“聞こえない世界” で対話を楽しむ
伝わる楽しさ、嬉しさを改めて実感!
みんなで話をしたり笑っているのに、そこには静寂が広がっている。そんな不思議なミュージアムで展示しているのは、この場で生まれる “対話”。対話なのに声がしない。楽しいのに、笑い声もない。いったい、どういうことだろう?
体験したのは、2020年8月23日(日)に東京・竹芝にオープンしたダイアログ・ミュージアム「対話の森」の「ダイアログ・イン・サイレンス」。ヘッドセットで音を遮断し、表情やボディーランゲージで意志を伝えるという体験イベント。今はコロナ禍ということもありマスクで口元が見えず、意志を読み取る難易度はかなり上がっています。
【施設紹介】ダイアログ・ミュージアム「対話の森」2020年8月23日(日)東京・竹芝にオープン!
ヘッドセットを渡され会場内に入ると、そこで何をするかの説明から、すべてが身振り手振り。しかしアテンドしてくれる方の、半分隠されているとはいえとても豊かな表情、そして表現で、なんとなくわかる、気がする。たぶんこうだろうという想像のときも。
アテンドしてくれるのは、実際に音のない世界にいらっしゃる聴覚障害者の方。手話を知らないと対話ができないと思ってしまいますが、「ダイアログ・イン・サイレンス」を体験すると “そんなことないじゃん” と思わせてくれます。ちなみに手話ができたとしても、ここでは禁止。
もちろん、いつものおしゃべりほどの情報量は伝えられません。時間もかかります。でも、いつもの100倍、どうすれば伝えられるかを考え、伝わるまで試行錯誤を繰り返す。だからこそ大した内容ではないけれど、それが伝わったときは本当に嬉しい。それは異なる文化、言語を持つ方々と気持ちを共有できたときと似ています。言葉がなくても笑い合えるんだなと、改めて体感できます。
言葉を使わず “黄色” をどう伝える?
恥ずかしがらず大きな身振り、そして笑顔!
「ダイアログ・イン・サイレンス」は、最大6名が一緒に体験できます。コロナ禍により通常の半数の人数ですが、人数が少ないぶん蜜な関係が築けます(一方、大人数は盛り上がりが大きく、どちらにも利点がある)。ちょっと強面風な方が、想いが伝わってニコニコすると急に親近感が湧いたり、ちょっとした共通点を見つけてそれが通じると仲間意識が高まったり、実際、知らなかった方たちが、体験後に一緒にお茶しに行ったり、LINEで交流を続けるようになることもあるそうです。
会場内は7つの部屋があり、参加者はそれぞれの部屋を順番にまわりながら、異なるゲームや対話を楽しみます。何をするは実際に体験してのお楽しみ。説明してしまうと、この体験の意味、楽しさが半減してしまいます。
音と言葉のない世界でどのように気持ちを伝えるか、たとえば、“黄色” はどのように伝えればいいだろう? いつもならすぐにできることができず、頭の中はグルグル、聞こえてくるのは自分の内なる声だけ。伝えたいことはたくさんあるのに伝えられないもどかしさを抱え、体験した日は家に帰ってからもずっとどうすれば伝えることができたかを考えてしまいました。
1回の体験は約90分。長いと感じるかもしれませんが、体感的にはもっと短く感じました。そして集中力、想像力、思考力を使うので、頭はけっこう疲れました。でも「伝わった」という嬉しさと、「伝えられなかった」という悔しさと、言葉を使わないコミュニケーションという新鮮な体験はとても楽しく感じられました。
個人的に思う、うまく意思を伝えるコツのひとつは、恥ずかしがらずにボディーランゲージを使うこと。パントマイムのようなものなら、なおさら伝わると思います。
頭の回転やコツをつかむのが早い方は、すぐに次々といろいろな表現で考えを伝えることができるようになり、なかなか思いつかないと会話に参加できず、取り残された感覚におちいったり、焦ってしまいます。しかし、まずは拍手やサムアップをして「いいね」の気持ちを伝えればいい。慣れてくると何かしら思い付いてくるし、些細なことでも表現をはじめれば、誰もが注目し、理解しようと一生懸命に考えてくれます。
そしてやっぱり、“笑顔って最強だ!” と感じました。マスクをしているし、何をやるかわからないし、知らない人も多くて最初は緊張し顔が強張ってしまいがちですが、目で笑いかけてくれる人にはとても親近感を覚え、素敵に感じます。だから自分から笑顔で挨拶したり、「いいね」や「楽しい」の気持ちを伝えると、リラックスできると思います。なかなか難しいですけどね。
「聞こえない世界」「見えない世界」での対話
理解すれば距離はぐっと近くなる
ダイアログ・ミュージアム「対話の森」には、もうひとつ「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という、暗闇の見えない世界で対話をする体験イベントもあります。見た目や固定観念から解放された対話を楽しむものですが、今はコロナ禍のため、少しだけ灯をともした期間限定の「ダイアログ・イン・ザ・ライト」になっています。
新型コロナウィルスの感染がおさまってくれば、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」も開催されるので、次はこちらも体験してみたい。人により音を遮断された方が怖い方、視覚を遮断された方が怖い方などにわかれるそうで、自分はどっちだろう?
そして、ライト、ダークでは自分の中にどんな意識が立ち上がってくるだろうか? ダイアログ・ミュージアム「対話の森」は、他者との対話はもちろん、自らとの対話も生まれ、今まで気がつかなかった自分の一面、考えを発見することもできそうです。
また「対話の森」を体感することで、聴覚や視覚障がい者の方を少しだけ理解し、身近に感じることで、手を差し伸べやすくなるかもしれません。知らないからできないということは多いですよね。
コロナ対策として、飛沫防止に給食時間中のコミュニケーション手段に手話を取り入れた小学校があります(もちろん障がいへの理解を促す狙いも)。またコロナ禍でオンラインでの会話が増えたことで、音が聞きづらいところ、距離が離れていても意志を伝えることができる手話の有用性が、一般の方にも認識されてきています。新しいコミュニケーションの手段としての手話が注目されているように感じます。そしてそれは、新しい世界への扉が開いたことにもなると感じます。
しかし残念ながら「ダイアログ・イン・サイレンス」「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の楽しさ、魅力は、言葉でも手話でもすべてを伝えることができません。体験しないとわからないことがたくさんあるので、ぜひ一度、楽しんでみてください!
【施設紹介】ダイアログ・ミュージアム「対話の森」2020年8月23日(日)東京・竹芝にオープン!
ダイアログ・ミュージアム「対話の森」
東京都港区海岸1-10-45 複合施設「アトレ竹芝」内 アトレ竹芝シアター棟1階
https://taiwanomori.dialogue.or.jp
記事が役に立ったという方はご支援くださいますと幸いです。上のボタンからOFUSE経由で寄付が可能です。コンテンツ充実のために活用させていただきます。