8歳のときに観て惚れ込んだ作品
子どもたちにも響く映画を撮った
ー「キャッツ」との出会い、そして「キャッツ」の魅力はどんなところでしょうか?
すべては8歳のときにはじまりました。姉がロンドンで有名なキャピタルラジオからの依頼で舞台の「キャッツ」を子どもレビュアーとして観に行ったんです。「すごく良かったから、みんな観に行くべきよ」と言っていて、それで家族で観に行って、完全に惚れ込みました。その夜のことは、今でも鮮明な記憶として残っています。おそらく、初めて触れたミュージカルのひとつだったと思います。
ダンスも歌も素晴らしかったし、グリザベラのエモーションに惹き込まれたのをよく覚えています。それにネコたちの “秘密の世界” に自分がこっそり入れてもらえているという感じが、子どもたちの知らない大人の世界を覗いている、そんなメタファーとして子供心に響いたのかもしれません。
今回の映画『キャッツ』は、特にファミリーに観てほしいと思ってつくった作品です。ロンドンプレミアのときに5歳の甥っ子と8歳の姪っ子が観に来て、本当に楽しんでくれました。このくらいの年齢の子どもたちにもしっかり響くんだと思って、すごく嬉しかったですね。
白猫ヴィクトリアを主人公に
オーディション形式でわかりやすく
ー 舞台の「キャッツ」は「ちょっと難しい、わかりづらい」という感想を聞くことがありますが、映画はとてもわかりやすくなっていました。映画化するにあたり、監督がもっとも意識したことは何ですか?
舞台では物語が “ほのめかされた” 表層的な表現になっていて、それが特に初めて観る方は見過ごしてしまったり、理解しにくいところがあるかもしれません。そこで映画では、「天上へ昇る一匹」になるため、オーディションをしているように見せた方がわかりやすいと思いました。たとえば最初に歌うジェニエニドッツは、ネズミとゴキブリとともに、その夜に披露するナンバーを練習しているんです。
またヴィクトリアは、舞台では最初からジェリクルキャッツのなかにいるネコで、ソロのダンスは非常に有名です。しかしこれは、間違いなく若い猫が自分自身を見つけ、大人になっていくことを表現しています。そこで共同脚本家のリー・ホールに、ヴィクトリアをヒロインに膨らませられないかと、捨て猫にして観客と同じ目線でジェリクルキャッツを見るようにするなどを、一緒に考えました。そういうところが、映画がわかりやすいと解釈してくださったことにつながっていると思います。
ダンス、歌、舞台へのリスペクト
映画化にあたってのさまざまな挑戦
ー 監督は、他の監督だったら躊躇するようなことに勇気を持って挑んでいます。今回もミュージカルとして長い間人気を誇っている「キャッツ」の映画化です。今回の映画化に挑戦するにあたり、クリアするべきことは何でしたか?
勇気があると言ってくれてありがとうございます(笑)。『レ・ミゼラブル』をつくったときも、たくさんのミュージカルがある中で、なぜ「レ・ミゼラブル」なんだと、自分でも思いました。ミュージカルは初めてなのにね。
「キャッツ」も簡単にはつくれないと最初からわかっていました。映画監督としてダンスを扱うのは初めてでしたし、ダンスを習ったこともなく、エキスパートでもなんでもありません。フランチェスカやヒップホップのレ・ツインズ※という素晴らしいダンサーたちと仕事をしながら学び、その世界を知り、そして映画におけるダンスを通した表現の可能性を模索しながらつくっていきました。僕にとっては人間がネコを演じるというのがとても重要で、これは舞台の大切な要素の1つなので踏襲しなければと思ったんです。
※レ・ツインズ(LES TWINS/ロラン・ブルジョアとラリー・ブルジョアの双子の兄弟によるダンスユニット)
あと、やはり大きな挑戦だったのは「メモリー」だったと思います。大きなエモーショナルを感じるあの瞬間ですね。舞台でも多少物語がわからなくても、「メモリー」はわかりますよね。それは多分、悲しみや歌の意味がしっかり伝わる楽曲になっているからです。だから誰が歌うのか、どんなふうに歌うのか、これが本当に大切だったと思っています。
そして初期の段階で脚本を読んだアンドリュー・ロイド=ウェバーが、主人公のヴィクトリアにも歌がなければならないと「ビューティフル・ゴースト」を書いてくれました。これは舞台のイメージにもはまる楽曲でなければなりませんでした。
異なるスタイルのダンスの融合にワクワク
アーティスト独自の解釈でネコを演じる
ー メイキング映像で、監督が「超一流のアスリート集団を束ねてる気分だ」とおっしゃっているのを拝見しました。たくさんのトップアーティストがいて、監督が思っていた以上に相乗効果のあった、特に印象に残った出来事があったら教えてください。
人生でこんなに自分が不健康だと思った日々はありませんでした(笑)。毎日2時間トレーニングをする人もいるし、バレエダンサーのフランチェスカも日々トレーニングをしていましたから。
ダンサーというのは、たとえばバレエとヒップホップが一緒に踊るとか、異なるスタイルのダンサーと踊る機会をあまり経験したことがないのかなと思いました。だから、バレエダンサーのフランチェスカがヒップホップのレ・ツインズと一緒に踊り、異なるスタイルを学んでいく様子を見ることができたのは、とてもワクワクしました。
またそれぞれのアーティストがどんなふうに自分のネコを表現するか、持っているスキル、解釈でどのように演じるのかもとても興味深かったです。猫ってとても個性がはっきりしているので、それぞれの解釈で演じた方がおもしろいんじゃないかと考えました。
フランチェスカは肩や首を常にアシンメトリーに動かすことで、アップになってもネコを感じさせるように演じていましたし、レ・ツインズはポッピン&ロッキンなヒップホップのスキルを使ってネコを表現していました。
描きたかったのは「優しさがもたらす変化」
“Forgiveness” でコミュニティが強くなる
ー 映画『キャッツ』の脚本は、監督も共同で書いています。監督が映画に込めた想いや伝えたいメッセージは?
今は世の中が両極端ですよね。差別や分断、特に分断はかつてないほど政治的にも利用されている時代だと思います。この映画を僕がいいなと思うのは、物語が、1人のキャラクターの親切な気持ちを中心にまわること。そして、その“親切な気持ちが何かを変えることができるんだ”、ということを描いているところです。
そしてそれ以上に重要なのは、何かがあってコミュニティの外に追いやられた、見捨てられた、そういう人々を再び迎え入れることで、より強くなれるんだということだと思うんです。逆にそうしないことは、許しがなかったり、“分断” することでコミュニティがより弱くなってしまいます。
だから映画の最後、ジェリクルキャッツはより強いコミュニティになっていますよね。自分たちの偏見に気づいて、許し、受け入れ、セカンドチャンスを与える。“Forgiveness(許し)” もある意味この映画のテーマになっていますし、実は僕の作品すべてに、このテーマがあります。『レ・ミゼラブル』はもちろん、最初の作品『レッド・ダスト』『英国王のスピーチ』にも共通しています。
夢があるなら、とにかくやってみること!
夢は叶う、夢だと思っていなかった夢も叶う
ー 監督は12歳のときに映画監督になりたいと思ったけれど、親や友だちには言えなかったそうですね。当時とは世の中の状況も変わっていると思います。もしいま監督が12歳だったらどうしますか? また、映画監督になりたいと考えている小学生くらいの子どもたちに、監督はどのようにアドバイスしますか?
まず最初に、「夢は叶う」と、お伝えしたいですね。しかも「夢だと思っていない夢も叶うんだよ」と。まさか8歳のときから好きな「キャッツ」の映画をつくるなんて、到底思いませんでした。
僕が映画を撮りはじめた12歳のときは16ミリのフィルムで、当時はフィルム1巻が25ポンド(約7,500円、監督が12歳の頃の1ポンド約300円で計算)もしたし、それで2分半ぐらいの作品しか撮れなかった。16歳くらいまではそんな環境で映画づくりの練習をしていました。最初の頃は音もつけられないサイレント映画でした。
それが今ではスマートフォン1つで映画がつくれます。もちろん音も録音できるし、編集ソフトも最初からスマートフォンの中に入っているものもあります。そんな時代なので、スマートフォンを持つ幸運があれば、とにかく行動することが大事です。夢を持っている人の中には、夢について語るだけで何もしないことが多いけれど、僕は実践派なので、夢があるなら、とにかくやってみること、と伝えたいですね。
映画の場合はたくさん観るよりも、たくさんつくること。あとは自意識過剰にならないことが大切です。12歳のとき、はじめての監督作品を大傑作にしなければと、すごく緊張していたのですが、母が「ちょっと肩の力を抜いて、楽しいものをつくったら」という素晴らしいアドバイスをしてくれました。それで、いとこの犬がいつも逃げてしまうので『Runaway Dog(逃げる犬)』という、おとぼけの話を映像化しました。それが1作目です。だから撮影するものは家族のドキュメンタリーでも、何でもいいと思います。
僕は監督という職業柄、この先に起こることをコントロールしたいという気持ちが強くて、でもそう念じていたことで30歳でテレビではなく映画の監督としてデビューすることができました。もちろん幸運だったり偶然だったりも必要だけれど、自分が数年後にどうなっていたいかということに集中し、自分を信じて応援する、そうすることが、想像している未来を叶える1つの方法だと思っています。
僕が映画監督という夢を誰にも言わなかったのは、多分、学校でからかわれたりするのが怖かったんじゃないかなと思うんです。同じように今の時代はネットの反応がすごいから、たとえば12歳で映画をつくってそれをすぐにネットで公開してしまうと、からかわれたり、いろいろな嫌な思いをするかもしれない。子どもたちはまだ、自分の中で自信や、自分を守る方法を身に付けていないから、すぐにネットで公開することは、あまりおすすめしません。そういったものに対して自分がしっかり向き合えるようになったら、ネットに公開したり、シェアすればいいんじゃないかなと思います。
【映画紹介・予告動画】映画『キャッツ』2020年1月24日(金)全国公開!
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トム・フーパー
1972年10月5日生まれ。ロンドン出身の映画監督。12歳の頃から映画監督をめざし映画を撮りはじめる。2004年に『ヒラリー・スワンク IN レッド・ダスト』で映画監督デビュー。2006年の『エリザベス1世 ~愛と陰謀の王宮~』でプライムタイム・エミー賞監督賞を受賞。2010年の『英国王のスピーチ』でアカデミー監督賞を受賞したほか、作品はアカデミー作品賞をはじめと4部門を受賞。2012年にはヒュー・ジャックマン、アン・ハサウェイを主演に迎えた『レ・ミゼラブル』で、アン・ハサウェイのアカデミー助演女優賞をはじめ3部門に輝いた。2015年にはエディ・レッドメイン主演の『リリーのすべて』で、アリシア・ヴィキャンデルがアカデミー助演女優賞を受賞。2020年に映画『キャッツ』を監督、常に評価の高い作品を制作し続けている。
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