東京・上野の国立科学博物館で、2016年11月1日(火)から
特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」が開催、さっそく行ってきました! 洞窟を精巧に再現した空間で見る壁画は迫力満点、クロマニョン人の息吹も感じられ、彼らはなぜ洞窟に壁画を描いたのか? それぞの壁画の意図することは? などなど、2万年の時を超え、われわれの祖先に想いを馳せる非日常を、子どもと一緒に楽しめます。(2016年10月31日(月)取材)
まるで洞窟の中で壁画を見ているかのような体験ができる特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」
世界遺産にも登録、洞窟内でクロマニョン人の描いた色彩画を体感!
フランス南西部のヴェゼール渓谷にあるラスコー洞窟には、今から2万年ほど前の旧石器時代、クロマニョン人によって描かれた牛や馬などの動物たちの彩色画が壁面に残っています。
ラスコー洞窟の壁画は、クロマニョン人が描いた数ある壁画の中でも色彩の豊かさや技法、描かれた動物の数と大きさなどが格別に素晴らしいと言われ、1979年に世界遺産にも登録されました。
特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」では、現在は保全のために非公開となっている世界遺産の壁画を、最新テクノロジーを駆使して1ミリ以下の精度で再現、まるでラスコー洞窟に入り込んだかのように、目の前に実物大の壁画が甦ります。
ラスコーの洞窟について説明をする国立科学博物館 人類研究グループ長で同展の監修を務める海部陽介氏
クロマニョン人の謎にも迫る!
なぜクロマニョン人がこのような壁画を描いたのかについて、国立科学博物館 人類研究グループ長で同展監修を務める海部陽介氏は、「クロマニョン人はホモ・サピエンスで私たちの祖先にあたる人類。アフリカからヨーロッパに移住してきたグループをクロマニョン人と呼び、東側に移動したホモ・サピエンスが私たち日本人の祖先になりますが、そもそもアフリカにいた共通祖先が、絵や音楽、言葉などの芸術的な能力を持っていたはずで、その証拠がアフリカで少しずつ出始めています」と説明。
そして今回の展覧会では、普段は写真でしか見ることのできない、クロマニョン人が実際に使用していた実物の道具や美術品も見られる貴重な機会。壁画も洞窟を模した特別な空間の中で見ることができるため、その素晴らしさを体験してほしいと同展の魅力を紹介してくれました。
2万年前、私たちの祖先がどのようなことを楽しみに、どんな生活をしていたのか、同展からのヒントをもとにさまざまな想像を楽しめそうです。そして親子で、今につながるその奇跡も実感できそうです。
特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」は、2017年2月19日(日)まで、東京・上野の国立科学博物館で開催!
【開催概要】特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」
【開催発表】「ラスコー洞窟」発見の経緯も、特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」開催概要発表会
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ラスコーの洞窟を紹介しているスペース。洞窟内にはいくつかの部屋や通路があり、すべての長さを足すと200メートルほどになる。そのひとつひとつの部屋を3次元造形技術で1/10の模型で復元
1/10の模型は、ひとつひとつの部屋や通路に描かれた壁画とともに紹介
模型内部には人物も置かれ、その大きさもわかるようになっている
レーザースキャンで精度1ミリ以下でスキャンした精巧な壁面に、デジタルマッピングなどの技術も使って本物と違わぬクオリティで復元したラスコー洞窟。実際に洞窟内に足を踏み入れたかのような臨場感を味わえる
「大きな黒い雌ウシ」の壁画には、黒い牛のほか、後ろ足で立ついななく馬や小走りの馬など、さまざまな状態の馬が20頭ほど描かれ、クロマニョン人の観察力をうかがうことができる。牛の下には謎の記号も刻まれている
壁画にはブラックライトを当てることで線刻を浮かび上がらせる仕掛けを施した。残っている壁画からは見えない、スケールの大きな絵が浮かび上がってくる
シカの群れが川を泳いでいる渡る様子に見える「泳ぐシカ」
「背中合わせのバイソン」。バイソンが交差しているお尻部分は濃淡を付けて立体的に見せる技法が使われている。また体の一部が赤いのは、春になると起こる毛色の変化を表している
ラスコー洞窟内でもっとも深い場所にある「井戸状の空間」に描かれてる「井戸の場面」。左にケサイ、中央にはラスコーの壁画で唯一描かれている人類、そして右にはバイソン
バイソンのお腹からは腸(はらわた)が出ているよう。槍が刺さっているようにも見える。また人の頭は鳥の頭の形をしていることから、この人物は仮面を被ったシャーマンでは、という解釈もある
会場内のところどころにある説明パネルには、この鳥人間が描かれている
壁画にはすべて説明パネルが設置されている。「ラスコー洞窟のランプ」は「井戸の場面」で発見されたそう
同展ではクロマニョン人のつくった美術品も展示。「さまざまな美術品の中でも『体をなめるバイソン』は特に見てほしい、特別に貸していただいたもので、日本で見られることはもうないかもしれない」と、学術協力をされた五十嵐ジャンヌさん
「体をなめるバイソン」は、トナカイの角を彫ってつくられた1万5,000年以上前の彫刻。美しい毛並みや、舌を出して体をなめているのがわかる
マンモスの牙でつくられた、ハイエナのような動物が彫られた投槍機。投槍機は槍を速く遠くに飛ばす道具で、クロマニョン人以前のハイデルベルグ人やネアンデルタール人と比べ、クロマニョン人は動物に襲われた傷が圧倒的に少なかった。投槍機により動物に接近する必要がなかったからだ
マンモスの牙からつくられた「ウマの彫像」。細部まで美しく表現されている
「大型月桂樹葉形尖頭器」。槍先だが厚みが0.9ミリとあまりに薄くて実用的ではない。これは技術を誇る意味があったと思われる非常に貴重な資料
「井戸の場面」で発見された「ラスコー洞窟のランプ」は、発見時には火を付けていた木炭も残っていた。「ラスコー洞窟のランプ」は、実物がはじめてアジアに上陸
クロマニョン人は、今と変わらぬような縫い針もつくっていた。そのような資料から、衣服を着ているクロマニョン人の復元モデルを製作
人類史60万年のうち、クロマニョン人はたった4万年ほど。しかし彼らの前に存在していた人類の原始的な特長は失い、次々と新しい技術革新を行った
クロマニョン人が壁画や彫刻のモチーフにした当時の動物たち。化石はオオツノジカ。後ろのパネルには実物大でハイエナやライオン、ケサイやマンモスが描かれている。クロマニョン人は、このような動物たちと一緒に生きていた
「ヨーロッパ60万年の人類史」。クロマニョン人の前にはハイデルベルグ人、ネアンデルタール人が存在し、それそれ30万年ほど変化なく存在していた
埋葬された人骨の頭には貝殻による装飾が施されている