子どもの頃から多種多様な英語の発音を聞かせる
先生や親御さんの意識改革が必要
ー 先生ご自身は小さい頃、どのような英語教育を受けてこられたんですか?
私は普通の公立学校を出ているんですが、家が米軍の厚木基地のすぐ近くだったのでアメリカ人がたくさんいて、おいしそうなチョコレートを持ってて、それをもらうために、ちょっとヤジみたいな言葉を投げかけたり、まぁ、けなしあいみたいな、国際交渉ですかね、そんなことをしながら会話力を身に付けました(笑)。昭和40年代ですから、そういう時代でした。
ー 今ではあまり真似のできない勉強方法ですね(笑)
あとは父親が画家で、特に中近東の人、非英語圏の外国人が近くにいる環境でした。だから外国人や外国には興味はありましたが、語学にはそんなに興味はなかったんですよね。でも外国人と話をしたり楽しむには語学を学ばなければならない。それがたまたま英語だったのかな。英語は学校の授業でもやってくれますし。でも学校の授業はあんまりちゃんとやらなくて、短波ラジオで雑音混じりのBBCを聞いたり、BBCが聞こえてくると嬉しいんですよね。あとはアマチュア無線で海外の人と話していました。
おもしろいのは、アマチュア無線って技術的に南北の方が通じやすくて、日本からだとオーストラリアとインドネシアがつながりやすいんです。だから私は今でもオーストラリアとインドネシアの地名には強いですよ。「メルボルン」ってありますよね。でもオーストラリアの人たちって「モルボン」のように発音するんです。だから私は「メルボルン」と「モルボン」が同じ街だというのに20年ほど気が付きませんでした。「ブリスベン」は「ブリスバイン」とか。
また当時は英語で話していたからインドネシア語があるとは知らなくて、でも無線の最後は「センキュー、テレマカシー」と言うんです。あまり気にしていませんでしたが、10年くらいしてから「アパカバール(元気?)」と「テレマカシー(ありがとう)」はインドネシア語だったんだと気が付くわけです。そういうのはたくさんありますし、そういうのがおもしろいですよね。そんなふうに勉強していました。
私は飛行機の写真を撮るのが趣味で、羽田や成田なんかに行って撮影するんですが、以前は飛行機にも時刻表があって、それを集めるのが好きでした。飛行機の時刻表を見ていると地名を覚えるんですよ。Anchorage(アンカレッジ)とかPhnom Penh(プノンペン)とか。そういうのって、その時は役に立たないけど、20年後、30年後に役に立つんです。今でも地名のスペルには自信がありますよ。
人間の記憶って、コンピュータで言えばメモリの部分とハードディスクとモニタに相当する部分があって、ハードディスクに記憶したけれどファイルがどこにあるかわからないと思っていたものが、何かのきっかけで突然出てくる、新たなことに気が付く、それでいいと思うんですよね。「モルボン」って「メルボルン」なの! みたいな。今の児童英語教育の多くはモニタに鮮やかに映すことばかり一生懸命で、残念ながらハードディスクに記憶される前に消えてしまうんです。将来、子どもたちがハードディスクから記憶が取り出しやすいように入れておいてあげたいですね。
ー それにはやっぱり趣味とか、好きなことにつなげてあげるといいんですね。
好きなことについて学ぶとよくわかる。だから子どものことを一番よく知っている親が興味のあることにつなげてあげるといい。だからこそ、英語を教えるのは身近な先生がいいんです。子どものことを良く知っていますから。
ー 子どものうちは耳が良いから、ネイティブの発音を聞かせなさい、ということもよく聞きますが‥‥。
私は逆に、耳が良いからこそ多様な発音を聞かせた方が良いと思います。耳が良いのは聴覚が優れているという意味ではなくて、まっさらな状態ということです。だからネイティブしか聞かせないと、それしか聞き取れなくなってしまいます。柔軟な子どものうちに英語の中でもいろいろなバラエティ、発音もそうですし、みなさん地理的なものしか考えないことが多いですが、おばあちゃんが話す英語と若い人が話す英語は発音が異なります。いろいろな声の質を聞かせることで許容範囲が広くなるんです。80%が英語のネイティブスピーカーではないんです。ネイティブだけが話すCDを繰り返し聞いていると、それ以外が聞き取れなくなってしまいます。
ー 今まで思っていたことと真逆のお話、ネイティブじゃない方がいいとか、小さなうちからネイティブ以外の発音を聞かせた方がいいとか、子どもはすぐに馴染むと思いますが、親御さんや先生の意識を変えるのが大変そうですね。
そこが一番難しいですね。
大人の方へ英語習得のアドバイス
ー 私自身、今からでも英語を、と思っていて、大人が今から英語を勉強するのに一番効果的な方法はありますか?
まずは自分の趣味や、自分が使う範囲の英語ですよね。私なんかは旅行をすると、怒られるかもしれませんが、いかに航空会社に文句言ってアップグレードを引き出すかです(笑)。私はコンフリクト・レゾリューション(Conflict Resolution:対立解決)という交渉の授業も受け持っていて、苦情処理のロールプレイをやるんですけど、おもしろいですし、勉強になりますよ。
あとは理解ができればいいのか、自分から発信したいのかにもよりますね。理解したいだけなら、自分の好きな分野の本をたくさん読めばいい。大学ではインターネットテレビを流していますが、BBCやCNNなど、どこの放送局を入れるかで揉めましたが、最終的に「NHKワールド」に決定しました。NHKワールドは、発音がどうとか言う人もいますが、ここは日本のニュースを放送しているので、学生は他のニュース番組で得た知識からなんとなく内容の想像ができたり、この日本語はこの英語に相当するということがわかるんですよ。「熱帯低気圧」って「トロピカルストーム」って言うんですね、なんて学生が言ってくる。そこで「今日、発見した単語は?」とやらせるんです。そうすると単語が増えていきますね。
発信したい場合は、まずは発する状況をつくることです。状況がないから発せないんです。私は飛行機が好きだから、米国に留学していたときは航空会社のトールフリーナンバー(電話をかけた側は通話料のかからない「フリーダイヤル」)に電話をかけて、絶対にあり得ない日程の飛行機の予約の交渉をするということで訓練していました。相手には申し訳なかったですが、そればっかりやっていました。
「聞く」「読む」「書く」までは自分でできますが、やっぱり話すのは必要がないとできないんですよ。通販の会社に商品についての質問をするとか。学生にやらせるのは、アメリカの州の観光局に連絡をして資料や何かをもらうことをさせるんです。それで成績をつけると言ったら必死で電話や手紙を出して、地図を送ってもらうことが多かったですが、アラスカから熊のぬいぐるみをもらった学生がいて、「A」をつけましたよ。そうやって、多少強引でも状況をつくるといいですよね。
ー 最後に、先生がこの「Angie & Tony」に込めた想いを教えてください。
いっぱいあるんですけど、英語を勉強することによって、日本語力も伸ばすことができると思うんですよね。「Angie & Tony」では、そこまで考えたつもりです。英語が切り口になっていますが、子どもの言語能力開発教材、言語の土台づくりの教材だと思っています。
そして言語を勉強するということは、友好的に相手を理解して平和をもたらすということです。だから究極的には、これが子どもたちのコミュニケーション能力の基礎になり、コミュニケーションをとることで、自分たちがこれからの世界を担っていくんだ、そういう想いの基礎になればと思っています。
インタビュー後記
私自身、幼い頃から英語を勉強していますが、外国人の方と英語で意思の疎通が自由にできるというところまでは習得できていません。子どもはなるべく苦労しないよう、小さいときに英語に触れさせていたこともありますが、これで本当に英語を習得できているのかなと、実感がほとんどなかったこともあり、いつの間にか英語から遠ざかってしまいました。今になって思うと、英語については、ちょっと申し訳なかったなと、後悔しています。
今回の小田先生のお話、ネイティブじゃなくてもいい、そして発音なんて気にせず、それこそ親が英語を、それも話す英語を教えてもいい、というのは、とても衝撃的で、多くの方に新しい気づきと勇気を与えてくれたのではないでしょうか。正しい英語を話さないと恥ずかしい、きれいな発音じゃないとかっこ悪いと思いがちですが、大切なのは想いが伝わることです。日本語だって、果たして正しいのか、きれいなのかは、考えてみるとかなり怪しいですよね。特に大人の場合は、そういう心の壁を取っ払うことも重要だと感じました。
子どもたちが「Angie & Tony」で楽しみながら英語を身につけ、将来、海外の方と自由にコミュニケーションができるようになることを願って止みません。日本人の可能性が、一段階あがるように思います。
「キッズイベント」でも海外の俳優さんや映画監督の方にインタビューをさせていただくことがあります。2020年の東京オリンピックに向けても、もう少し英語でコミュニケーションがとれるよう、私も子どもたちに負けないよう勉強しようと、思いを新たにしました。
幼児英語プログラム「Angie & Tony」
世界にネットワークを持つグローバル企業のブリタニカが、グローバルに活躍できる子どもたちを育成することを目指して開発した、幼稚園・保育園向けの幼児英語プログラム。「すべての幼稚園・保育園の子どもたちに英語の時間をプレゼントしたい」。そんな思いでつくった幼稚園教諭・保育士が主体の新しい英語プログラムです。
【 Angie & Tonyの3つの特徴】
① 担任の先生が主体!
② 保育中に使えるフレーズが満載!
③ 高品質・低予算が実現!
小田眞幸(おだ まさき)
玉川大学文学部卒業後に渡米、セントマイケルズ大学修士課程(MA in TESL/TEFL)、ジョージタウン大学博士課程(Ph.D. in Applied Linguistics)を修了後、同大学中国・日本語学科講師を経て、現在、玉川大学文学部教授、ELFセンター(CELF)長。専門は言語政策・言語計画、マスメディア論、批判的ディスコース研究。JACET学術交流担当理事、AsiaTEFL副会長、AILA言語政策部会アドバイザー。
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