前の大きな変革期をどう乗り越えるか?
数年前から「シンギュラリティ」という言葉をよく聞くようになりました。本来の意味は少々異なるようですが、一般的にはAI(人工知能)が人間の知性を超えることで、それが起こるのが2045年と考えられています。
将棋や囲碁、チェスのAIなどはすでに人間の能力を超え、何をもって “超えた” とするかの定義は難しいですが、確実に言えることは、すでにそれに向かって恐ろしいスピードで進んでいるということと、それにより私たちの生活は激変するということです。
「シンギュラリティ」が起こってしまった世界のことは、本書にもあるように、誰にもわかりません。ユートピアのような世界が待っているのか、その逆なのか。しかし今の私たち、そして子どもたちにとって重要なのは、その前にやってくる大きな変革期をどのように乗り越えていくか、です。
本書では「エクスポネンシャル」という言葉をキーワードに、あらゆる技術が未曽有のスピードで進化することで、これまで富を生んできた多くの技術が「非収益化」するとしています。たとえば太陽光などの自然エネルギー。技術の進化により、誰もが無償でエネルギーを使えるようになったとしたら‥‥。たくさんの人が恩恵を受けるでしょうが、それにより必要なくなるものは? そのようなことがあらゆる事業で起こるとしたら?
それらの進化はすでに水面下で進んでいます。そして目に見えるようになった途端、爆発的に普及し、それまでの価値観を一変させます。そんな世の中でも成長を遂げるビジネスとは何か? 本書はビジネス書になりますが、「シンギュラリティ」や、そこに向かいつつある社会を生きる私たちがどうすべきかをわかりやすく説明してくれています。
そこで、本書には書かれていない2つの疑問について、著者の齋藤和紀氏に質問してみました。ひとつは、子育て中の親御さんが、今と同じように仕事をしてお金を稼ぐにはどうしたらいいか? もうひとつは、そんな時代を生きる子どもたちに、いま、何を学ばせるべきか?
シンギュラリティ・ビジネス
AI時代に勝ち残る企業と人の条件
齋藤和紀(著)
780円+税 幻冬舎
2020年代、AI(人工知能)は人間の知性を超え、2045年には科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来。あらゆる技術は未曽有のスピードで進化し、同時に、これまで富を生んできた多くの技術が「非収益化」、人間もAIに仕事を奪われる危機に晒されている。そんななかで飛躍的成長を遂げるビジネスとは何か? 企業はどう組織を変革し、人はどんな思考・発想で動くべきか? シンギュラリティに向かう時代のビジネスチャンスを読み解く、必読の一冊。
子育て中の親世代、仕事がなくなるなか、どうやって稼げばいい?
質問 1
多くの仕事がAIに奪われると考えられています。現在小学生のお子さんの子育てをしている40代くらいの方は、子どもが成人し、自ら稼げるようになるまでの10年〜15年の間、今の仕事を続けていけるのか、今のようにお金を得ることができるのかが心配だと思います。私は40代後半になりますが、さらに年齢を重ねれば受け入れてくれる会社の選択肢も減り、また新たなことを始めるのも難しくなってきます。この世代の方々が、今から準備することはどのようなこととお考えでしょうか?
齋藤和紀氏からの回答
AIだけではなく、モバイル・コンピューティングの影響も凄まじく、この数年でアジア、アフリカへのスマートフォンの導入などが一気に進みました。英語ネイティブな子どもたちがWikipediaで情報を得ているのです。スマートフォン1台でアクセスできる情報量は、大統領だったときのクリントンよりも多いと言われています。この「進化の横入り」現象が、10年後に大きく顕在化します。AIに仕事が奪われるよりも、アジア、アフリカにおいて10億人単位で発生する知的労働者の脅威を、まずは正確に認識するべきでしょう。
一方、テクノロジーのもたらす良い影響も多々あります。たとえば、働き方の形も変わり延々と満員電車に揺られて通勤する世界はなくなろうとしています。それに応じて雇用の形態も柔軟に変わるとよいですね。より才能のある人は、その才能をテクノロジーにより多くの場面に活かせるようになりました。ひとつの会社だけで才能を埋もれさせるのがもったいない時代です。個人の才能が活かせる時代です。
しかし、テクノロジーによる持つ者と持たざる者の格差は広がる可能性があります。往々にして、格差は否定すると逆に広がるもの。競争をしている以上は先を見据えて動く必要があるでしょう。大人に必要なのは、将来を悲観しないというマインドだと思います。
子どもには、いま、何を学ばせるべき?
質問 2
そのような方々が育てている今の小学生、中学生が社会に出る2030年ごろ、AIは人間の知性を超えているはずです。今ある仕事がなくなる一方、今はまだ存在していない仕事も多数生まれています。どのような能力が必要になるかが見えないなか、子どもたちはいま、どのような勉強に力を入れ、何を学ぶべきでしょうか? また親は、いま、子どもたちに何をしてあげるといいでしょうか? 書籍の中でご子息の作文「未来の自分」が紹介されていましたが、ご子息にはどんな力をつけるようしているでしょうか?
齋藤和紀氏からの回答
親の世代の常識が通じない社会に子どもたちが生きていくのは確実です。技術の進化のスピードがゆっくりだった時代は、親が、先生が、先輩が “教える” ことができました。しかし、これからの社会を生きていく子どもたちに、果たして親は “教える” ことができるでしょうか。“教える” という目線ではスピード的に遅れる可能性があるのではないかということを懸念しています。
とは言っても、教育制度は一朝一夕には変わりませんし、今の課題に対してしか行政はアクションがとれません。たとえば、いま、プログラマーが足りないからプログラミング教育をしようとする。しかし、子どもたちが社会で活躍する20年後、テクノロジーの進化の果てに今の概念で考えるプログラミングが必要でしょうか。学校教育・家庭教育で補えないところは地域コミュニティによる活動も重要になると考えています。
最近、わが子(10歳)を見て気づいたことがあります。彼はトランプ大統領は知っていますが、ザッカーバーグは知りませんでした。イチローは知っていますが、イーロン・マスクは知りませんでした。事業で成功したイノベーターや、結果大金を手にした事業家を称えるというのは学校教育では難しいのかもしれませんね。「お金稼ぎは悪」という固定観念もあると思います。しかし、後世にインパクトをあたえるという点では彼らを抜きには語れませんし、もっと子どもたちの憧れになってもよいと思うのです。
前述しましたが、教育を変えるのはすごく難しいので、イノベーターの育成は地域コミュニティが主体となってできるのではないかと考えています。そのうえで未来を生きる子どもたちに教えたいこと、それは以下の3つに集約されます。
① 失敗を恐れず、10%よりも10倍を目指そう!
※10倍を目指すにはそれまでと同じ努力では達成不可能。やり方自体を根本的に変える必要がある。
② 外を見よう、既存の専門性の枠は崩壊している!
※今ある専門性が数10年後にどうなっているか。人工知能などの技術進歩を見越して考える必要がある。
③ 世界規模で考える、世界は70億人でまわっている!
※この10年程度で世界はつながり、先進的な経済活動に多くの人が参加するようになり、相対的に日本という市場はものすごく小さくなりました。国境という枠で考えず、世界を目指すことが重要。
これまでの常識が通用しない世界という認識を
何を学ぶべきかを子どもたち自らが判断できるように
本書のなかで齋藤氏は「マインドセットを変える」と書いています。これからの社会の激変を踏まえ、まずは親が今までの常識が通じない世界になることを認識し、それを子どもが理解するまで伝え続けることは大切でしょう。
具体的に何を学ばせればいいかは、親もわかりません。人として大切な部分は、もちろんいまと変わらず必要です。それにプラスして、子ども自らが、成長するなかで、今とは大きく変化する世の中で何を学べばいいか、常にそれを探り続けるマインドをもたせてあげることかと、そのためのイノベーター教育は素晴らしいと感じました。
また大人に必要という「将来を悲観しないというマインド」は、「未来に希望を見出す能力」とともに、子どもたちにも必要なことかと思いました。
齋藤和紀様、ご回答ありがとうございました!
齋藤和紀 Kazunori Saito
1974年生まれ。早稲田大学人間科学部卒、同大学院ファイナンス研究科修了。シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラム修了。2017年シンギュラリティ大学グローバルインパクトチャレンジ・オーガナイザー。金融庁職員、石油化学メーカーの経理部長を経たあと、ベンチャー企業へ。シリコンバレーの投資家・大企業からの資金調達をリードするなど、成長期にあるベンチャーや過渡期にある企業を財務経理のスペシャリストとして支える。エクスポネンシャル・ジャパン共同代表、Spectee社CFO、iROBOTICS社CFO、ExOコンサルタント。
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