書籍『登り続ける、ということ。』著書/世界的アルピニスト

アルピニスト・野口健さんインタビュー!

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
世界的アルピニスト野口健さんにインタビュー。野口さんの子育てについてもお伺いしました!(写真提供:野口健事務所)
世界最年少(当時)で七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニスト野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、ネパール地震や熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた児童書『登り続ける、ということ。ー 山を登る 学校を建てる 災害とたたかう』を上梓しました。「ヒマラヤの悪天候とコロナ禍の状況は似ている」と言う野口さんに、よりよく生きるために、子どもたち、そして親子に必要なこと、さらに野口さんのお父様の子育て、そして一緒に山登りをしている娘の絵子さんの子育てついてお伺いしました。野口さんと絵子さんとの親子関係は、とても理想的。子育ての参考になるお話がたくさん!(インタビュー:2021年4月17日(土) / TEXT:キッズイベント 高木秀明)

自分は何がしたいのか?
足を止め、自分と向き合う

ー 書籍『登り続ける、ということ。ー 山を登る 学校を建てる 災害とたたかう』を拝読させていただきました。野口さんの登山やさまざまな活動に対する想いがとてもよくわかりましたし、共感するところもたくさんありました。この書籍を書こうと思ったのは、どのようなきっかけからですか?

ヒマラヤで悪天候に見舞われると1週間くらいテントの中に閉じ込められるんですが、そんなときはじっくりと自分と向き合って会話をするんです。今回の新型コロナウィルス感染症の状況(以下、コロナ禍)は感覚的にはそれと似ていて、今までずっと走り続けていた足を止められてしまいました。そこで自分と向き合い、今までの活動を振り返り、次にどう進むかを整理していく中で、小学生に向けた本は『あきらめないこと、それが冒険だ エベレストに登るのも冒険、ゴミ拾いも冒険!』(2006年)以来出していなかったこともあり、その後の活動について、まとめてみようと思いました。

今はネパールポカラという町にサマ村に次ぐ2つめの学校を建設中で、まもなく完成します。サマ村に森を復活させる植林も続いているし、いろいろな活動が同時進行していて、コロナ禍の前は自分は何屋なのか、どこへ向かっているのか、何がしたいのかがわからなくなることもあって、この1年は本を書くことで自分の活動をシンプルに捉え直し、気持ちの整理をすることができました。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
コロナ禍の影響でインタビューはZoomで。野口さんは山梨県にある築300年の家屋から(写真提供:野口健事務所)

ー コロナ禍が続いて人との交流がなくなったり、家に閉じこもらざるを得なかったり、不自由や不安を感じている人がたくさんいます。登山では自然相手で思い通りにいかないことがたくさんあると思いますが、どのようにして平静を保ったり、気持ちを切り替えたり、そのような状況を乗り越えていますか?

僕もコロナのような状況は初めての経験なので、最初はもがくというか、心が安定しなかったですね。特に昨年(2020年)の4月〜5月は今よりも世の中に閉塞感があって、山梨県に住んでいるんですが、東京から来た人たちへの視線は厳しく、コロナも怖いけど人の目の方が怖い、そんな感じでした。

ここ15〜16年くらいは毎年2回はヒマラヤに行くのが当たり前になっていましたが、ヒマラヤはもちろん国内の登山もできなくなりました。5月に緊急事態宣言が解除され、ようやく7月に八ヶ岳天狗岳に登りました。天狗岳は15歳のとき、僕が人生で初めて登頂した山なんです。当時、バスから見る八ヶ岳はでかいし、本当に登れるのか不安に思いながら見上げていました。でも初心者もベテランも1歩の大きさにそれほど違いはなく、その積み重ねで信じられないけど頂上まで行けるんです。

僕の登山は八ヶ岳から始まり、“いつかはヒマラヤ!” と思って日本の山でコツコツと練習を重ね、1999年の25歳のときにエベレストの登頂に成功し、世界最年少(当時)での七大陸最高峰登頂につながります。久しぶりの八ヶ岳登山で原点に戻り、また1からスタートしようという気持ちになりました。

だから僕の場合は、“原点に戻る” ことで気持ちを切り替えることができました。忙しい毎日でなかなか足を止める機会がない方は多いと思いますが、このコロナ禍は少し足を止め、自らと向き合い、原点を思い出し、これからを考える、そういうきっかけにしたいですよね。そうしないと、コロナは単なる不幸な出来事になってしまいます。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
25歳、当時の最年少記録で世界七大陸最高峰登頂に成功。写真は2007年2回目のエベレスト。頂上付近にて(写真提供:野口健事務所)

“夢” がないサマ村の子どもたち
“本” は心の中にまくタネ。いつか何かが芽生える

ー 書籍には失敗や自由に対する考え方、勉強すること、いじめの対処法、自分に何ができるかなど、多くの子どもたちが悩むことに対して具体的に野口さんの考えが書かれていて、とても参考になると感じました。

サマ村に学校をつくり、子どもたちが通うにあたってランドセルが必要になります。日本で使わなくなったランドセルを集めて、当時中学生だった娘の絵子も連れていったんですが、6年も使った中古のランドセルをあげて喜ぶのか、絵子はとても不安に思っていました。でも一人ひとりに手渡すと、子どもたちは走り回って喜ぶんです。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
サマ村では学校づくりや、それにともなうランドセルの配布、森づくりなど、さまざまな支援活動を実施している(写真提供:野口健事務所)

日本では小学校に行けるのが当たり前ですが、ネパールでは貧困やカーストという身分制度による差別の問題などで学校に行けない子どもたちはとても多いんです。村を歩いていると、紙とペンを差し出されて自分の名前をネパール語で書いてくれと言われることがあります。書くととても喜んで、真似して書いて練習するんです。自分の名前を書けることがとても嬉しいんです。

絵子からすると日本では当たり前すぎて、「学校に行く、字が書ける、本を読める」ことを特別嬉しいと感じたことはないと思いますが、ヒマラヤの子どもたちはこんなに嬉しそうに文字を書き、学校に行くんです。そのことを日本の小学生くらいの子どもたちにこそ伝えたいなと思って、この本を書きました。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
お揃いの制服、そしてさまざまなランドセルで学校に通うサマ村の子どもたち(写真提供:野口健事務所)

ー「つまらない」「嫌い」などと真面目に勉強しなかった自分が恥ずかしいです。

僕もそうでした(笑)

ー しかし、今もそういう子どもたちは多いと思います。「なぜ学校へ行かなければならないのか?」子どもたちのこの問いに、野口さんはどのように答えますか?

15〜16年くらい前、サマ村の子どもたちに特に深い意味や意図もなく「みんなの夢は何?」と質問したんですが、会話が噛み合わないんです。するとシェルパが「その質問は意味がない」と言うんです。
※シェルパ:ネパールの少数民族のひとつ(シェルパ族)で、エベレストをはじめヒマラヤ登山をサポートする山岳ガイド

サマ村はネパールの首都カトマンズから徒歩約10日、道もない3,600メートルの高地にあります。自然環境の厳しい人口1,000人ほどの村で、当時は電気も病院も学校も主な産業もなく、村人は自給自足の生活でした。多くはそこで生まれ、親の手伝いをし、そのまま大人になり、村の外に出ることもなく一生を終えます。そうすると “夢” という概念がないんです。“夢って自然に抱くもの” と思っていたので、とてもショックでした。

僕は小学生の頃、『ドリトル先生航海記』という本を読み、登場する場所を地球儀で想像してワクワクしていました。自分が夢を抱いたきっかけは “本” だと思い、それでサマ村に図書館を、学校をつくりたいと思ったんです。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
2010年、サマ村に完成した校舎(写真提供:野口健事務所)

植村直己さんの本の影響で山に登り始めていますよね。

そうです。もう少し大きくなった高校時代ですけどね。だから停学中に植村直己さんの書いた『青春を山に賭けて』と出会わなければ、まったく違う道に進んでいたでしょうね。たった1冊の本で人生が変わるんです。

何がその人の人生に大きく影響するかはわかりませんが、本は心の中に植えるタネだと思うんです。いつか何かが芽生えるかもしれない。だからサマ村の子どもたちにも本を読んでほしいと思いました。

そして学校は勉強するだけでなく、自分より足が早かったり、勉強ができたり、いろいろな子がいて、悔しい思いや嫉妬をしたり、いじめ、いじめられたり、屈辱を感じたり理不尽なこともあったりする場所です。そういう経験から、どうすれば自分を認められるようになるかを考えることが大事なんです。それは人間関係の中でしか学べないんですよね。友だちとの助け合いも自然と学べますよね。




多様な考え、価値観を与え
子どもたちから、世界を変える

ー サマ村の学校で勉強した子どもたちの多くが将来の夢を持ちました。サマ村の学校ができて10年ほど経ち、当時の子どもたちはいま青年となっていますが、教育を受けた子どもたちが大きくなり、サマ村に何か変化はありますか?

村全体が変わりましたね。学校って村にとってひとつの文化的な象徴になるんですよね。だから学校が「やろう」と言ったことに対して、村の人たちも「やろう」となっています。そしてそれは、子どもが大人を変えているということでもあるんです。大人からはなかなか変わりません。

ヒマラヤの村の多くは木を切ってチベットに売って収入を得ていたんですが、植えるという文化がなく収入が減っていきます。冬虫夏草という薬にもなるきのこが中国や韓国へ高値で売れるので、他の村の人が自分の村に近づくと、サマ村のように平和なところでも、そうした資源をめぐって殺し合いになるんです。書籍にノーベル平和賞を受賞したケニアの自然保護活動家ワンガリ・マータイさんが出てきますが、マータイさんがアフリカに木を植える「グリーンベルト運動」を始めたのは、環境問題ということもありますが、資源をつくったという意味も大きいんです。資源がなくなると、人間は争いを起こしますから。

サマ村の森の復活も、最初、大人は誰もその必要性を理解できませんでした。しかし子どもは早いですよね。すぐにわかってくれる。そして “わーっ” と集まって苗木を植えに行く。子どもに伝え、子どもが中心となってやることで家族にも伝わります。大人が大人に伝えるよりも、その方が伝わりやすいということがよくわかりました。学校がなかったら、森づくりはもっと苦戦していたと思います。

サマ村に森をつくるというのは、みんなで資源をつくる、殺し合いから離れることにもつながります。争いごとも減った気がしますね。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
サマ村での森づくり。植林を伝える看板の前で(写真提供:野口健事務所)

カースト制度の問題からは引けない
体験したからこそ、寄り添える

ー 日本の高齢の政治家の方の発言を聞いていても、幼い頃に刷り込まれた価値観を変えるのは難しいと感じるとともに、子どもに伝えていく大切さを実感します。

サマ村はカースト制度があり、当初、低い階級の子どもたちは教室に入れませんでした。雨が降っていても、外で傘をさしながら授業を受けていたんです。カースト制度のことはもちろん知っていましたが、僕がつくった学校の中で、差別は絶対に嫌だった。

そこで夜に大勢の村人を集めて、何時間もこの問題について話し合いました。「カースト制度を否定するつもりはないけど、学校の中には持ち込んでほしくない」と。しかし彼らには差別が当然で、お酒も入るし、“カーストのことには触れるな” みたいな感じになってくる。彼らは短刀を持っていて身の危険も感じましたし、カーストの問題はタブー中のタブーなので、強行したら学校に火をつけられるかもしれないとも思いました。実際にカーストの問題では殺人も起きていて、これ以上踏み込むと危ないというところまでいったけど、僕はこの問題は絶対に引けなかったんです。

村人は僕にあれをつくってほしい、これをつくってほしいと簡単に言いますが、僕は金持ちでもなんでもなくて、毎回多くの人から寄附を集めています。これはけっこう大変で、とても努力をしているんです。「では、みんなの努力は何? サマ村は僕の村ではなく、みんなの村なので、僕より努力をしなければならないんじゃないか」という話をしました。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
カースト制度の問題は、書籍では穏やかに書いていますが、実はもっと激しいやりとりがあって、ちょっと危ないときもありました

酔っ払ったお爺さんは “わー!” って叫んでて理解してもらうのは無理だと思ったけど、学校の若い先生たちや、僕より少し年上の村長さんには伝わりました。でもあの世界にいると、そう思っていてもはっきりとは言いづらいんです。村八分にされたり、本当に刺されることもありますからね。

でも若い先生たちが動いてくれて、学校の子どもたちに「みんなでご飯を食べてもいいよね」「手をつないでもいいよね」という話をした。そうすると、子どもたちは何の抵抗もないんですよ。数年後にサマ村に行ったときには、みんなが教室で授業を受け、手をつないでダンスパーティをやっていました。

いまでは学校での生活はもちろん、大人たちと一緒に植林もしています。若い人が変わると高齢の人も変わります。学校から広げていくのは早いなと思いました。

ー 今はLGBTQやジェンダーなど多様性が叫ばれています。ハーフという表現が良いかはわかりませんが、野口さんはハーフというマイノリティで、幼少期にいじめも経験しています。子どもの頃に多様な考えや価値観を持ってもらうことで、カースト制度も含め、差別はなくなっていくでしょうか?

そう思いますね。僕が子どもの頃はハーフというのはいじめられたので、絵子はクォーターですが小学校に入ったときは心配でした。でも講演で小学校に行くと、ハーフが増えたと感じますね。東南アジア、イラン、いろいろな国とのハーフの子がいます。だからハーフへのいじめも、昔に比べると減っているようですね。

僕が大学生だった1993年頃、月1万7,000円くらいの家賃のアパートを借りようと思って不動産屋に行ったら、「外人と混血お断り」と言われて、とてもショックでした。「野口健」という名前で日本語も問題なく話せるのにアパートにすら住まわせてくれないのか、と。そういう時代でした。

僕がネパールのカースト制度にすごく敏感なのは、僕に差別された経験があったからかもしれません。たくさんの人に「そこまでムキになるな」とか「面倒なことに首を突っ込まない方がいい」と言われましたが、どこかで僕自身が差別されたことが残っているんですよね。

だから、いじめられることも差別されることも、そのときはもちろん辛いけど、すべてがマイナスではないとも言えます。いま絵子はニュージーランドに留学していますが、このコロナ禍で、街中で白人から体当たりされたり、「国に帰れ」とか「コロナ! コロナ!」と言われたり、アジア人差別を受けたそうです。絵子にとっては人生初の差別で、とてもショックを受けて落ち込んでいました。

でもこれはある意味では、とても貴重な経験で、自分が原因じゃなくても理不尽ないじめや差別を受けることがあるんです。辛い出来事だけど、経験した人はその気持ちがわかるから、差別をしてはいけないことがわかるし、受けている人に寄り添うこともできる。そして、いじめや差別が極めて人間的な行為だということも学べます。絵子には「貴重な経験だよ」という話をしました。日本にいてはアジア人差別は受けないですからね。

いろいろな現場に連れて行く
僕の親父の子育てで、娘を育てる

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
2019年、タンザニアのメルー山で娘の絵子さんと(写真提供:野口健事務所)

ー 以前テレビで、ヒマラヤに登るトレーニングを日本の山で絵子さんと一緒にしているのを観て、とても良い親子関係だなと感じました。野口さんはどのような子育てをされているんですか?

親父が僕にしたのと同じやり方ですね。僕の親父は外交官だったので、例えばエジプトなら難民キャンプやスラム街などの現場にやたらと連れて行かれました。そして、「世の中にはA面とB面がある」と。

ピラミッドは観光地です。高級ホテルが立ち並び、観光バスがひっきりなしにやってくる華やかな場所。しかし30分くらいしか離れていないところにスラム街があります。下水もなくて臭いし治安も悪い。ピラミッドはA面、スラム街はB面ですね。その対比は子どもながらに衝撃的でした。そして親父は「世の中のテーマはB面にある。だからB面を見ろ」と言っていました。

いま僕がやっている「シェルパ基金」は、エベレストのB面ですよね。登山家は登頂すればニュースになるけど、その影でシェルパが亡くなっても誰も取り上げない。ゴミの問題もそうです。清掃をするまでエベレストのゴミは一般に知られていませんでしたし、富士山も遠くから見ればきれいだけど、樹海は不法投棄の山。どちらもB面です。僕は沖縄の戦没者の遺骨収集もやっていますが、リゾートホテルがある一方、ガマ(洞窟)に入ればまだまだ遺骨がたくさんあるんです。ガマの中で遺骨を見つけると、これも観光業の盛んな沖縄のまた別の面だなと思います。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
2000年から続けている富士山の清掃(写真提供:野口健事務所)

僕はいろいろな活動をしていますが、それは子どものころ親父にたくさんのA面とB面を見せてもらい、「B面だぞ、B面」と言われたのがどこかに残っていて、僕の人生に大きく影響しています。なので娘にどのように接していくかと考えたときに、勉強を教えることはできないから、いろいろな現場に連れて行こうと思いました。

小学生のときから一緒に山に登ったり、3.11の震災も、直後は無理だったけど10ヵ月後に被災地へ連れて行きました。あの頃はまだ瓦礫もたくさんあって震災の爪痕がものすごくリアルな状態でした。被災地に行くと、いろいろなものを見すぎてしまうし、背負ってしまうので精神的に疲れ果てて東京に帰ってくるんですが、東京は何事もなかったかのように能天気な感じでギャップがすごいんです。しかたのないことなんだけど、このギャップは体験した方がいいと思って絵子も連れて行くことにしました。現場に行かないとわからないことってたくさんあるんです。

熊本ではテント村でトイレ掃除をさせたり、ヒマラヤのランドセルもそうですが、現地の人に喜んでもらえると嬉しいんですよね。それがやりがいになってくる。ネパールの活動は絵子が将来引き継ぐと言い出したので、洗脳はうまくいっていますね(笑)。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
2000年から4年間、世界各国の登山隊と協力して行ったエベレストの清掃。写真は捨てられていた大量の酸素ボンベ(写真提供:野口健事務所)

子どもたちが明るいと、大人が救われる
避難所での子どもの役割

ー 野口さんご自身も被災地に行くと精神的にキツイとおっしゃっていましたが、絵子さんは大丈夫ですか?

「トラウマになるんじゃないか?」とか、けっこう言われましたが、娘の様子を見ながら、あまりにもキツそうなら途中で引き返せばいいと思っていました。でも、何か手伝いをして喜んでもらい「ありがとう」と言われると嬉しいんです。ボランティア活動って、嬉しくないと続かないんですよね。

そしてずっと被災地にいて思ったんですが、子どもの役割ってすごくあるなと感じています。避難所って基本的に大人は暗いんです。失ったもの、背負っているものが多いから。でも子どもたちはけっこう明るい。テント村でうちのスタッフとサッカーやかけっこをして遊んでるんです。そして子どもたちと遊んでいると、だんだん親もそれに加わって、会話するようになるんです。子どもたちが明るいと、大人が救われていくんです。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
2016年、熊本大地震のときのテント村(写真提供:野口健事務所)

避難所ってどういう雰囲気をつくっていくかがすごく大事なんですが、子どもたちが楽しそうな避難所じゃないと暗くなりますね。子どもたちはお年寄りに重い水などの救援物資を運んだり、トイレのサポートもやる。熊本大地震のときのテント村では子どもたちと大人たちがお互いに支え合っていました。するといい雰囲気になって一体感が出て明るくなる。

雨風をしのげるのはもちろん大切ですが、家族や家を失った、いろいろなものを失い、いろいろなものを背負っている人たちが、仮設住宅ができるまで、次の新しい生活に向けていかに気持ちを切らせないかが重要で、少しでも前向きになれる空間が必要なんです。そこに子どもたちの存在ってものすごく大きいんです。

僕の活動は子どもたちとのコラボが多いんですよね。だから環境学校も、この書籍もそうですが、子どもに何かを教えるというよりも、一緒にアクションして広めていきたい。その方が可能性を感じます。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
熊本のテント村に子どもたちが救援物資をもとに開いたコーヒーショップ。喜んでもらえることが嬉しくて、やっている子どもたちが大人以上に喜んでいた。日に日にコーヒーの種類が増えたり、いろいろとレベルアップしたそう(写真提供:野口健事務所)

ー 子どもを被災地に連れて行くのはハードルが高いので、日常で何か一緒にできることはありますか?

例えば子どもたちの通学路のゴミ拾いはどうでしょう。これは絵子が小学生のときに僕がやったことです。毎日通っている道なので「よく知ってる」と言うから、「本当に知ってるか?」と。本気でゴミを拾おうとすると、ベンチの下とか、自動販売機の裏とか、普段とは異なる目線、異なる角度で通学路を見直します。そうすると、こんなところにたくさんのペットボトルがあるとか、“ハッ” とするんです。発見がある。近所の公園に行くときもゴミを拾おうとなったり、だんだん僕よりも娘の方が多くのゴミを拾うようになるんですよね。目線が低いからよく気がつくんです。だから、身近にあることでいいと思います。例えば環境問題に興味があれば、“まず自分たちに何ができるか” を考えることですね。

ー 野口さんはそれを楽しそうにやっていそうですね。

そうですね。楽しくないと。そして「どんなゴミがあった?」「なんでそのゴミがあると思う?」とか、ゴミを拾って終わりではなく「じゃあ、どうしたらいいだろう?」とかね。そんな話もよくしましたね。




娘と1ヵ月山の中って「ありえなくね?」
日本人は家族で何かをする時間が少ない

ー それもお父さんの影響ですか? 夕食の時間はかなり恐怖だったとか。

子どもの頃の父親との会話は恐怖というか、本当に大変でした。食事の時間はディベートというか、いきなり質問されて、すぐに答えないといけなかった。自分の考えがないのがダメでした。親父は80歳ですが、まわりの人からは親子でよくしゃべるねって言われます。僕と絵子もそうですね。特にヒマラヤに行くと1ヵ月、テントの中でずっと一緒ですからね。よくしゃべりますよ。

ー 話題は尽きませんか?

毎日山に登っているから、今日はこんなことがあったとか、明日はこうしようとか。あとは娘もよく本を読むので、中3のときかな、キリマンジャロで太宰治の『人間失格』を読んでいて、暗い本を持って来たなぁと思ったんですが、「パパ、これ深いよ」って言うから、昔読んだことはあるんですが、もう一度読んでみたら「こんなにおもしろかったのか!」と。で、2人で『人間失格』のどの部分がどうおもしろかったか、15歳から見る『人間失格』と40代後半の僕から見るのとでは違いがあって、それもまた楽しかったですね。テントの中は暇で時間もあるし、ランタンの光が特別な空間を演出してくれるので、話も弾みます。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
テントの中は特別な空間。写真は2011年にエベレストに登ったときのテントの中の様子(写真提供:野口健事務所)

あと僕も娘も写真を撮るんですが、ゴミ拾いができると写真が撮れるようになりますね。その人の視点が出ますから。お互いの写真を見ながら話をします。

日本の親子って、一概には言えませんが、僕がひとつ強く思うのは、家族で何かをする時間が少ないですよね。絵子が留学しているニュージーランドでは、週末には必ず家族でキャンプに行きます。いろいろなところにホームステイしても、大抵週末は山、川、島などに行って、親子で楽しく過ごしています。

僕が娘とよく山に行っているということを知ると、日本では多くの人が「中学生くらいになるとお父さん嫌いって言わないの?」とか、「よく娘と2人で1ヵ月も一緒にいられるね」とか、僕も言われるけど、絵子も日本の友だちにはよく言われるんです。「父親と1ヵ月山の中ってありえなくね?」「なんなんその親子関係?」って。みんな自分は耐えられないと。

短い時間で濃い関係になれるので、家族でキャンプに行くのはいいと思いますよ。テントを張る、料理するなどそれぞれの役割分担ができるし、自然の中、テントの中、ランタンの灯りって特殊な空間です。絵子も小学生の頃は内気だなと思っていたけど、一緒に山に登るようになってからよくしゃべるようになりました。最近はうるさいですよ(笑)。山とか自然には、人の心を開かせる、そういう力があるんです。

いろいろな活動をしていますが、僕がいま純粋に楽しいなと思うのは、娘とはじめた山登りですよね。コロナがなければ2020年、2021年には6,000メートルの山に登り、それからエベレストに挑戦というイメージをお互いに持っていたんですが、しかたがないですね。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
2019年、親子でキリマンジャロを登頂。あまりの吹雪で写真はほとんど撮れなかったそう(写真提供:野口健事務所)

高い山にはいきなり行くわけではなく、日本の山で15時間ぶっ続けで歩ける体力をつけようと、練習を繰り返します。悪天候のときもあえて行きます。悪天候ってとても大事で、トレーニングで天気がいいときばかりだと、いざ本番で吹雪になったときに精神的に耐えられない。猛吹雪はダメですが、雨や雪が降ってる、寒いとか、そこそこの悪天候、不快な状況下を十何時間ずぶ濡れになりながら一緒に歩く。最初は「寒い」って泣いていたのが、経験を積むうちに「まだ余裕」とか、「これ以上追い込んだらまずい」とか、自分の限界がわかってきます。

実際、キリマンジャロは山頂近くで猛吹雪になりました。他の隊は撤退し、絵子もギリギリの状態だったと思うけど、「やれるか」と聞いたら「やる」というから、「あと2時間あるぞ」って、ちょっと無理したけど登りました。相当寒かったけど、娘もパニックになることなく登りきりました。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
悪天候でのトレーニングが役に立ちました。辛い経験をしておくと、「これくらいならまだ大丈夫」とわかってきます(写真提供:野口健事務所)

「していい無理」「してはいけない無理」
自然の中のプチピンチで生命力を養う

ー 経験を積むことで限界は伸びていきますが、それは書籍にも書いてあった「していい無理」と「してはいけない無理」の境界がどこかがわかってくる、ということですか?

「していい無理」と「してはいけない無理」の話は以前からしていたんですが、山に行くようになって実感として理解したと思います。

ー キリマンジャロのときの絵子さんの「やる」という判断は、「していい無理」だと野口さんも判断されたということでしょうか?

あれは「していい無理」のギリですね。僕も常に絵子の様子は見ていました。でも気持ちが切れていなかったし、弱気やパニックにもならず淡々としていたので、いけるかなと。悪天候のトレーニングを積み重ねていなかったら無理でしたね。

自然の中ってプチピンチがあるじゃないですか。それで生命力が養われていく。だから日本の子どもたちに思うのは、自然体験をもっとしてほしいということですね。西欧人などと比べると本当に少ない。今後は自然災害も増えていきますから、必要なことだと思います。

わからなくてもいいから “最初の一歩” を踏み出す
想いを伝えれば、人は集まる

ー この本を読んだ子どもたちが、アルピニストになりたい! 野口さんと支援活動をしたいという目標を立てたとします。小学生の今、どんなことをしたら、その夢に近づけますか?

いまは真面目な子が多いと思うんですよね。何かアクションを起こすのでも、すごくちゃんと準備をしないと動き出せなかったり、失敗したくなくて慎重になっちゃう。

東北も熊本の地震も被害は大規模で、僕ひとりでなんでもできるわけじゃない。だから何かひとつでいいからできないかなって考えます。それで東北には寝袋を持って行ったし、熊本にはテントですよね。ひとつです。そして活動に行き詰まったら、twitterとかで状況を伝えるとともに「どうしていいかわからない」って言っちゃいます。そうすると、いろいろな人がアドバイスをくれるし、専門家の方がテント村まで来てくれたりします。情報発信すると、毎日テント村にいろんな人が来てくれるんですよ。

だから若い人には、難しく考えずに最初の一歩を踏み出す、わからなくてもいいからアクションを起こそうと伝えたい。わからないことは恥ずかしいことじゃないし、本気ならいろいろな人が集まります。若い人が声を上げるのを待っている大人もたくさんいると思う。

僕の活動も、失敗はたくさんあります。でも過程に失敗があっても、最後ちゃんと形になればいいと思っています。みんな最短距離をめざしたがるけど、僕の人生を振り返っても、けっこう遠まわりしています。そんなに順調じゃないですよ。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
2016年、親子でのトレーニング。冬の八ヶ岳にて(写真提供:野口健事務所)

“コツコツ” のコツのコツを地味に地道に大切に
夢は娘とエベレスト、ずっと一緒に冒険を続けたい

ー 今回の書籍を通して子どもたちに伝えたいことは?

植村直己さんの書籍『青春を山に賭けて』を読んで、「コツコツやる」の一つひとつの「コツ」を大切にすることを学びました。小さなことを大切にする人だったんですね。でも特に登山家は、小さなことをバカにすると、そのバカにしたことに殺されます。疲れていると、ちゃんとザイルを結んだかを確認せず、斜面で体重をかけたら結び目が解けて滑落しちゃうとか、靴にしっかりとアイゼンを着けていなくて、斜面でとれて滑落するとか。小さなことに対して手を抜き、確認を怠ると死んでしまうので、僕らはなおさらその想いが強いんですが、何か目標を持ったときには、小さい “コツ” を大切にしてほしいですね。

高校や大学に講演に行くと、「どうすれば効率的に成功できますか?」という質問って多いんです。一気に駆け上がって成功や夢を掴みたい気持ちはわかりますが、しっかりとした土台がないと一瞬で崩れてしまいます。小さく積み重ねることは、強い土台をつくることなんです。

あとはひとりで全部やろうとしないことですね。テント村も富士山のゴミ拾いもひとりじゃ無理。みんなを巻き込んでいます。だからいろいろな人に、いろいろな形で想いを伝える。仲間を増やして、みんなでやることが大切です。

ー 今後の目標、挑戦、夢を教えてください。

ネパールのポカラにつくっている学校には日本式の教育を取り入れようと思っています。音楽や体育の授業もあって生徒たちがトイレも掃除する。手を洗う習慣をつけ、カースト制度もなくす。図書館もある。それが成功すればネパールにとってひとつのモデルケースになり、真似をする学校が出てきて広がっていくはずです。ひとりでなんでもはできないので、1つのモデルケースをつくりたいですね。学校って校舎をつくって終わりじゃなくて、中身が大切。定期的に通って、先生や生徒とこれからどうしていこうかと話をします。楽しみですね。

あと個人的に楽しいのは、娘とヒマラヤに行くことですね。絵子はエベレストに行きたいと言っているので、それはつまり僕ももう1回登らないといけないということで、娘は若いからいいけど、僕には大変だって話ですよね(笑)。一緒にエベレスト、いつになるかわからないけど、でもずっと一緒に冒険を続けていきたいですね。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。
娘の絵子さんと「ずっと一緒に冒険を続けたい」と言う野口さん。子どもと共通の趣味をずっと一緒に楽しめるっていいですね

インタビュー後記

とても気さくに話をしてくれた野口健さん。しかし考えてみると、世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的なアルピニストなんです。世界七大陸最高峰登頂に成功した人は、宇宙に行ったことがある人より少ないんです。

そんなすごい人が、身を削るようにさまざまな支援活動をしていて、その真っ直ぐなパワーはどこから来るのか不思議でしたが、「子どもの頃の出来事は大きいですよね」とおっしゃる通り、それは自身が受けた差別やいじめの体験、そしてお父さんの教育が源でした。

お父さんの教育、そしてそれを受け継いだ野口さんの子育ては、同じレベルで真似はできなくとも、誰にとってもとても参考になるものだと感じました。野口さんと絵子さんとの親子関係がそれを証明していて、子どもの自然体験、そして家族で一緒に何かをする時間を持つことを、できる範囲で取り入れてみたいですね。

今度はぜひ、絵子さんのお話も聞かせてください。絵子さんから見た野口さん、そして子育てや教育について、どのように感じているか、とても興味があります。

本当にたくさんの話をしていただき、インタビュー記事が長くなりすぎて泣く泣く掲載から外したエピソードも多く、何かの機会にお伝えできるといいなと思っていますが、児童書『登り続ける、ということ。ー 山を登る 学校を建てる 災害とたたかう』にも書かれているので、ぜひご一読いただければと思います。

※世界七大陸最高峰登頂に成功した人は、2011年現在約348人。これまでに宇宙に行った人は、2020年現在で566人(高度100kmを越えたことを意味し、弾道飛行を含む)。なお日本人に限ると、前者は15人(2016年8月時点)、後者は12人(2020年現在)。
(参考)
https://ja.wikipedia.org/wiki/七大陸最高峰
https://iss.jaxa.jp/iss_faq/astronaut/astronaut_010.html
https://kamakura.keizai.biz/headline/392/

登り続ける、ということ。ー 山を登る 学校を建てる 災害とたたかう
学研プラス
1,540円(1,400円+税10%)

世界七大陸の最高峰を当時最年少記録で登頂した野口健さんは、過酷な登山を続けながら、ネパールでの学校設立や植林、国内外での大地震の被災地支援などに取り組んでいく。なぜ、困難に挑み続けることができるのか。野口さんから若い読者へ贈る、ゆるぎない信念のメッセージ。

世界最年少(当時)で世界七大陸最高峰登頂に成功した世界的アルピニストの野口健さんが、ネパールでの学校づくり、エベレストや富士山のゴミ拾い、東北、熊本地震の被災地支援などの活動を通して、子どもたちに伝えたいことをまとめた書籍『登り続ける、ということ。』を上梓。よりよく生きるために、子どもたち、親子に必要なことをインタビュー!娘、絵子さんの子育て、親子で登山についてもお伺いしました。

野口健(のぐち けん)
アルピニスト。1973年アメリカ・ボストン生まれ。亜細亜大学国際関係学部卒業。1999年、エベレストの登頂に成功し7大陸最高峰の世界最年少登頂記録(当時)を25歳で樹立。富士山清掃活動をはじめ、シェルパ基金設立、被災地支援など、環境活動、慈善活動を多く行う。著書に『確かに生きる 落ちこぼれたら這い上がればいい』(集英社)、『あきらめないこと、それが冒険だ―エベレストに登るのも冒険、ゴミ拾いも冒険!』(学研)など。
野口健公式ウェブサイト:https://www.noguchi-ken.com