『こまねこ』11年ぶりの新作は
子どもにとって大切な “ぬいぐるみ”を通して
こまねこの成長を描く!
ー こま撮り映画『こまねこのかいがいりょこう』が2024年10月25日(金)に公開されます。11年ぶりの新作となりますが、このお話にしようと思ったのはなぜですか?
主宰しているこま撮りアニメーションスタジオ「ドワーフ※」が2023年に20周年を迎えたのですが、こまねこも同じく20周年ということで、「成長」をテーマにストーリーを考えてみました。
自分でつくったキャラクターは成長してほしい、でもやっぱり子どものままでもいてほしい。その両方の想いがあるんだな、どちらか一方は選べないものだなと思ったんですね。ちょっと成長したり、ちょっと子どもに戻ったり、その繰り返しで成長してもらえたら一番いい、そこはその子のペースでいいんじゃないのかなって思いながらストーリーを考えていきました。
ちょうどその頃、ロシアによるウクライナ侵攻がはじまって、テレビのニュースで父親を残して母親と子どもが国外へ避難する映像が流れたんです。母親はリュックを背負い大きなスーツケースを引きずり、子どもも大きなリュックを背負ってお母さんと手をつないでいましたが、片手ではぬいぐるみをギュッと抱いていたんですよね。
それを見たとき、この子にとってのぬいぐるみって何なんだろう、食べ物や着るものと同じ、もしくはそれよりも大事な命綱のようなものなんだと感じて、この日、この子が家を出るときにぬいぐるみをつかんだときの心境ってどういうものなのか、その気持ちを想像することがひとつの鍵となってストーリーができていきました。
※ドワーフスタジオ:株式会社FIELD MANAGEMENT EXPANDのアニメーションコンテンツ事業部であり、NHKキャラクター「どーもくん」をはじめ数々のキャラクターやコンテンツを生み出し、卓越した技術力のこま撮りを中心とした映像作品で国内外で評価されているアニメーションスタジオ。2003年9月に設立、2023年に20周年を迎えた。
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こまちゃんの持っている「ももいろ」
「はいいろ」が、もうひとりの主人公!
ー 11年ぶりの新作ということで久しぶりの撮影だったと思うのですが、特に大変だった点はどんなところでしたか?
大変さもものづくりのおもしろさなので大概がおもしろいことになっちゃうんですが、20年もやっているとスタッフの中にはもう会えなくなってしまった人もいて、「これでよかったっけ?」と聞きたくなることがたくさんあったんですが聞けない、その人も「きっとこういうことで良しと思うんじゃないかな」みたいなことをみんなで話し合いながらつくっていきました。
そういうスタッフがいることが寂しくもあるんですが、続けていきたいので、変わらないように、止まらないように進めていくのが大変といえば大変でした。現場にいたスタッフみんなが、そういう想いでやっていたんじゃないかなと思いますね。
ー 特にここには注目してほしいというところはありますか?
今回は、こまちゃんが持っている「ももいろ」「はいいろ」というぬいぐるみがもうひとりの主人公です。今まではあまりなかった感情をあらわにするところもあるので、「ももいろ」「はいいろ」の感情が伝わるようにがんばりました。登場回数が多かったこともあり骨折も多くて、しょっちゅう入院していました(笑)。
“たからもの” のような名作3本も同時上映!
こまちゃんは合田監督自身? それとも子ども?
ー 今作では名作と呼ばれる3作も同時上映され、『はじめのいっぽ』という作品ではこまねこ自身がこま撮りで作品づくりをし、撮影がうまくいかないことも描かれていますね。
『はじめのいっぽ』は一番最初の作品で「 “つくる” というのはどういうことかな?」ということをテーマにしています。ものづくりが大好きなねこの女の子 “こまちゃん” がこま撮りをしているお話で、普段、僕がやっていることをそのまま描きました。
そういう意味では今回の映画『こまねこのかいがいりょこう』は “つくる” がテーマではなく、自分たちはいつも人形を使ってさまざまな表現をしていますが、「人形ってどういうものなのかな?」って、自分たちにとっても人形の存在について改めて考えるというか、そういう作品になるといいなという感じでしたね。
ー 同時上映の3作も含めて今作を拝見させていただきましたが、『はじめのいっぽ』を観ると、こまちゃんは、まさに合⽥さんなのではと感じましたが、ご自身ではどう思われますか?
作品には自分が思っていることを嘘なく入れたいので、『はじめのいっぽ』でものづくりの喜びだったり、こま撮りした映像を最初に観るときのわくわくする感じとか、そういうところでは自分が思っている感じを表現しているので、自分自身といえば自分自身かもしれないですね。
ー 自分自身かもしれないというこまちゃんですが、合田さんにとってどのような存在になっていますか? 自分自身でもあり、我が子のような感じもあるのでしょうか?
どっちもなのかなと思うんですけど、子ども‥‥そうなのかなぁ。でも、“かわいい” と言っていただけることがあるんですが、僕はかわいいとはあまり思わなくて、かわいいものをつくろうと思ったわけではなく、なんか友だちにいたらいいなっていうぐらいな感じでつくったんですけど、こんなに長く関わるとは思いませんでした(笑)。
作品を1本つくるとやりきった感があって「終わった。もうこまねこは終わった」と思うんです。つくっている間は頭の中にずっとこまねこたちがいて、特に絵コンテを描いているときはキャラクターたちが「こういうふうにするんじゃないの?」みたいなことを言っていて、僕はそれをメモしているだけのような感じなんです。つくっている間はずっとこまねこがいて、つくり終わるといなくなるので「はい、もう、こまねこはおしまい!」って思うんですが、2年くらいすると頭の中に出てきて、そろそろこんなことをしたいなとか、どっか行きたいなとかいろんなことを喋り出すんですよね(笑)。
5分の作品でも想像力が膨らめば1日楽しめる
たくさんの正解が生まれる作品の方がおもしろい!
ー 『こまねこ』ではセリフが「にゃー」のみです。ノンバーバル(非言語)の良さはどんなところだと思われますか? また合⽥さんの伝えたいことが伝わっているかという心配はありますか?
「にゃー」しか言わないのでフランスや台湾など、海外でもいろいろなところで公開されていますが、そのまま何も変えることなく公開できますし、同じように楽しんでもらえるというのはノンバーバルの良さですね。
でも何を言っているかわからないというのは、多くを観ている人に委ねている作品だと思うんですね。この「にゃー」は何を言っている「にゃー」なのかっていうのは、もちろん想定してつくっていますし伝わってほしいと思いますが、こちらが思っている通りに伝わらなくても、その人にとっての正解であればいいと思うので、観た人が100人いたら100人の『こまねこ』が生まれるみたいなところが、ノンバーバルアニメーションの良さじゃないかなと思っています。今風ではないのかもしれませんが、想像力をフル活用しながら楽しんでもらえたらなと思うんですよね。
ー 世の中の流れはショート動画や倍速での視聴のような、長い時間をかけて想いが伝わるものが極端に減ってきて、すぐ結論に直結する制作物が多いと思うのですが、そんな中で手間と時間をかけてつくるこま撮りの映像で、どういうことを伝えたいと思っていますか?
こま撮りは、ちょっと動かしてパシャっと撮って、またちょっと動かしてパシャっと撮って、1日で5秒くらいの映像しか撮れません。それを積み重ねる手法でとても手間と時間がかかるので、1回観て「あ〜おもしろかった」でおしまいというのは、ちょっと悔しいですね。
観終わってから、あそこってどういうことなのかなとか、いろいろと想像を膨らませることで5分の作品でも1日楽しめる、観た人の想像力が合わさることで完成するような作品をつくりたいと思っています。だから時流には逆行しているのかもしれませんが、それを楽しんでくれる人もいるはずだし、信じてやっている感じです。
「答えは何なの?」と問われることもあるんですが、「君が思ったことが正解だよ」でいいと思っていて、そういうふうにたくさんの正解が生まれる作品の方がおもしろいんじゃないかなと思うので、そういう作品をつくっていけたらなと思っています。
ー こま撮りでもデジタル技術の進化の恩恵はありますか? それとも、複雑な表現をしようと思えば思うほど、やはり発想と、より手間と時間がかかるのでしょうか?
ものをつくって手で動かしてカメラで撮ってという原理はずっと変わらないんですが、その周辺にあるもの、カメラもデジタルに、収録もコンピュータを使うようになって、試行錯誤やいろいろなテストがとても簡単に、かなり完成に近い映像でできるようになりました。
複雑なものをつくるにしても、以前だったら4日くらいかかっていたものが半日でできるみたいなことが起こっているので、原理は変わらないけど、表現はより豊かになっていくんじゃないかなと思いますね。でも、AIは怖いですね。
ー AIが映像をつくってしまうようになりましたからね。
抗っていければいいなと思います。観る喜びももちろん与えたいんですけど、つくる喜びも現場にはあるので、つくる側の人がもっと増えたらいいなと思いますし、敷居がもっと低くなるようにできたらいいなと思っています。
1秒の映像に2〜3日かかる撮影も
複雑で大変なカットほどおもしろい!
ー 以前、子どもたちを集めてこま撮りのワークショップをやったことがあります。紙粘土でキャラクターをつくって絵コンテを4シーンほど書いて、その4つのシーンを撮影してつなげただけなので正確にはこま撮りとは言えないパラパラ漫画的なものでしたが、子どもたちは自分がつくったものが動いて作品になるということをとても楽しんでいました。しかし実際に仕事になると、1日で5秒分しか撮れないというものすごく大変な作業になります。それでもその大変さを乗り越えてつくり続けているモチベーションは何ですか?
大変なんですけど、その大変なのがおもしろいところなんですよね。カットによっては1秒の映像に2日も3日もかかる撮影もあるんですが、でもそういう大変なカットほどおもしろいんです。
ー どんなカットが大変なんですか? こまねこの瞳がウルウルしながら涙がこぼれるのを見て、あの透明な涙の部分を少しずつ動かして撮影しているのかと考えたら気が遠くなりました。
そうですね、そのカットは嫌がられますね(笑)。あと、いろいろなキャラクターが同時に動くのもそうですし、それにカメラの動きもからんでくるとより大変なことになるんですが、その複雑なカットの方が見応えがあって、おもしろいんですよね。
こま撮りは、スマホ1台あればすぐにできる!
テーマは自分の秘めた想いをキャラクターに託す!
ー 作品のテーマ自体が “ものづくり” に関してですが、ご自身にとって “ものづくり” の魅力や、若い人たちにもこま撮りをやってもらうようにするために伝えたいことはありますか?
僕の場合は監督しかできなくて、人形をつくることも動かすこともできないし、カメラもできない、ほとんどを誰かにやってもらうんですが、なるべくそのやってもらう人の好きな感じが入ってくる方がいいなと思っていて、それで自分が考えていたものよりも、みんなでやったことで100点ではなく120点とか150点になるということが起こるので、それがつくっているときの喜び、自分自身の喜びなんですけど、“ものづくり” の魅力のひとつですね。
若い人たちにこま撮りをやってもらうようにするには、僕はスタジオをやってるので、自分たちのスタジオがたくさんの作品をつくり続けられる環境にして、関わる人がちゃんと生活できなければなりません。そういう環境づくりはやってきたかなと思うので、それを100年ぐらい続くように、後輩たちにうまく繋げられたらなと思ってます。
そして子どもや学生の方でもつくることに意欲のある人たちがたくさんいると思うので、そういう人たちの選択肢にこま撮りが入るといいなと思ってます。
ー 以前、海外の映画監督の方にインタビューをする機会があり、映画づくりに興味がある子どもたちは何をしたらいいかを質問したんです。そうしたら、その方が子どものときは8ミリカメラでしたが、それを使ってとにかく撮影した。今はスマートフォンが1台あれば撮影も編集もほとんどお金もかからずできるので、とにかく撮影してみて、と言っていたのですが、合田さんも同じ意見ですか?
まさに、まさにそうです。こま撮りならばアプリもあるので、今は羨ましいかぎりの環境です。やろうと思ったら本当にすぐにできるので、ぜひやってもらいたいなと思いますし、キャラクターなどを動かして映像的なおもしろさも味わってもらいたいですね。
そして、自分が思っていることを表現するのに “こま撮り” というものを使ってみてもらえるといいと思います。たとえば、まだ誰にも言ったことがない気持ちやことなどを自分が託したものにやらせるのは、自分にとってとても大切な作品になると思うので、やってみてもらえたらなと思います。
いろいろな体験そのときの感情を大切に
観た方の感情を刺激し想像が膨らむ作品
ー ストーリーから撮影、制作まですべてをご自身でもできると思いますが、こま撮りの作品において一番大切にしていることは何ですか?
いろいろな表現があっていいと思いますが、僕はその人形が “生きている” ということを大切にしたいんです。それは動いているとか走るとかジャンプするとかではなく、感情を持っていて、その感情が観ている人に伝わることが、こまねこが “生きている” ということだと思うので、どうやったら伝わる感情表現ができるのかなっていうのが、僕にとってのこま撮りのテーマなんですよね。それを掘り下げられたらいいなと思ってやっています。
ー 感情表現は、やはりご自身の体験をもとにされているのでしょうか?
子どもの頃の記憶をたくさん使って『こまねこ』はできていると言っていいくらいですね。友だちとの出来事や親との出来事、いろんな出来事やそのときの感情が作品のネタになってます。
今作のテーマの「成長」のようにキーワードを見つけたら、これにあう記憶は何だっけ? って記憶を引っ張り出して、こんなのあったとか、これはどうかとか、それを組み合わせてストーリーをつくるみたいな感じなんですよね。
いろいろな出来事が作品づくりにおいては全部ネタになってくるので、いろいろな体験をして、そのときの感情を大事にしておくことが結構大切だと思うんですが、今はもう、たとえば悲しいことが起こると、「この感情は覚えておこう」と思うようになっているので、それがいいことかどうかはちょっとわからないですね(笑)。でも、とっても大事なものになっています。
ー 最後に、今回の作品の見どころ、今作を通してお子さんや親御さんに伝えたいことを教えてください。
観ることも想像力だと思いますが、つくる方も想像力をたくさん使ってつくった20年なので、かわいらしくもあるし、ちょっと怖いところもあったりと、観た方の心、何か感情を刺激したり、いろいろと想像が膨らむような作品になっているかなと思うので、ぜひ観ていただけたらなと思います。
こま撮り映画『こまねこのかいがいりょこう』は、2024年10月25日(金)より新宿バルト9ほか全国順次ロードショー!
【プレゼント】2024年10月25日(金)映画『こまねこのかいがいりょこう』公開記念! こまねこ アクリルキーホルダー プレゼント!
2024年10月25日(金)より新宿バルト9ほか全国順次ロードショー!
こまねこのかいがいりょこう
⼭のうえのおうちに暮らすこまちゃんは、ものづくりが⼤好きなねこの⼥の⼦。いつも⾃分の⼼に素直に、そして楽しく暮らしています。
ある⽇、いっしょに暮らす “おじい” から海外旅⾏の計画を聞き喜ぶこまちゃんですが、友だちの “ももいろ” “はいいろ” は連れていけません。はたしてこまちゃんは、⼤好きな彼らと離れても⼤丈夫なのでしょうか‥‥︖ ひとコマひとコマが愛おしい。好奇⼼いっぱいのねこの⼥の⼦の成⻑物語。
合⽥経郎(ごうだつねお)
2003年、株式会社ドワーフを⽴ち上げ、アニメーション作家へと転⾝。「どーもくん」や「こまねこ」などこま撮り作品を制作する傍ら、イラストレーション、絵本の執筆など創作活動は多岐に渡る。幅広い世代に愛される多くの作品を⼿がけ、国内のみならず海外においても⾼く評価される、⽇本を代表するクリエイター。
ドワーフスタジオ
ドワーフスタジオは株式会社FIELD MANAGEMENT EXPANDのアニメーションコンテンツ事業部であり、NHKキャラクター「どーもくん」をはじめ数々のキャラクターやコンテンツを生み出し、卓越した技術力のこま撮りを中心とした映像作品で、国内外で評価されているアニメーションスタジオです。2003年9月に設立され、2023年に20周年を迎えました。最新作はNetflixシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』や、西野亮廣氏×堤大介氏とのコラボ短編アニメーション『ボトルジョージ』など。
https://dw-f.jp/
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