いつ観ても、誰の心にも響く作品
赤ちゃんから子どもへと成長するトプスを見て!
ー コロナ禍で公開が延期されていた映画『さよなら、ティラノ』が、いよいよ12月10日(金)に公開を迎えます。延期の期間中はどのような気持ちでしたか?
いつ観ていただいても間違いなく心に響く作品だと思っているので、公開がいつになるかを楽しみにしていました。一番良い形でみなさんのもとに届くように大切に寝かされていたと思っていて、一番届けたい人たちに届けられる時期まで、この作品は機会を見ていたんじゃないかなと思っています。
【映画紹介・予告動画】2021年12月10日(金)全国公開!『さよなら、ティラノ』
ー 悠木さんはトリケラトプスの子どもトプス役を演じました。どんなキャラクターにしようと演じましたか?
飛べないプテラノドンのプノンちゃんは自分のためにも頑張れるけれど、どちらかというと他の人のために頑張れるタイプの女の子で、トプスはそのプノンちゃんを頑張る気持ちにさせる存在だと思っています。
そして冒頭のトプスはただ愛くるしいだけの何もできない赤ちゃんだったので、プノンが守ってあげなきゃと焚き付けられる存在でした。しかし一緒に旅をするようになって、プノンやティラノの勇気を見て、友情を覚えて、トプスもだんだんと自分も何かしたい、友だちを守ってあげたいと思うようになります。トプスが赤ちゃんから子どもになる、成長するところを表現できたらいいのかなと思っていました。
ー トプスの第一声が本当に可愛いですが、あの声はすぐに決まりましたか?
最初はもっと少年っぽい感じにしたと思います。でも、監督から「もっと可愛くして欲しい」と言われたかな。
自分ができるトプスを探した結果の声ですが、チューニングは難しかったです。あざといくらい可愛くていいのか、ナチュラルに天然の生き物としての可愛さがいいのか、その境かなと思いましたが、絵がめちゃめちゃ可愛いので、その振れ幅をシーンによって変えないといけなくて、そこが大変でしたね。
ー トプスの成長も感じられる物語ですが、演じるうえで前半と後半で変えた部分はありますか?
最初の方のトプスは「ポワポワでね」とか擬音の多い話し方で、2歳くらいの赤ちゃんみたいですが、友だちができて会話をするようになると語彙も増えて、「お姉ちゃん大変だよ!」とか、けっこうハキハキ喋るようになります。
「お母さんが大好き」だけだった赤ちゃんに自我が芽生えて、「自分で決める」「自分がやりたい」への変化は、ここを見せたいんだな、というのがよくわかる台本だったので、台本にのって演じればトプスの成長が感じられるようになっていました。
やりたいことと、できることの差が悔しい
トプスは子どもにも、大人にも刺さるキャラクター
ー 可愛らしくて一生懸命な感じが悠木さんにぴったりの役だと思いましたが、トプスと悠木さんの共通点、共感できる部分はありますか?
やりたいことと自分のスキルの差が激しくて、もどかしいところです。トプスは自我が芽生えてやりたいことがたくさん出てきます。ただ、友だちを助けたいと思っても、体は小さいし力もないから何もできません。この感じは、誰もが味わったことがあるんじゃないかなと思います。
私は今でもそう感じることがめちゃくちゃあるので、実はトプスって、子どもたちよりも大人に刺さるキャラクターなのかもしれないなと思いました。そういうものを背負っているトプスが、我々に「そういうのって大変だよね」って言ってくれている気がします。
ー できることとやりたいことに乖離のあるトプスですが、それでも友情でなんとか前に進もう、行動しようとします。悠木さんも仕事を通じて、誰かに助けてもらったことなど、最近ありましたか?
助けられっぱなしです。今回の作品でも、レジェンド級の先輩方と一緒にマイクの前に立たせていただき※、先輩方と対等に芝居がしたいと思いましたが、やっぱり背伸びしても足りない部分がありました。でも一緒にお芝居をすることで底上げしていただいているところもあって、できあがった作品を観ると、スタジオで感じていた無力感よりもずっとずっと良くなっていて、それは間違いなく、先輩方の声を聞きながら一緒に声を撮らせていただいたからです。
※アフレコ収録は新型コロナウィルス感染症が発生する前に行われました。
また、音響監督やディレクターなどの方々の助けもあって、作品がよりよくつくられているということをとても感じます。スタジオで収録したときよりも作品ではよい芝居になっていて、本当にありがたいです。ここまでよくできるから、あのときOKが出たんだなというのもありますが、逆に、そこで私が思っていた状態が出せていたら、さらにプラスアルファで良くなったのかなとも思います。常に全力投球することで、よりプラスアルファ分が伸びていくようになればいいなと思っています。
ー トプス以外で悠木さんが感情移入した恐竜はいますか?
ルクト様※ですね。ルクト様、好きなんです。ルクト様はこれまで苦しんできた歴史・経験から、厳しいと感じられても、自らの信念を厳格に守ります。それにより種族を守ってきたという自負もある。しかし強大な敵に対してその信念を180度変えなければならなくなったときの判断の速さが素晴らしくて、ただ単に変化を嫌って守りに入っていたわけではなく、群れを守る、種族を守ることを真剣に考えていたからなんだなと。これはこれで正義、というのがめちゃくちゃ好きです。若者の意見を聞いて素早く判断するところもすごくて、頭脳で生き残っているところもカッコいい。ルクト様はなりたい強い女性像ですね。
※巨大な竜脚類のアンタルクトサウルスで、群れを率いる長。
得意を仕事に、好きは趣味
発信し続けることで道は開ける
ー プノンは過去のトラウマが原因で飛べなくなりますが、ティラノの言葉に背中を押されて飛べるようになります。悠木さんも誰かに背中を押された言葉はありますか?
子どもの頃からお芝居と向き合ってきて、母がずっとついてくれていたので、家族に支えられてきたというのはあります。
子どもの頃に自分の価値について考えて傷ついてしまったことがあったのですが、母はそれを真っ向から否定してくれて。たとえ業界的に何の価値もなくなったとしても、「ママにとっては可愛い子どもだよ」と言ってくれていたのは、すごくありがたかったです。何もできなくても、その存在を大切に想ってくれる人がいるというのは大きかったと思います。
そう考えると、この子たち(プノン、トプス、ティラノ)は、そういった家族を失くした状態から人間(恐竜)関係を構築しているので、すごく大変だと思います。
ー 声優は小中学生にとても人気がある、憧れのお仕事です。悠木さんは10代の頃から声優として活躍し、19歳で主演女優賞を受賞しています。どのような努力、工夫をして声優になれたのでしょうか?
私が声優になったときとは時代が異なりますし、私は子どもの頃からお芝居をしていて、行き着いた私の好きな表現というのが声優なので、最初から声優をめざしている方とはちょっとルートが違います。でも共通して言えることは、“好きなことを仕事にすること” について一度考えてみてほしいということです。
私はアニメもゲームも大好きで、そして声優という仕事をしていますが、趣味と仕事の境はどこなんだろうというのがすごくあります。職場を趣味にするのは違うと思うし、趣味に仕事を持ち込むとだんだんと辛くなってしまいます。映画を観ていても、この方はサ行をこういうふうに発音するんだとか、作品を純粋に楽しむことが難しくなることもあります。そこをどのように折り合いをつけていくかが、めちゃくちゃ難しいんです。
だから私のオススメは、まずは得意なことを仕事にして、好きなことは趣味としてやることです。今は自分の好きなことをtwitterやinstagram、TikTokでもYouTubeなど、いくらでも表現して発信する場所があります。だから好きなことはそこで表現してみるのも1つの手だと思います。
もしかしたら多くの人に “いいな” って思ってもらえるかもしれないし、それを投稿し続けることができれば、声がかかることもあるかもしれない。そうなれば仕事にしてもいいのかなと思いますが、すごく苦しい道になる可能性だってあります。好きなものを嫌いになってしまうかもしれないので、ちゃんと学校に行ったり、ちゃんと勉強したりして、自分の生活の土台を築いて、好きなことは趣味として続けながら、きちんと自分の得意なところで仕事を持つ方が、生きていくうえで好きなことを減らさずにいられると思っています。
私はたまたま好きなことと得意なことが重なったから声優というお仕事をしていますが、それでもやっぱり苦しいときはあるので、みんな自分の好きなことと得意なことは何なのか、たとえば字を書くこと、走ること、友だちの話を聞くこととか、何でもいいので得意なことを活かせる仕事をして、好きなことは趣味としてずっと続けるのがいいのかなと思います。趣味としてやっていく中で “得意” だと感じたら、それはちゃんと花開くときが来ると思います。
自分で0からアニメをつくる
アニメ制作のすべての仕事を知るために
ー 得意と好きが重なった悠木さんでも苦しいことがあるんですね。諦めようとか、やめようとか思った瞬間はありますか?
いっぱいあります。いっぱいあるし、好きなものが仕事の責任に侵食されていくのは、苦しいと思うこともあります。アニメから自分の声が聞こえてくると、自分の採点になってしまったり‥‥。自分の出たアニメを観るのは楽しむためだけではなくて、愛し方というか、落としどころを探しながら進まないとなと思います。
ー 諦めずに続けているのは、やっぱり好きだからというのと、自身の成長があるからですか?
それもありますし、他のことをやっている自分が想像できないくらい、ここだけに絞ってきてしまったので、今の仕事から新たな仕事を派生させていくことはできても、根本を絶ってしまったら、他の仕事を1から始めるのはするのはすごく難しいですね。
なのでそういう背水の陣感と、同じようにして踏ん張っている仲間がたくさんいるので、その子たちと肩を寄せ合って何とかやっている感じかもしれないです。もちろん、楽しいこともたくさんあり、得るものも大きい仕事だと思っています。
ー 声優以外にも歌手、クリエーターとしてさまざまなことに挑戦しています。新型コロナウィルス感染症拡大防止のための最初の緊急事態宣言のときには、子どもたちへの読み聞かせもしていました。今後やっていきたいこと、夢を教えてください。
あの読み聞かせは緊急事態宣言の中で、自分のやれることをやろうと思って始めたものです。私より先にやっている方もいて、誰かが始めると、それが波及して後に続く方も出てきて、それを声優さんたちに呼びかけたかったんです。今でもラジオで朗読をされている方もいるし、そうやって続いていけばいいなと思っています。またお家で頑張らないといけないときが来たら、その際は何かできたらなと思っています。
それとあの読み聞かせはある意味、私自身のためでもありました。あの期間、私たちは仕事もなく本当に何もできなくて、声優ってアフレコスタジオに行かないと何もできないんだという無力感に驚いたし、自分のことを過大評価していたとちょっと凹みました。だから読み聞かせを聞いてくれた方々の反応で、少し自信を取り戻させてもらいました。
今後の目標は、やはり声優は好きなので、声優という仕事とちゃんと向き合いつつ、表現の幅をより広げていけるような活動として、クリエイティブなことをもっとやってみたいと思っています。
そして今、自分でアニメをつくろうと進めています。声優って、ものすごくたくさんのお膳立てをしてもらってからの仕事なので、他の方の仕事をあまり知らないんです。みんなの苦労を全然知らない状態で作品づくりに意見を言えないし、言いたくないので、一度全部自分でやってみよう、見てみようと思いました。私がキャラクターを生み出し、版権も持ち、すべての責任を持っていたら、いろいろな仕事の痛みも喜びもわかるんじゃないか。そしてそれがわかったら、初めてマイクの前でスタッフさんたちと対等に話せるんじゃないかと思っています。
“好き” を原動力に、自分で考えて自分で決める
大人だって苦しいことも怖いこともいっぱい!
ー『さよなら、ティラノ』は親子で観てもらいたい映画だと感じました。この映画で、子どもたちにはどんなことを伝えたいですか?
友だちの大切さ、そして自分が何をしたいかを考えて自分で決める、ということをトプスは体現しているので、そこに注目してほしいです。トプスはお母さんが好きで、お母さんの言うことを聞いているだけの子でしたが、友だちができて好きになっていって、その友だちを守るために戦うのですが、そこに力や技術が追いつかなくて悔しい、ということが続きます。でもすべて “好き” が原動力で自分で決めていく。トプスの担っている役割として大きな部分を占めているので、ぜひそこが伝わったらな、と思っています。
また、みんながみんなそれぞれのがんばり方をしていて、それこそ大人も一生懸命に生きているというのが伝わる作品だと思います。大人の痛みって、子どもはなかなか想像することができません。子どもにとって大人は完璧で最強の生き物だと思うのですが、大きくて強くて大人でも、苦しいことも怖いこともいっぱいあるんだということに子どもたちが気づいて、大人たちは自分の中に残っている弱さなどの子ども性を改めて認識して受け入れるような作品になっているんじゃないかと思います。
王道で硬派につくられているので、お子さんと一緒に親子で安心して楽しめる作品です。絵も、お話も、音楽も素晴らしく、ぜひ劇場で観ていただければと思っています。
【映画紹介・予告動画】2021年12月10日(金)全国公開!『さよなら、ティラノ』
悠木碧(ゆうき あおい)
声優・アーティスト・クリエーター。1992年3月27日生まれ。子役として4歳より活動。2003年『キノの旅』で声優デビュー。2008年にテレビアニメ『紅 kurenai』の九鳳院紫役で初主演を果たす。2012年、第6回声優アワードにて歴代最年少の19歳で主演女優賞を受賞し脚光を浴びる。
主な出演作に『魔法少女まどか☆マギカ』鹿目まどか役、『ブギーポップは笑わない』ブギーポップ/宮下藤花役、『戦姫絶唱シンフォギア』立花響役、『君の名は。』名取早耶香役、『ヒーリングっど♡プリキュア』花寺のどか/キュアグレース役など。
また、2017年よりソロアーティストとしても活動を開始。さらに特技のイラストを活かして企画・原案・キャラクターデザインを自らが務める『YUKI×AOIキメラプロジェクト』をスタート。クリエーターとしても活躍中。
記事が役に立ったという方はご支援くださいますと幸いです。上のボタンからOFUSE経由で寄付が可能です。コンテンツ充実のために活用させていただきます。