2022年3月25日(金)全国公開!「きかんしゃトーマス」と非認知能力の関係を探る!
映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード 小田直弥先生インタビュー!
世界的に注目されている “非認知能力” という
子どもの将来や人生を豊かにする力の大切さ
― 小田先生は音楽教育を専門とされていますが、「きかんしゃトーマス」の研究との関係や、現在どのような研究をされているか教えていただけますか?
青森県の弘前大学 教育学部音楽教育講座でピアノとソルフェージュを教えています。ソルフェージュはいかに楽譜を読みとり、その作品を理解するかを学ぶものなので、「きかんしゃトーマス」の作品を読みとることで、子どもたちにどのような教育的効果があるかを調査研究することは、ソルフェージュと通じるところがあります。
トーマスの他には、エジプトの小学校を対象に器楽教育の効果について研究しています。音楽が必修科目ではなかったエジプトでは、新カリキュラムにおいて、音楽が4年生以上の必修科目となりました。特に “非認知能力” に関して、音楽がもたらす教育的効果の研究を楽器やオーディオ機器を製造・販売しているヤマハ株式会社さん主体で進めています。
―「きかんしゃトーマス」はSDGs(17の持続可能な開発目標)をテーマに国連とコラボレーションし、2019年のシリーズからトーマスの仲間にケニア出身の機関車(ニア)や、映画ではインド、中国、そして日本の機関車(電車)など多様な国のキャラクターが出てくるようになりました。舞台も架空の島・ソドー島以外の実在する世界を描くようになっていますが、SDGsを未就学児から意識付けしていくことは、子どもたちにどのような影響を与えるとお考えですか?
文部科学省の学習指導要領の改訂がなされ、小学校では2020年度から新学習指導要領が全面実施されていますが、その中でもSDGsは大切な考え方として扱われています。そして未就学の段階で、これからの社会で求められる概念に自然と触れておくというのは、とても有益に思います。
小学校に入っていきなり、まったく新しい価値観が出てくるよりも、事前にその価値観が体の中に入っていることでSDGsの達成に貢献する「持続可能な社会の創り手」としての意識がゆるやかに育まれていくと思いますし、子どもたちを取り巻く環境全体がSDGsというものに対する理解を示しています。そこには「きかんしゃトーマス」も含まれていて、子どもたちに自然とそういう感覚が醸成され、小学校以降の学びとも連続し、そこで培った力が将来生きていくための力につながっていくと思っています。
【映画紹介・予告動画】「映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード」2022年3月25日(金)、シネ・リーブル池袋、全国のイオンシネマほかロードショー!
シリーズ初の参加型ムービーで
トーマスの世界に今まで以上に近づける
― 今回の『映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード』は、シリーズ初の参加型ムービーです。通常の映画と比べ、非認知能力の向上において、どんなところが参加型のメリットでしょうか?
鑑賞するだけの映画と大きく異なるのは、拍手や手拍子など “手を叩く” ことで、トーマスの世界の触れ方や楽しみ方が広がるとともに、そこから得られる情報が大きくなることです。
客席に座って放映されるものを一方的に鑑賞するタイプの映画では、物語の中にどのような仕掛けを用意するかが極めて重要でした。しかし今回のトーマスの映画では、そこに手を叩くこと(拍手・手拍子)が加わりました。
何に対して手を叩くのか、今回の映画では選択肢のクイズがあり、答えと思われるものに対して自分の意見を表明するために手を叩きます。重要なのは手を叩くこと(拍手)に目的があること、そして手を叩くためにはトーマスの世界に浸って思考する必要があることです。
クイズというひとつのきっかけと拍手をするということが、トーマスの世界に今まで以上に近づいたり、新しい見方をする方法をひとつ得たことになるのかなと思っています。
もうひとつは、音楽に対して手を叩くこと(手拍子)があります。トーマスたちの歌を耳で聴いて手を叩くことはもちろん、画面上に表示されている手を叩くマークにあわせて手を叩くこともあります。音楽にあわせて自分もその世界に参加するために手を叩くというのは、これまでの映画鑑賞と比べ、トーマスの世界との触れ方、楽しみ方は大きく違ってくると思っています。
ー 映画館で同年代のお子さんと一緒に映画を観る体験も、子どもたちに良い影響がありますか?
参加型の映画の場合、何回観に行っても毎回異なる体験ができます。通常の映画の場合は、自分の中での変化を映画館で楽しむということがあります。何回観てもおもしろい映画というのは、1回目に観たときとは異なる感動を2回目の鑑賞で見つけることで、それは他者の影響ではなく自分の中での変化をもとに映画を楽しんでいます。
しかし今回は自分以外の要素として、他の子がどんな拍手をするか、自分は冷静に観たいけど他の子はとても盛り上がっていて、釣られて一緒に盛り上がってしまうなど、前回観たときとは異なる映画体験ができます。そこが参加型の良いところですし、同じような年齢のお子さんがたくさんいるからこそ実現する環境なんじゃないかなと思っています。
非認知能力の向上には “一貫性” が大切
大切なことはトーマスからも伝えてもらおう
― 子どもたちは、好きなキャラクターの言うことを素直に聞くことがあります。「きかんしゃトーマス」のメイン視聴者層(2歳〜4、5歳)は親御さんのことも無条件に好きな年齢だと思いますが、同じ “好き” でも、親御さんに言われるのと好きなキャラクターに言われるのとでは、子どもの受け取り方は異なるでしょうか?
縦、横、斜めの関係で言うと、子どもにとって親は縦の関係になります。一方キャラクターやロボットなどは横の関係に位置付けられます。好きな人でも、縦の関係の人から言われるのと、横の関係の人から言われるのとでは、たとえ同じ内容でも受け止め方は異なると思います。
指導的な内容や自分の行動を改善しなければならないことを言われるのと、共感や同調的なことでは異なると思うので、そこは厳密な研究を待たなければなりませんが、子どもの中で親から言われるのと好きなキャラクターから言われるのとでは、やはり受け取り方は異なると思っています。
ー 大事なことは親とキャラクターの両方から伝えることも必要ですか?
低年齢のときから非認知能力を意識して子育てをする場合、“一貫性” というものがポイントになるのではないかと言われています。
トーマスを好きな子どもがいる保護者に限定した調査になりますが、2019年に私どもの研究チームでアンケート調査をした結果からも、非認知能力に関する得点が高い子どもの保護者がどのような子育てをしているかを見たところ、“しつけに一貫性があった” というのが可能性として見えました。なので縦、横の関係から同じことを言ってもらうというのは、その子どもの中での価値観形成に影響があるのかもしれません。また縦で響かなくても、横から言われると響くということもあると思います。
たったひとつの問いから
子どもの中ではたくさんのことが起こっている
― 親御さんが常に子どもと一緒に「きかんしゃトーマス」を観ることはできませんし、ご飯の用意をするときなどは、子どもが大人しくしてくれるのでトーマスを “観せておく” こともあると思います。親御さんがあとからできるフォローはありますか?
お子さんに「きかんしゃトーマス」のDVDや動画配信サービスを観せておいて家事をすることは多々あると思います。もしそれを親御さんがネガティブに捉えているようでしたら、まずはそう思わないでほしいですね。
そしてトーマスを観たあとで、今日はどう感じたかを聞いてあげるといいと思っています。子どもたちは日々いろいろなことを体験していますが、他者からの介入によって初めて行う思考、行動を誘ってあげるというのが、教育の中で重要と考えられています。
そういう教育的機能を果たす意味において、トーマスを観た子どもに「ご飯できたよ」と、トーマスをなかったものとしてしまうよりは、どんなお話だったかなと質問し話をする中で、物事を整理して順序立てて話をする力が養われたり、伝えようとする気持ちが育まれたり、もっと上手に伝えたいという向上心が芽生えるかもしれません。
たったひとつの問いから、たくさんのことが子どもの中で起こります。なのでトーマスを観たあとは、ぜひ子どもたちに「今日はどんなお話だったの? どう思ったか教えてくれるかな?」と聞いてあげるだけでも、学びの世界はより深いものとなり、その後に広がっていくんじゃないかなと思います。
テレビのニュースでどんな話をするか
習い事、幼少期の音楽教育はどうする?
― SDGsの中には「平和と公正をすべての人に」という目標があります。トーマスのメイン視聴者層にはまだ難しいと思いますが、連日、戦争のニュースが流れている今の状況の中、小学生くらいの子どもから何が起こっているのかを聞かれた場合、一方的で理不尽とも思えるこのような出来事を、どのように伝え、一緒に考えたらいいでしょうか?
小学校低学年なら身近なことと関連づけて考えることが入口になると思います。たとえば「なぜケンカは起こるんだろう?」など、戦争と似た原理を持っているものをきっかけに、その規模が大きくなった先に戦争というものが存在すると理解してもらう。
最近の教育の潮流としては、それが正しかったか悪かったかを教えるということはほとんどありません。なぜこういうことが起こってしまったのか、なぜこういう考え方ができるのか、そこを考え、もしそれと近しいことが起きたときに応用できる力を育むことがめざすべきゴールです。未来に使える汎用的なスキルを伸ばすために問いを立て、平和をテーマに一緒に考えてほしいですね。
― 私自身もそうですが幼少期に音楽が身近になく育ちました。楽器が弾けたらいいなと思いつつ、今も何の楽器も弾けず終いです。このように両親に音楽的素養がない場合、子どもの音楽教育はどのように考えればいいでしょうか?
楽器については、子どもがやりたいと思うならばやらせてあげたらいいのかなと思います。
音楽を専門とする人間からしても、“音楽ができる” ってどういう状態なのかは、すごく議論になるんです。私たちは簡単に音を鳴らすことができます。たとえばレストランでスプーンとお皿がカチャカチャいう音、あれも音ですが騒音でしょうか、それとも同じ音がホールの舞台上で鳴っていると音楽になるのでしょうか。身の回りにある音がいつ音楽になるのかというのは、今でも議論されているんです。だから “音楽ができる” という状態は、プロの演奏家のように「ピアノが弾ける」「ギターが弾ける」ということだけではないような気がします。
少し視点を変えると、たとえば車に乗っていてBGMをかける。これは見方によれば音楽の授業でいう「鑑賞」です。特定の音楽を車の中で一緒に共有する時間をつくっているわけです。つまり、演奏ができる以外にも音楽教育を考えるきっかけは身の回りにたくさんあるんじゃないかと思います。
親御さんは演奏能力だけで音楽ができないと悲観する必要はまったくなく、私の好きな曲ってなんだろうとか、どういう音楽を聴くとどんな気持ちになるかとか、演奏以外での自分自身の音楽への関心を見つめ直す機会をつくり、音楽というものを広くとらえていただくと、音楽に対して自信を持っていただけるのかなと思います。
観終わったら、親子で映画を振り返ろう
学校以外の場所での “体験活動” もおすすめ
― 今回の「映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード」は、ぜひ親子一緒に映画館で観て、参加していただければと思いますが、観終わったあと、どのようなことを子どもと話したり、一緒に考えるといいでしょうか。大切なポイントがあれば教えてください。
非認知能力の観点からは、ひとつ注意していただきたいことがあります。非認知能力というのは認知能力に「非」がついたものなので、認知能力という概念がなければ非認知能力は成立しません。つまるところ、認知能力と非認知能力をそれぞれ独立させて考えることは難しいんです。
非認知能力があることで認知能力が高まったり、認知能力がある程度高まることで非認知能力が高まる「スキルはスキルを生む」という言葉をOECDが使用しています。この映画を観終わって非認知能力のために何かをしたいと思ったとき、「非認知能力は高ければ高いほどいいわけではない」ということも知っておいていただければと思います。
「きかんしゃトーマス」の中に「ヘンリーの心配」というお話があります。ヘンリーは心配性という気質ゆえに仕事をまっとうできないというものです。物事に対してリスクを考える力は非認知能力のひとつで、これは社会を生き抜くために必要な力にも思いますが、その力が高すぎても幸せな未来にはつながらないのかもしれません。
これをご理解いただいたうえで非認知能力向上のために何かしたいと思われたら、“体験活動” に着目してほしいと思います。学校以外でいろいろなことをする機会を、親子一緒につくってください。体験活動は文部科学省も推奨していて、青少年体験活動アワードは小学4年生~中学3年生までが参加できるジュニア版、高校生から大学生までが参加できるシニア版があります。
学校という社会の中で学ぶことが、本当に外の社会で機能するかどうかはわかりません。いつもの仲間、いつもの先生と学ぶことで学び方が固定化されてしまう可能性もあります。そのため学校以外のいつもとは違う友だちやお兄さんお姉さん、年齢の低い子など、そういう人たちとの新しい集団の中で学びをする機会を得ることで、学校とは異なる思考や行動を学ぶことができます。
学校なら「こうしておけばいい」と思っていたことが、外のまったく違う集団の中では、「こうしてみようかな」と、新しいきっかけが生まれるかもしれません。そうした先には学びもあり、そこには非認知能力が関わってくると思います。
なのでこの映画を観終わったら、映画の内容を一緒に親子で振り返っていただくことはもちろん、もっと非認知能力に特化して何かをしたい場合は、“体験活動” にチャレンジしていただければと思います。
「映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード」は、2022年3月25日(金)、シネ・リーブル池袋、全国のイオンシネマほかロードショー!
2022年3月25日(金)、シネ・リーブル池袋、全国のイオンシネマほかロードショー!
映画 きかんしゃトーマス オールスター☆パレード
ある日、トップハム・ハット卿から、歌をうたうと手に入る宝物があると聞かされたトーマス。トーマスと仲間たちが、これまでの冒険から人気の歌を次々に披露するので、映画館のみんなも拍手で応援しよう! クリスとヒラリーも出てきてクイズで盛り上げるよ!
新しい物語はイースターのお祭りが舞台。パレードのためボディをハデにペイントすることになったトーマスたち。アイデアをさがしてウサギたちを追いかけると、虹のふもとまでたどり着いて…?! トーマスのびっくり仰天なペイントとは? 最後には無事、宝物は手に入るのでしょうか?
小田直弥(おだ なおや)
弘前大学教育学部助教(ピアノ研究室)、東京学芸大こども未来研究所学術フェロー。『きかんしゃトーマスでつなげる非認知能力子育てブック』(東京書籍)の他、ヤマハ株式会社によるエジプト国初等教育への日本型器楽教育導入事業(非認知能力の測定手法検討)に参加。
非認知能力をきかんしゃトーマスの図鑑と物語で育む!
きかんしゃトーマスでつなげる 非認知能力子育てブック
著者:東京学芸大こども未来研究所
出版:東京書籍
定価:1,870円
“非認知能力” の観点から、長年にわたり世界中の子どもたちに愛されてきた「きかんしゃトーマス」のお話とキャラクターを選定。子どもに読み聞かせをしたり、一緒に読んだり、図鑑ページを親子で楽しみながら、子どもたちの非認知能力と心を育むお手伝いをします。また子育て世代の親御さんは、非認知能力を育むポイントや気づき、見極め方の理解にも役立ちます。
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