
2013年7月6日(土)〜10月6日(日)まで東京・上野の国立科学博物館で開催!『特別展「深海」- 挑戦の歩みと驚異の生きものたち-』
20年の調査・研究の成果を発表する待望の特別展
本展は国立科学博物館が20年かけて調査・研究してきた成果を、2年ほどかけて企画、準備を行ってきた待望の特別展。この半世紀の間、深海の謎は飛躍的に解明されつつあり、さらに昨年(2012年)には、世界で初めてダイオウイカの姿を深海で撮影することに成功、“深海”に対する一般の方の興味も、盛り上がっています。
特別展は7つの章で構成。第一章は「深海の環境」について。たとえば私たちは深海というと“真っ暗”と思いがちですが、光は1,000mほどまでは届くそうで、それは後の章で解説されるクラゲなど発光する生物の理由にもなっています。水温や酸素濃度、塩分、そして水圧など、今までなんとなくそう思っていた固定観念が覆されるや、一気に知的好奇心が盛り上がってきます。

会場入口には大きなスクリーンにマッコウクジラが映し出されています。さぁ、マッコウクジラと一緒に、深海まで潜ってみよう!

深海の海水の冷たさや光、水圧など、深海の基本がわかる、冒頭の第1章。なんとなくそう思い込んでしまっていたことなど、認識を新たにしなければならないことが多々あるかも

深さ違いの3つの海水の冷たさを体感! 深層部分の海水温度は2度ほど

こんな鉄球も水圧で破壊。しんかい6500が潜れる6500mにもなると、親指の爪ほどの大きさのところに670kgもの水圧がかかる
第2章は有人潜水調査船「しんかい6500」の実物大模型をはじめとする調査船の解説と、深海調査の歴史について。第1章で学んだあの水圧に耐えるために、人々はどのような工夫をし続けてきたのか。また、世界ではじめて有人での深海の科学調査を行ったのは日本人という事実には、驚くとともに、誇らしくもあったり。
第3章は深海の生物について、第4章は深海生物がどのように深海で生きているか、第5章は深海への適応について。ここではダイオウイカの実物標本、ダイオウイカを捕食するマッコウクジラがどのように深海でエサを探すか、そもそも出会う確立の低い深海で、深海生物はどのように巡り会い、子孫を増やしていくのかなど、常識では考えられない深海生物のユニークな生態がわかるようになっています。そして第6章は、昨年初めて撮影に成功した深海でのダイオウイカの動画などが、大迫力の大型スクリーンで鑑賞できます。

しんかい6500の実物大模型。深海を覗く窓や、深海での操作を行なうマニピュレータなどもよくわかる。どことなく深海生物にも似ているような

乗員は3名まで。3人乗ったら、かなりキツそう

しんかい6500の仕組み。人の乗る部分の小ささがよくわかります
目玉のダイオウイカ、見所は、全部!
内覧会では、ダイオウイカ研究の第一人者、国立科学博物館の窪寺恒己水産学博士の展示解説もあり、記者からたくさんの質問がありました。本来なら、こういうのを子どもたちにも聞かせてあげたいですね。
窪寺博士はダイオウイカがこれだけの巨体になった理由のひとつとして「大きくなれば補食されない」と自論を展開。何を食べているかはよくわかっていないが、イカをエサとしているのでは、と説明してくれました。またその数や生態についてはまったくわかっていないものの、たとえば、マッコウクジラは息つぎのため水面に出てくるので数を把握しやすく、およそ20万頭いるとして、1頭のマッコウクジラが週に1度ダイオウイカを食べるとすると、果たして1年で何匹のダイオウイカがマッコウクジラのエサになるのか。そしてそれは、それ以上多くのダイオウイカがいるということでもある。しかし、そんなに多くのダイオウイカがいるということはわかっていないし、どのような子育てをするのかも、まったくわかっていない。まだまだ未知な部分だらけなんですと、これからの調査・研究への意欲を語ってくれました。
また、展示されているダイオウイカのどこを見ればいいのかについては、「全部!」との答えが。それでも、バレーボール並に大きな目玉や口などは、ぜひ見てほしいとのことでした。
【インタビュー】ダイオウイカ研究の第一人者、国立科学博物館・窪寺恒己水産学博士

どこに生息し、子育てを行っているのかなど、まだまだ未知の部分が多いダイオウイカ

ダイオウイカ研究の第一人者、国立科学博物館の窪寺恒己水産学博士の展示解説。博士の話には、みんな興味津々でした

マッコウクジラの頭部の模型。裏にまわるとわかるのですが、本物の骨を使っているので、ほぼ実物大。頭にはダイオウイカと戦った吸盤のあとも再現。暗闇でどうやってダイオウイカを見つけるのでしょう? 秘密はこの頭部に
さまざまな可能性を感じられる深海の世界
深海は、宇宙とともに“人類に残されたフロンティア”だと言われていますが、身近さや、少なくとも現時点では、生物の多様さにおいては深海の方が圧倒的です。深海生物というとなかなかお目にかかれない遠い世界と思いがちですが、子どもたちも大好きなズワイガニや、煮付けにするとおいしい金目鯛などは深海生物ですし、フィッシュバーガーなどの魚の白身のフライの多くも、深海生物だったりします。実は深海は、私たちの生活に入り込み、すでになくてはならないものになっているのです。
そんなところも深海の魅力ですが、私たちのすぐ足下に、いろいろな生物がさまざまに進化・工夫しながら生きているということ、まだ見ぬ生物が、信じられないような能力を持ち、生きているのかもしれない。厳しい環境を調査するための人間の知恵や技術の進化、そしてそんな環境で生きる生物の“生”などからは、さまざまな可能性が感じられ、そこには夢やロマンを感じます。

第3章の「深海生物図鑑」には、さまざまな深海生物の実物標本が並ぶ

ちょっとグロテスクなものもあるけれど、その姿形はとにかくユニーク。もちろんその形になった意味や機能も
ポイントを説明し、理解できると見応えあり!
今回の特別展は、ひとつひとつの解説を読み、しっかり理解すると、とても楽しく、見応えがあります。少し難しいところもあるので、音声ガイドの貸し出しもありますが、小さなお子さんには親御さんがポイントを説明してあげるといいと思います。深海の海水の冷たさや、水圧でつぶされた鉄球など、実際に触って体感できるものもありますので、見て、触って、読んで、聞いて、深海の魅力をたっぷり堪能してください。
深海の生物を見ていると、SF映画などで見る生物や近未来の乗り物、オブジェクトにどことなく似ていると感じます。自然がつくりあげたその形のユニークさや色の美しさなどは、人間がゼロから創りだすことはなかなかできないなと、そんな凄さも感じました。
『特別展「深海」- 挑戦の歩みと驚異の生きものたち-』は、2013年7月6日(土)〜10月6日(日)まで、東京・上野の国立科学博物館で開催中。夏休みに、おすすめのイベントです。
【インタビュー】ダイオウイカ研究の第一人者、国立科学博物館・窪寺恒己水産学博士

「しんかい2000」のハッチ。こういうのを実際に触れられるのは嬉しい

1,000mまで潜れる無人探査機「ピカソ」(写真右)と、メタンハイドレートや海底熱水鉱床など、海底資源の探査が可能な深海探査船「ゆめいるか」(写真左)
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